生物

ユクスキュル『生物から見た世界』を読む

ユクスキュル『生物から見た世界』(岩波文庫)を読む。1973年に思索社版が出て、生態学では必読とされた。読もう読もうと思っていたのに今まで読んでいなかった。2005年に岩波文庫版が出て、それから20年経ってようやく読んだことになる。 冒頭マダニの生態…

志村真幸『未完の天才 南方熊楠』を読む

志村真幸『未完の天才 南方熊楠』(講談社現代新書)を読む。熊楠は驚くべき才能を多方面に発揮しながら、その仕事のほとんどが未完成に終わった。柳田国男とともに民俗学の基礎を築いたものの、途中で喧嘩別れしてしまった。キノコの新種をいくつも発見して…

ツバメの子殺し

マンションの玄関前にツバメの雛が落ちていた。当然もう死んでいる。3年ほど前にも同じことを体験して調べたので知っている。これはツバメの子殺しだ。「バードリサーチ ツバメ図鑑」に子殺しについて次のような解説がある。 ツバメの巣は無傷のまま、中の…

唐沢孝一『都会の鳥の生態学』を読む

唐沢孝一『都会の鳥の生態学』(中公新書)を読む。副題が「カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰」というもの。唐沢は都会の鳥=都市鳥について半世紀以上にわって観察してきたという。その長年の研究実績から具体的なエピソードが満載されている…

松尾亮太『考えるナメクジ』を読む

松尾亮太『考えるナメクジ』(さくら舎)を読む。松尾はナメクジの脳機能の研究者、その長い研究歴から、ナメクジは「論理思考をともなう連合学習」もこなすと断定する。論理思考ができるとは「A=BでB=Cであれば、A=C」といった理屈がわかる、ということです…

落ちていたツバメの雛

娘と駅ビルで待ち合わせ、家を出たらマンションの通路にゴミが落ちていた。よく見ると死んだツバメの雛だった。実はその日の朝も同じ場所で死んでいたツバメの雛を見た。通路の上にツバメの巣があるのだった。娘に少し遅れると連絡して家に戻りティッシュと…

昆虫を見分けるのは難しい

昨日のブログに人は少ない情報から全体を構成できる能力を持っていると書いた。今日はその反対のことを書いてみる。 アブラムシの分類学者の宮崎昌久さんがかつて動物園協会が発行していた『インセクタリウム』に次のようなことを書いていた。人は犬と猫を一…

野坂昭如『吾輩は猫が好き』を読む

野坂昭如『吾輩は猫が好き』(中公文庫)を読む。野坂がヒマラヤンの猫を5匹飼っていた頃、シベリアンハスキーのジジを散歩に連れ出した時に道路の植え込みでジジが仔猫をくわえてきた。野坂はその仔猫を拾って帰りチャーリーと名づける。しかし先住のヒマラ…

富岡幸一郎『生命と直感』を読む

富岡幸一郎『生命と直感』(アーツアンドクラフツ)を読む。副題が「よみがえる今西錦司」で、今西錦司の業績を再確認、再評価しようという書。今西錦司という生態学者、進化論者、巨大な知というべき人が亡くなってもう27年になる。あれだけ偉大だった人の…

大町文衛『日本昆虫記』を読む

大町文衛『日本昆虫記』(角川ソフィア文庫)を読む。大町文衛は大町桂月の次男の由。本書は元は大阪朝日新聞に昭和16年に連載されたもの。戦後角川文庫に収録されるにあたり少し手を加えているという。しかしながら昆虫学の進展は甚だしく、本書が古びてい…

本多久夫『形の生物学』を読む

本多久夫『形の生物学』(NHKブックス)を読む。カバーの内側の惹句を引く。 単細胞のゾウリムシから多細胞のヒトまで、生物は、今あるこの多様な形に、どうやってたどり着いたのか。本書では、多細胞生物の「袋」に着目し、生物体の内と外の境目について考…

浅間茂『虫や鳥が見ている世界』を読む

浅間茂『虫や鳥が見ている世界』(中公新書)を読む。副題が「紫外線写真が明かす生存戦略」で、植物や虫などを紫外線が写るカメラと可視光のカメラで撮り、並べて掲載している。各ページにすべてカラー写真が載っているから総数何百枚にもなるだろう。 普通…

須藤斎『海と陸をつなぐ進化論』を読む

須藤斎『海と陸をつなぐ進化論』(ブルーバックス)を読む。題名の進化論に惹かれて読んだのだが、海の植物プランクトンの話だった。まったく知らない世界でそれはそれとして面白かったが、植物プランクトンの一種珪藻類の歴史が延々とつづられる。たいてい…

上村佳孝『昆虫の交尾は、味わい深い…。』を読む

上村佳孝『昆虫の交尾は、味わい深い…。』(岩波科学ライブラリー)を読む。昆虫の交尾器を中心に研究を行っている昆虫学者が、ある意味専門的な内容を面白く書いている。交尾をしている昆虫を液体窒素で瞬間凍結し、解剖して調べている。昆虫の交尾といって…

前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』を読む

前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)を読む。アフリカ北西部のモーリタニアへバッタの研究に行った昆虫学者の記録だ。アフリカやアジアにはlocustという恐ろしいバッタが生息する。サバクトビバッタと言うが、時にものすごく大量に…

早坂暁『公園通りの猫たち』を読んで

早坂暁『公園通りの猫たち』(ネスコ/講談社)を読む。先月脚本家の早坂暁が亡くなった。『夢千代日記』の脚本が代表作だったが、早坂の映画は見たことがなかったと思う。しかし早坂の猫に関するエッセイはとても優れたものだった。訃報を聞いて『公園通り…

『ネコ学入門』を読む

クレア・ベサント『ネコ学入門』(築地書館)を読む。副題が「猫言語・幼猫体験・尿スプレー」となっている。カバーの惹句が、 人や犬と違い、群れない動物である猫は、多様なコミュニケーション手段をもっている。 猫は人に飼われても野性を失わない生きも…

ロイヤル島のヘラジカ

竹内久美子が朝日新聞に「生物界なら1強ありえぬ」というエッセイを書いている(2013年7月24日)。参院選で圧勝した自民党に対し、メディアが「大きすぎる与党」への懸念を表明しているのを読んで、自然界のこんなエピソードを思い出したとて、ロイヤル島…

長嶺ヤス子の飼う153匹の猫

舞踏家 長嶺ヤス子へのインタビューが朝日新聞で連載されていた。その最終回から。(2010年2月12日夕刊) 私が踊る意味は「命」にあります。公演は赤字なんです。4月に東京・新宿や調布などで公演をしますが、スペインから9人も踊り手や歌手、演奏者が来…

「孫の力」という本

島泰三の「孫の力」(中公新書)がなかなか面白い。机の上に置いておいた本書の題名を見て、娘がソフトバンクの社長の話かと思ったという。いや違うんだ。これは猿学者による自分の孫の成長の生態観察記なのだ。副題が「−誰もしたことのない観察の記録」とあ…

「ザ・リンク」で教えられたちょっと変な話

コリン・タッジの「ザ・リンク」(早川書房)は面白かった。副題が「人とサルをつなぐ最古の生物の発見」といい、ドイツで発見された4700万年前の霊長類の化石を巡って、その化石がいかにすばらしいものか、どのように霊長類の進化を解明するのに役立つか縷…

「人イヌにあう」を読んで、個性ということ

コンラート・ローレンツ「人イヌにあう」(ハヤカワ文庫)はノーベル賞を受賞した動物生態学者が動物の生態を描いた作品で、同じ著者の「ソロモンの指輪」には一歩を譲るもののきわめて面白い。その犬の個性を論じているところ、 個性を誇大にいわれる人類に…

ツバメが巣をかけた

近所のマンションの防犯カメラの上にツバメが巣をかけた。雛が孵り親が忙しく餌を運んでいる。ここはちょうど通路の真上になるので糞が落ちてくる。それを注意する貼り紙があった。 ツバメの数が減っているようだ。農作物の害虫を捕食してくれていたので益鳥…

蝶の道

長谷川櫂「麦の穂ーー四季のうた2008」(中公新書)に近藤沙羅の句が紹介されている。 高々と紫苑の花や蝶の道 北鎌倉の東慶寺は草花の美しい寺。今ごろ、花畑では高く伸びた紫苑の花が風に揺れているはず。どこからともなく現れた蝶を眺めているうちに、紫…

「世界は分けてもわからない」の面白さ

渡辺剛の写真展は何回か見た。ギャラリー山口や資生堂ギャラリー、九美洞ギャラリーでもやったのではなかったか。先月の秋山画廊での個展は見逃してしまったけれど。 渡辺はアメリカとメキシコなどの国境を撮影している。それぞれの国へ入国し、国境の同じ場…

種内変異

小学校5、6年生の時の担任が宮嶋光男先生だった。植物学が専門のようだった。たくさんの植物の名前を教わったし、時々花や野菜の種、樹木の苗木などを分けてくれた。もらったオオイボタの苗は数年後花を咲かせ、それが臭くて閉口した。学校の裏庭に死んで…

早坂暁が「公園通りの猫たち」で語るいい話

一昨日紹介した早坂暁「公園通りの猫たち」には、人を救助した猫のエピソードが語られている。猫って想像以上に賢いのかもしれない。 ある日、ブーツ(という名前の猫)が珍しく、私の足もとにぶつかってくる。ブーツは、これまたホルモン異常のせいか、鳴き…

早坂暁「公園通りの猫たち」を読んで

「夢千代日記」などの脚本を書いている早坂暁の「公園通りの猫たち」(ネスコ)を読む。これが大変面白く、また猫の生態についても知らなかったことを教えられた。公園通りとは東京渋谷のNHKに続いている通りのことだ。 まず猫の喧嘩の実態が詳しく語られて…

読売農学賞を湯川淳一さんが受賞

第46回読売農学賞を九州大学名誉教授の湯川淳一さんが受賞された。受賞理由は「害虫および天敵タマバエ類の分類と生態に関する一連の研究」だ。 以前、湯川さんの作られた「日本原色虫えい図鑑」の編集のお手伝いをしたのでとても感慨深い。山梨県の昇仙峡へ…

福岡伸一「できそこないの男たち」

「生物と無生物のあいだ」が好評だった福岡伸一の新刊「できそこないの男たち」(光文社新書)は興奮するくらい面白かった。それはどうしてか? 教科書はなぜつまらないのか。それは、なぜ、そのとき、そのような知識がもとめられたのかという切実さが記述さ…