文化

宇野重規 著、若林恵(聞き手)『実験の民主主義』を読む

宇野重規 著、若林恵(聞き手)『実験の民主主義』(中公新書9を読む。副題が「トクヴィルの思想からデジタル、ファンダムへ」とうもの。編集者の若林が政治学者の宇野に質問して宇野が語るという形式をとっている。全6回の対話を基に本書が正立した。 宇…

イザヤ・ベンダサン『日本人とユダヤ人』を読む

イザヤ・ベンダサン『日本人とユダヤ人』(角川ソフィア文庫)を読む。50年以上前に出版されて当時大きな話題になった書。その後イザヤ・ベンダサンを名乗る著者がユダヤ人などではなくて山本七平だということがばれてこれまた話題になった。しかし人気は衰…

三橋順子『ジェンダー&セクシュアリテ論入門』を読む

三橋順子『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリテ論入門』(辰巳 出版)を読む。「これからの時代を生き抜くための」シリーズの1冊。 ジェンダーは「社会的・文化的性」、言い換えると「人間が生まれたあと後天的に身につけていく性の有…

ジャレド・ダイアモンド『若い読者のための第三のチンパンジー』を読む

ジャレド・ダイアモンド『若い読者のための第三のチンパンジー』(草思社文庫)を読む。副題が「人間という動物の進化と未来」。人間の近縁種はチンパンジー(コモンチンパンジー)とボノボ(ピグミーチンパンジー)であり、人間は第三のチンパンジーだとい…

『田中角栄名語録』を読む

小林吉弥『田中角栄名語録 普及版』(プレジデント社)を読む。本来手に取る種類の本ではないが、コロナで入院していた折り、友人が差し入れしてくれた。ほかに活字がなかったので読んでみた。それがとても面白かった。田中角栄の政治思想や功績を取り上げて…

司馬遼太郎『人間の集団について』を読む

司馬遼太郎『人間の集団について』(中公文庫)を読む。副題が「ベトナムから考える」。司馬は1973年4月に取材のためにベトナムを訪ねた。偶然その数日前にアメリカ兵が引き上げたのだった。 司馬は中国文明の周辺にいる国家群に関心をもっていた。それらの…

開高健『食の王様』を読む

開高健『食の王様』(ハルキ文庫)を読む。「旅に暮らした作家・開高健が世界各地での食との出会いを綴った、珠玉のエッセイ集…」と惹句にある。さすが、みごとな食べ物にまつわるエッセイで、そこらのグルメ本とは一線を画する内容だ。 フランス革命で処刑…

岡野原大輔『大規模言語モデルは新たな知能か』を読む

岡野原大輔『大規模言語モデルは新たな知能か』(岩波科学ライブラリー)を読む。副題が「ChatGPTが変えた世界」、まさに今話題のチャットGPTを取り上げたものだ。チャットGPTは2022年11月に登場し、公開から2か月間で全世界の月刊利用者が1億人に達した極…

ギャラリーゴトウの「アート・オブ・オーストラリア展」を見る

東京銀座のギャラリーゴトウで「アート・オブ・オーストラリア展」が開かれている(6月24日まで)。このアート・オブ・オーストラリア展というのは、実はアボリジニアート展なのだ。アボリジニという言葉が分かりにくいからとこんなタイトルにしたのだろう…

橋爪大三郎『アメリカの教会』を読む

橋爪大三郎『アメリカの教会』(光文社新書)を読む。副題が「“キリスト教国家”の歴史と本質」というもの。 アメリカの教会は独特で、まず教会の種類が多い。それに対してヨーロッパは、ある地域にはある教会と決まっている。ウエストファリア条約(1648年)…

熊谷はるか『JK、インドで常識をぶっ壊される』を読む

熊谷はるか『JK、インドで常識をぶっ壊される』(河出書房新社)を読む。中学3年で父親の転勤に伴ってインドへ移住し、インターナショナルスクールへ入ってインドで3年間を過ごした記録。インド人とのつき合い、インド人の食事、メイドたちとの生活、インド…

菊地暁『民俗学入門』を読む

菊地暁『民俗学入門』(岩波新書)を読む。タイトル通りの見事な民俗学入門書。柳田国男が始めた民俗学はどこか古臭い印象で、もう流行らない過去の学問かと漠然と思っていた。とんでもないことだった。 本書は3つの章からなり、それぞれ3つのテーマを掲げ…

後家と娘は若衆全体の所有なり

大岡昇平『成城だより』(中公文庫)を読んでいると、表題の言葉があった。 伊藤堅吉編著『河口湖周辺の伝説と民俗』(緑星社)から引用している。 なお浅川には姥捨伝説あり。60歳以上の老人は、進んで山へ行くという。深沢氏の『楢山節考』を想起す。 婚姻…

筒井清忠編『昭和史講義【戦後文化篇】(下)』を読む

筒井清忠編『昭和史講義【戦後文化篇】(下)』(ちくま新書)を読む。本書戦後文化篇下巻は、映画などを主体に音楽やマンガやテレビなどを扱っている。いままで映画は監督を中心に見ていくという視点が多かったが、本書は映画会社から映画史を見ていくとい…

筒井清忠 編『昭和史講義 戦後文化篇(上)』を読む

筒井清忠 編『昭和史講義 戦後文化篇(上)』(ちくま新書)を読む。19のテーマについて各専門家がそれぞれ20ページほどを当てて解説している。この上巻は思想や文学などを取り上げ、下巻は主に映画を取り上げている。コンパクトにまとめられて大項目主義の…

中井久夫『私の日本語雑記』を読む

中井久夫『私の日本語雑記』(岩波現代文庫)を読む。これが素晴らしかった。日本語雑記の表題通り雑記なのだが、文章論であり日本語の特徴論でもあり、また言語の起源論にも及んでいる。専門家ではないと謙遜するが、その内容はとても深く「雑記」という表…

山極寿一・小川洋子『ゴリラの森、言葉の海』を読む

山極寿一・小川洋子『ゴリラの森、言葉の海』(新潮文庫)を読む。ゴリラ研究者の山極と、『博士の愛した数式』の作家小川の対談集。これがとても良かった。小川は河合隼雄との対談『生きるとは、自分の物語をつくうること』(新潮文庫)も良かった。優れた…

日本一焼き肉店が多いまち

朝日新聞が長野県飯田市を「日本一焼き肉店が多いまち」と報じている(5月24日夕刊)。「飯田市 マトンもジビエも馬の腸も」と。 人口1万人あたりの焼き肉店数「日本一」――。全国の焼き肉店数ランキングが4月下旬に好評され、長野県飯田市が1位の座を守っ…

藤井青銅『「日本の伝統」の正体』を読む

藤井青銅『「日本の伝統」の正体』(新潮文庫)を読む。著者は作家・脚本家・放送作家とある。仕事柄時代考証など随分していたのだろう。5年前に柏書房から出版されたものを新潮文庫から発行するのは単行本がベストセラーだったのだろう。 こんなものが「日…

江戸川区平井の天祖神社に参拝する

旧中川に沿って散歩していると、小ぶりだが趣のある神社があった。天祖神社だ。神社は小さいが建物は奥に深くなかなか優雅な建築だ。 江戸川区の教育委員会が設置したプレートが建てられている。それによると、 天祖神社 旧平井村の鎮守で1874年(明治7)に…

椋鳩十の顔について

コロナ禍で家にこもっていて古い写真を整理していると昔撮った椋鳩十の銅像写真がでてきた。椋鳩十は長野県喬木村出身の童話作家。本名久保田彦穂、1905-1987。母親を早くに亡くし、継母との折り合いが悪く、法政大学文学部卒業後鹿児島の女学校へ赴任し、故…

小林信彦『和菓子屋の息子』を読む

小林信彦『和菓子屋の息子』(新潮社)を読む。副題が「ある自伝的試み」とある。小林の生家は京保年間創業の老舗の和菓子屋だった。店舗兼工場兼住宅は両国にあった。地名が変わって今は東日本橋という。現在の両国は昔は東両国と言った。戦前東京の盛り場…

青柳貴史『硯の中の地球を歩く』を読む

青�尹貴史『硯の中の地球を歩く』(左右社)を読む。青�尹は東京浅草で硯を作っている職人だ。祖父も父も硯を作っていた。その硯の魅力を自分の体験を具体的に書きながら教えてくれる。 父の助手として中国へ石を集めに行く。深い山へ入り硯に適した石を探す…

合掌の法則、再び

この2冊の本のカバーが短くて上部が数ミリ寸足らずになっている。2冊とも同じ著者(白井聡)の本で、講談社α文庫と集英社新書で出版社は違う。 カバーを取ってみたら、どちらもその下に別のカバーがあった。してみると、寸足らずのカバーは実はいわゆる「帯…

加藤周一+池田満寿夫『エロスの美学』を読む

加藤周一+池田満寿夫『エロスの美学』(朝日出版社)を読む。「比較文化講義」というシリーズの1冊で、二人がエロスをテーマに対談をしている。日本でトップクラスの評論家と、エロチックな版画を作り、エロ小説も書いている作家という組み合わせは「エロス…

合掌の法則

私が「合掌の法則」と名づけた考え方がある。ここに4点の写真を並べた。いずれも合掌の形をしている。 最初の写真は正しい合掌の形だ。両方の掌を合わせている。左手が右手に重なって見えづらいが、間違いなく重なっている。 2番目の写真は間違った合掌だ…

『世界の名前』を読んで

岩波書店辞典編集部 編『世界の名前』(岩波新書)を読む。これはちょっと変わった本だ。世界各国、各地域の人の名前の付け方をまとめたもの。小項目主義で編纂された事典のように、世界100の地域の命名法が100人の専門家によって執筆されている。これを読む…

村井康彦『千利休』を読む

村井康彦『千利休』(NHKブックス)を読む。これを読んだのは先週読み終わった赤瀬川原平の『千利休』(岩波新書)が、赤瀬川曰く「 この本は資料としては何の価値もない」という、その通りのものだったので口直しをしたかったからだ。村井を選んだのは、む…

再び、日本語のピジンイングリッシュ化を危惧する

白井恭弘『ことばの力学』(岩波新書)に、渋谷の街で英語の広告を見かけた話が紹介されている。 先日、渋谷の街を歩いていたら、目の前に巨大な広告塔があり、すべて英語でコンサートを宣伝していました。外国のアーティストかなと思って近づいて行ったら、…

石毛直道『世界の食べもの』を読む

石毛直道『世界の食べもの』(講談社学術文庫)を読む。石毛は京都大学系の文化人類学者。世界の食卓文化論や料理の歴史、リビア砂漠探険記、また石毛直道自選著作集全12巻などがある。 本書は、週刊朝日百科『世界の食べもの』の中から著者が執筆した分を編…