文化

神崎宣武『旅する神々』を読む

神崎宣武『旅する神々』(角川選書)を読む。神崎は民俗学者で岡山県宇佐八幡神社宮司。本書では大国主、山幸彦、吉備津彦、倭姫命、倭建命の旅を取り上げている。 神話をやさしく嚙み砕いて紹介している。しかし、いずれも面白くなかった。一般に神話は荒唐…

沼野充義『ロシア文学を学びにアメリカへ?』を読む

沼野充義『ロシア文学を学びにアメリカへ?』(中公文庫)を読む。以前『屋根の上のバイリンガル』というタイトルで白水uブックスから出ていたもの。当時から気になっていた。沼野はロシア文学やポーランド文学の専門家。沼野の訳したスタニスワフ・レムなど…

養老孟司・池田清彦・奥本大三郎『虫捕る子だけが生き残る』を読む

養老孟司・池田清彦・奥本大三郎『虫捕る子だけが生き残る』(小学館101新書)を読む。養老は解剖学者、池田は生物学者、奥本はフランス文学者、いずれも専門は違うが3人とも昆虫採集がプロ並みの「虫好き」の人たち。特に大きなテーマは設けないで昆虫採集…

関川夏央『昭和時代回想』を読む

関川夏央『昭和時代回想』(中公文庫)を読む。副題が「私説昭和史3」で、これが面白かった。 「平凡パンチ」創刊号は1964年4月だったと関川は書く。 5人の青年がそこにいる。5人のうち4人は立っている。残ったひとりは左ハンドルのスポーツカーに乗って…

青柳いづみこ『青柳瑞穂の生涯』を読む

青柳いづみこ『青柳瑞穂の生涯』(新潮社)を読む。青柳いづみこはピアニスト、瑞穂はその祖父でフランス文学者。瑞穂はフランス文学の翻訳のほかに骨董にも詳しく、古物商から買い求めた掛け軸が光琳の作で、後日それは国の重要美術品に認定された。乾山の…

司馬遼太郎・井上ひさし『国家・宗教・日本人』を読む

司馬遼太郎・井上ひさし『国家・宗教・日本人』(講談社文庫)を読む。二人の4回の対談を収録している。 二人の対談がとても面白い。「よい日本語、悪い日本語」から、 司馬遼太郎 政治家の言葉がいかに世の中の言語に大きく影響するかというと、たとえば最…

大阪と東京 どっち派?

読売新聞書評欄に「HOTライン倶楽部 どっち派?」というのがある。2つを比べて読者が投稿するものだ。今回は「大阪」と「東京」(2025年5月25日付け)。 それを読んで、司馬遼太郎のエッセイ「上方についての小さな憂噴」を思い出した。 東京で小さな貿易…

塚原琢哉『遥かなる遠山郷』を読む

糸のような細い道が家々をつなぎ、畑に通じている 45度の急な斜面を耕す 塚原琢哉『遥かなる遠山郷』(信濃毎日新聞社)を読む(見る)。副題が「60年前の記憶」とある。これは出版時(2017年)の60年前、1958年に写真家塚原琢哉が長野県飯田市(当時は上町…

和田秀樹・池田清彦『オスの本懐』を読む

和田秀樹・池田清彦『オスの本懐』(新潮新書)を読む。高齢者専門の精神科医和田秀樹とユニークな生物学者池田清彦の対談。池田清彦は地球温暖化はデマだ等と過激な主張を繰り返している生物学者で、ダーウィンの進化論も批判している。 結構売れている本の…

司馬遼太郎『歴史と風土』を読む

司馬遼太郎『歴史と風土』(文春文庫)を読む。『司馬遼太郎全集』の月報のために語り下ろしたものと、『文藝春秋』に連載した談話を編集している。いずれも司馬が語ったもの。 司馬のエッセイも語りもピカイチだと思う。こんな内容なら何冊でも読みたい。面…

暉峻淑子『サンタクロースを探し求めて』を読む

暉峻淑子『サンタクロースを探し求めて』(岩波現代文庫)を読む。暉峻は経済学者。昔カミさんの本棚に宇野弘蔵の『経済学原論』(岩波全書)があり、どうして宇野経済学の本があるのだろうと思ったことがあった。大学の授業で使ったからと言われた。カミさ…

里見龍樹『入門講義 現代人類学の冒険』を読む

里見龍樹『入門講義 現代人類学の冒険』(平凡社新書)を読む。題名通り現代人類学について7日間の講義を綴っている。大学1~2年生向けだと言うがこれが面白かった。 里見は20世紀末の人類学に新しい変化が生じたと言う。里見自身はソロモン諸島のマライタ…

椎根和『銀座Hanako物語』を読む

椎根和『銀座Hanako物語』(紀伊國屋書店)を読む。雑誌『Hanako」は1988年に女性向け週刊誌としてマガジンハウスから創刊された。ちょうどバブル経済の真っただ中で、翌年には誌名そのものが,新語・流行語大賞の新語部門銀賞を受賞した。選考理由は、「ハ…

田中優子・松岡正剛『昭和問答』を読む

田中優子・松岡正剛『昭和問答』(岩波新書)を読む。江戸文化の専門家田中優子と著名編集者の松岡正剛の昭和をテーマにした対談書。実は本書の前に同じ岩波新書から二人で『日本問答』と『江戸問答』を出版している。そのことは知らなかった。 本書は6つの…

河合隼雄『対談集 あなたが子どもだったころ[完全版]』を読む

河合隼雄『対談集 あなたが子どもだったころ[完全版]』(中公文庫)を読む。河合隼雄が16人の作家などと対談し、彼らの幼少期の頃のことを話している。鶴見俊輔、谷川俊太郎、武満徹、井上ひさし、大庭みな子、筒井康隆、佐渡裕、安藤忠雄など。 元々2冊…

川村記念美術館休館か

DICは27日、保有・運営するDIC川村記念美術館(千葉県佐倉市)の運営を見直すと発表した。東京に移転するか運営を中止するかを検討する。年内に結論を出し、2025年1月下旬に休館する。資産効率の観点から運営方法の見直しが必要だと判断した。(日本経済新聞…

末木文美士『日本思想史』を読む

末木文美士『日本思想史』(岩波新書)を読む。カバー袖の惹句に、 古代から今にいたるまで、日本人はそれぞれの課題に取り組み、生き方を模索してきた。その軌跡と膨大な集積が日本の思想史をかたちづくっているのだ。〈王権〉と〈神仏〉を二極とする構造と…

須藤靖『AIなき世界に戻れるか?』を読む

須藤靖『AIなき世界に戻れるか?』(インターナショナル新書)を読む。副題が「物理学者、17の思考実験」というもの。東大教授だった宇宙物理学者の須藤靖が、東京大学出版会のPR誌『UP』に連載したエッセイと他の雑誌に掲載した合計17編をまとめたもの。 「…

宮本常一『イザベラ・バードの旅』を読む

宮本常一『イザベラ・バードの旅』(講談社学術文庫)を読む。副題が「『日本奥地紀行』を読む」とあり、イザベラ・バードの『日本奥地紀行』をテキストに、宮本常一が日本観光文化研究所で行った講義をもとに、宮本没後に未来社から刊行されたものを文庫化…

イザベラ・バード『日本奥地紀行』を読む

イザベラ・バード『日本奥地紀行』(平凡社ライブラリー)を読む。イザベラ・バードは1931年イギリス生まれ、明治11年、48歳のとき来日して6月から9月にかけて日本人従者をたった1人連れて東京から北海道へ旅行している。その詳細な記録。道路事情は最悪で…

宇野重規 著、若林恵(聞き手)『実験の民主主義』を読む

宇野重規 著、若林恵(聞き手)『実験の民主主義』(中公新書9を読む。副題が「トクヴィルの思想からデジタル、ファンダムへ」とうもの。編集者の若林が政治学者の宇野に質問して宇野が語るという形式をとっている。全6回の対話を基に本書が正立した。 宇…

イザヤ・ベンダサン『日本人とユダヤ人』を読む

イザヤ・ベンダサン『日本人とユダヤ人』(角川ソフィア文庫)を読む。50年以上前に出版されて当時大きな話題になった書。その後イザヤ・ベンダサンを名乗る著者がユダヤ人などではなくて山本七平だということがばれてこれまた話題になった。しかし人気は衰…

三橋順子『ジェンダー&セクシュアリテ論入門』を読む

三橋順子『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリテ論入門』(辰巳 出版)を読む。「これからの時代を生き抜くための」シリーズの1冊。 ジェンダーは「社会的・文化的性」、言い換えると「人間が生まれたあと後天的に身につけていく性の有…

ジャレド・ダイアモンド『若い読者のための第三のチンパンジー』を読む

ジャレド・ダイアモンド『若い読者のための第三のチンパンジー』(草思社文庫)を読む。副題が「人間という動物の進化と未来」。人間の近縁種はチンパンジー(コモンチンパンジー)とボノボ(ピグミーチンパンジー)であり、人間は第三のチンパンジーだとい…

『田中角栄名語録』を読む

小林吉弥『田中角栄名語録 普及版』(プレジデント社)を読む。本来手に取る種類の本ではないが、コロナで入院していた折り、友人が差し入れしてくれた。ほかに活字がなかったので読んでみた。それがとても面白かった。田中角栄の政治思想や功績を取り上げて…

司馬遼太郎『人間の集団について』を読む

司馬遼太郎『人間の集団について』(中公文庫)を読む。副題が「ベトナムから考える」。司馬は1973年4月に取材のためにベトナムを訪ねた。偶然その数日前にアメリカ兵が引き上げたのだった。 司馬は中国文明の周辺にいる国家群に関心をもっていた。それらの…

開高健『食の王様』を読む

開高健『食の王様』(ハルキ文庫)を読む。「旅に暮らした作家・開高健が世界各地での食との出会いを綴った、珠玉のエッセイ集…」と惹句にある。さすが、みごとな食べ物にまつわるエッセイで、そこらのグルメ本とは一線を画する内容だ。 フランス革命で処刑…

岡野原大輔『大規模言語モデルは新たな知能か』を読む

岡野原大輔『大規模言語モデルは新たな知能か』(岩波科学ライブラリー)を読む。副題が「ChatGPTが変えた世界」、まさに今話題のチャットGPTを取り上げたものだ。チャットGPTは2022年11月に登場し、公開から2か月間で全世界の月刊利用者が1億人に達した極…

ギャラリーゴトウの「アート・オブ・オーストラリア展」を見る

東京銀座のギャラリーゴトウで「アート・オブ・オーストラリア展」が開かれている(6月24日まで)。このアート・オブ・オーストラリア展というのは、実はアボリジニアート展なのだ。アボリジニという言葉が分かりにくいからとこんなタイトルにしたのだろう…

橋爪大三郎『アメリカの教会』を読む

橋爪大三郎『アメリカの教会』(光文社新書)を読む。副題が「“キリスト教国家”の歴史と本質」というもの。 アメリカの教会は独特で、まず教会の種類が多い。それに対してヨーロッパは、ある地域にはある教会と決まっている。ウエストファリア条約(1648年)…