2015-06-01から1ヶ月間の記事一覧

酒井忠康『鍵のない館長の抽斗』と『奇妙な画家たちの肖像』を読む

まず酒井忠康『鍵のない館長の抽斗』(求龍堂)を読む。酒井は長く神奈川県立近代美術館に勤務して最後は館長を務めた。そこを退職して2004年から世田谷美術館館長に就任している。本書は3章に分かれていて、I章は世田谷美術館の年3回発行されるNEWS LETTER…

成田龍一『近現代日本史と歴史学』を読む

成田龍一『近現代日本史と歴史学』(中公新書)を読む。副題が「書き替えられてきた過去」とあり、近現代の日本史がどのように解釈されてきたかを、膨大な文献を読み解いて紹介している。 成田は、敗戦後再出発した歴史学研究は初め「社会経済史」をベースに…

銀座ニコンサロンの柴田れいこ写真展「届かぬ文:戦没者の妻たち」を見て

東京銀座のニコンサロンで柴田れいこ写真展「届かぬ文(ふみ):戦没者の妻たち」が開かれている(6月30日まで)。柴田は1948年岡山県生まれ、2005年に大阪芸術大学写真学科を卒業している。 ギャラリーのホームページに、本展に関する柴田れいこの言葉が掲…

太宰治『人間失格』の「ワザ。ワザ」

新橋のシオサイトには日本テレビがある。それで地下通路というか地下広場には日テレの大きなポスターが貼られている。それを見ると太宰治『人間失格』を思い出す。 その日、体操の時間に、その生徒(姓はいま記憶していませんが、名は竹一といったかと覚えて…

平山重子追悼展を見る

東京国立市のギャラリー国立で平山重子展が開かれていた(6月23日まで)。平山は1932年東京都生まれ、高校在学中、一時結核療養のため小諸市で療養し、福永武彦と知り合いその勧めで水彩画を始める。1955年、再入学した都立向丘高校を卒業し、1956年、東京…

野中英和展「存在の不可能性 無限への渇望としてのIII」を見る

東京銀座のギャラリー現で野中英和展「存在の不可能性 無限への渇望としてのIII」が開かれている(6月27日まで)。野中は1947年横浜生まれ、20歳の頃哲学者の信太正三ゼミに参加してニーチェを研究した。1970年横浜芸術研究所でデッサンを学ぶ。1972年にパ…

Oギャラリーの沓澤貴子展を見る

東京銀座のOギャラリーで沓澤貴子展が開かれている(6月28日まで)。 沓澤は1971年、静岡県生まれ、1996年に武蔵野美術大学造形学部油絵学科を卒業し、1998年に同大学大学院油絵コースを修了している。2001年ガレリアラセンで初個展を開き、Oギャラリー、か…

桜の害虫

鉢植えの富士桜の枝に葉がなかった。棒のような枝が立っている。去年鉢植えの富士桜が数本すべて病気になって落葉してしまった。今年も再発したのだろうか、やれやれと思っていた。 ふと細い幹を見ると変なところに枝が出ている。こんなところに枝なんてあっ…

井上ひさし『新釈遠野物語』を読む

井上ひさし『新釈遠野物語』(新潮文庫)を読む。柳田国男の『遠野物語』にならって、井上が新しく語り下ろしたという体裁を採っている。遠野地方近くの国立療養所に勤める若い男が、山に一人住む老人から若い頃体験した不思議な話を聞かせてもらう。全部で9…

日本橋の福徳神社が再興された

日本橋三越前に三井グループ系のコレドができ、その一帯の再開発に伴って古い神社が整備された。コレドの裏手に小さいが立派な神社が作られて、名前を福徳神社という。この福徳神社の由緒が石版に彫られていた。 当社伝来の稲荷森塚碑文によれば、9世紀後半…

白洲正子『なんでもないもの』を読んで

白洲正子『なんでもないもの』(角川ソフィア文庫)を読む。副題が「白洲正子エッセイ集〈骨董〉」とあり、白洲が書いた骨董に関するエッセイを青柳恵介がまとめたオリジナル編集。私は白洲正子を初めて読んだ。今まで何となく敬遠していたのだった。 さすが…

大宮政郎の銅版画がおもしろい

東京銀座のStepsギャラリーで「批評家展」が開かれている(6月27日まで)。これはギャラリーが選んだ批評家5人がそれぞれ作家をひとり推薦し、推薦された作家の作品を展示して、それに批評家の批評文を併せ展示するという独創的な企画。ただし批評文はギャ…

成田龍一『加藤周一を記憶する』を読む

成田龍一『加藤周一を記憶する』(講談社現代新書)を読む。新書とは言え450ページもあり、大分なものだ。成田は加藤の著作を初期から晩年まで実に丁寧に跡付けてその一つ一つに簡単な評価を加えている。ほとんど全著作に及ぶほどの徹底したものだ。あまりに…

藍画廊の日比野絵美展「-empty room-」がおもしろい

東京銀座の藍画廊で比野絵美展「-empty room-」が開かれている(6月20日まで)。日比野は1986年神奈川県生まれ、2009年に日本大学芸術学部美術学科版画コースを卒業し、2011年に同大学大学院芸術学研究科博士前期過程を修了している。2011年に藍画廊で初個…

金井美恵子『映画、柔らかい肌。映画にさわる』から

金井美恵子『映画、柔らかい肌。映画にさわる』(平凡社)を読んでいる。その「II 愉しみはTVの彼方に、そして楽しみと日々」から、例によってまず金井の毒舌を。『溝口健二大映作品全集』と新藤兼人の『ある映画監督の生涯・溝口健二の記録』を見ながら、 …

東京都写真美術館のPRマンガが傑作だ

東京都写真美術館(写美)で発行しているニュース別冊「ニャイズ」が面白い。作者は既婚OLカレー沢薫、PRマンガらしいけれど、実に自由に描いている。美術館のスタッフをおちょくったり、内実をスクープしたり、いいんだろうかとちょっと心配してしまう。 主…

酒井忠康『遠い太鼓』を読む

酒井忠康『遠い太鼓』(小沢書店)を読む。副題が「日本近代美術私考」で、日本の近代美術について主に1980年代に書かれたエッセイをまとめたもの。セオドア・ウオレスからジョルジュ・ビゴー、中村彝、萬鐵五郎、村山槐多、小出楢重、藤島武二、佐伯祐三、…

酒井忠康『ある日の画家』を楽しく読んだ

酒井忠康『ある日の画家』(未知谷)を楽しく読んだ。世田谷美術館長である酒井がここ十数年間に書いた戦後の画家についてのエッセイ集だ。麻生三郎、井上長三郎などから、岡本太郎、宮崎進、早川重章、横尾忠則など27人の画家が取り上げられている。いずれ…

椿近代画廊で天野裕夫彫刻展を見る

東京日本橋室町の椿近代画廊で天野裕夫彫刻展が開かれている(6月13日まで)。天野は1954年岐阜県生まれ、1978年に多摩美術大学大学院彫刻科を修了している。同年日本画廊で初個展、以来個展多数と今回の個展に際して画廊が作ったパンフレットにある。 天野…

高階秀爾『ニッポン・アートの躍動』が魅力的だ

高階秀爾『ニッポン・アートの躍動』(講談社)がとても教えられる。本書は講談社のPR雑誌『本』に連載されていたものをまとめたもの。以前出版された『日本の現代アートを見る』『ニッポン現代アート』についで3冊目になる。本書に取り上げられた作家は36人…

キンシバイとビヨウヤナギ

キンシバイ(金糸梅)とビヨウヤナギ(美容柳)の区別がつかなかった。ちょうど公園に隣り合って植えられていて、名前を書いたプレートが立てられていたので区別ができた。 キンシバイ ビヨウヤナギ どちらもオトギリソウ科オトギリソウ属だから近縁種という…

『金子光晴詩集』を読む

清岡卓行 編『金子光晴詩集』(岩波文庫)を読む。清岡があとがきで近代詩人として萩原朔太郎と金子光晴を挙げている。重要な詩人とは知っていたが、今まで金子をまとめて読んだことがなかった。膨大な作品を残しているようで、22冊の詩集から124編ほどを選…

藍画廊の亀山尚子展がすばらしい

東京銀座の藍画廊で亀山尚子展が開かれている(6月13日まで)。亀山尚子は1970年静岡県生まれ、1995年に武蔵野美術大学大学院を修了している。大学院在学中の1994年に東京芸術劇場展示室で初個展を開いた。その初個展から非凡な作家だった。その後、藍画廊…

網野善彦『日本の歴史をよみなおす(全)』を読む

網野善彦『日本の歴史をよみなおす(全)』(ちくま学芸文庫)を読む。「(全)」とあるのは、かつて筑摩書房から『日本の歴史をよみなおす』および『続・ 日本の歴史をよみなおす』として発行された2冊をまとめたものだから。 網野は為政者の歴史ではなく、…

小泉明郎展を見損なって残念!

群馬県のアーツ前橋で小泉明郎展が開かれている(6月7日=明日まで!)。そのことは朝日新聞で知った(4月8日夕刊)。ずっと見に行きたいと思っていたが諸般の事情でそれがかなわずついに明日が最終日となってしまった。結局行けそうもなくてとても残念だ。…

深瀬昌久写真展「救いようのないエゴイスト」を見る

東京渋谷のDIESELアート ギャラリーで深瀬昌久写真展「救いようのないエゴイスト」が開かれている(8月14日まで)。深瀬は1934年北海道生まれ、日本デザインセンターや河出書房に勤めた後フリーのカメラマンになる。荒木経惟、東松照明、細江英公、横須賀功…

木瓜(ボケ)の病気

・ 近所を散歩していたら、ボケの葉に黄色い斑点ができている。枝を取って裏返してみたら、細い糸のようなものがたくさん生えていた。これはボケの赤星病という病気だ。ボケのほかにもリンゴやナシ、カイドウ、カリンにも発生する。 赤星病はサビ病の仲間で…

『日本の官能小説』を読む

永田守弘『日本の官能小説』(朝日新書)を読む。副題が「性表現はどう深化したか」という立派なもの。朝日新聞の書評で三浦しおんが紹介していた(5月24日)。 終戦直後から現在までのあいだに、官能小説はどのような変遷をたどってきたのか。官能表現の進…

『信濃が語る古代氏族と天皇』を読む

関裕二『信濃が語る古代氏族と天皇』(祥伝社新書)を読む。副題が「善光寺と諏訪大社の謎」。善光寺と諏訪大社の謎を中心に信濃(長野県)の古代史に迫っていく。とくに諏訪大社を巡る謎がおもしろかった。 諏訪大社には独特な信仰が残っている。縄文的な信…

スタニスワフ・レム『泰平ヨンの未来学会議』を読む

SF

スタニスワフ・レム『泰平ヨンの未来学会議』(ハヤカワ文庫)を読む。タイトルの横に小さく〔改訳版〕とある。これは以前集英社から深見弾の訳で出ていた単行本に、弟子の大野典宏が手を入れたもの。あとがきによると、イスラエルのアリ・フォルマン監督に…