上村佳孝『昆虫の交尾は、味わい深い…。』を読む

 上村佳孝『昆虫の交尾は、味わい深い…。』(岩波科学ライブラリー)を読む。昆虫の交尾器を中心に研究を行っている昆虫学者が、ある意味専門的な内容を面白く書いている。交尾をしている昆虫を液体窒素で瞬間凍結し、解剖して調べている。昆虫の交尾といっても多彩で驚くようなことが行われている。
 交尾の体位も昆虫によってオスが上だったりメスが上だったり種によって決まっている。オスの交尾器にはトゲがあって先に交尾した他のオスの精子を掻き出す機能があったり、交尾したあと、他のオスと交尾できないようにメスの交尾口に「交尾栓」をしてしまうチョウがいる。さらにそれを外すワインの栓抜きのような交尾器をそなえたオスもいる。
 カブトムシやクワガタムシの仲間は、幼虫期の餌によって成虫の体格が大きく変わるが、交尾器のサイズの違いは小さく抑えられている。

 「大きな体のオスは、体の割には小さめな交尾器を持つ」。このルールは「負のアロメトリー(相対成長)」と呼ばれ、多くの昆虫で確かめられている。

 このルールは多くの昆虫のみならず相撲取りにも妥当するだろうと私も思う。
 コバネハサミムシのオスの交尾器は体長よりも長いが、メスの受精嚢は体長の2倍以上に及ぶ。その謎も著者の研究で明らかにされる。さらにオオハサミムシのペニスに右利きが多いことも紹介された。
 「岩波科学ライブラリー」には傑作が少なくない。『歌うカタツムリ』ほどではないが、本書もヒット作と言えるだろう。優れた編集者がいるのに違いない。


昆虫の交尾は、味わい深い…。 (岩波科学ライブラリー)

昆虫の交尾は、味わい深い…。 (岩波科学ライブラリー)