島泰三の「孫の力」(中公新書)がなかなか面白い。机の上に置いておいた本書の題名を見て、娘がソフトバンクの社長の話かと思ったという。いや違うんだ。これは猿学者による自分の孫の成長の生態観察記なのだ。副題が「−誰もしたことのない観察の記録」とある。いや同じ観察をした人が1人はいたことを知っている。母親である教育学者が自分の子供を観察して記録していた本を読んだことがあった。
島の観察は動物生態学者だけあって鋭いところを突いている。
孫娘は母親たちがもてあますほど反抗的になっている。とにかく、言うことを聞かない。薬は〈のまない〉となる。それに対して、母親も祖母も「ジイジもえらいなあ、って言うよ」とか「これ食べないとデザートは食べられないよ」と説得しようとする。その巧妙な説得を突き崩すのはさらなる反抗であり、それによって、子どもは自分自身が何ものであるかを確かめる。人は反抗することで、人格を形成するやっかいな動物なのだ。
2歳半になると記憶が確実になりはじめ、自分の行動に脈絡がつきはじめる。記憶は、覚えているという問題だけではない。それが、人格を統合する。
「人は反抗することで、人格を形成するやっかいな動物なのだ」「記憶が人格を統合する」
観察記は6歳まで続けて終わる。時々サルの成長と比べられながら。しかし終始冷静な観察記という訳にはゆかない。初孫だから無理もないのだ。昔私の娘が生まれたとき、高校教師だった謹厳実直な母方の祖父が、1歳にも満たない孫が喜ぶからとタコ踊りをして孫の父親を驚かせたのだった。
子どもの観察というとピアジュが有名だ。メルロー=ポンティの「眼と精神」中の「幼児の対人関係」はピアジュの研究論文を引いて、対他主観性の生まれる時を提示してくれたのだった。それは、他者はもの=即時存在だとするサルトルの呪縛から解放される大きな契機だった。
- 作者: 島泰三
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2010/01/01
- メディア: 新書
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