村井康彦『千利休』(NHKブックス)を読む。これを読んだのは先週読み終わった赤瀬川原平の『千利休』(岩波新書)が、赤瀬川曰く「 この本は資料としては何の価値もない」という、その通りのものだったので口直しをしたかったからだ。村井を選んだのは、むかし読んだ村井の『茶の文化史』がとても良かった印象があったから。
読み始めて少々参ったのは、赤瀬川と真逆に実証的に徹していてきわめて細かいところまで書き連ねていることだ。NHKブックスというのは学術的ではなく、一般的・啓蒙的ではなかったか。茶湯の形成から始まって、利休登場の前までがていねいにたどられていく。茶室の変遷や道具の変遷が調べられる。茶会の様子が詳しく紹介される。いつの茶会でどんな道具が使用されたか、出席者は誰だったか等々。何か煩雑で瑣末な記録を読まされているようで退屈しながら読んでいた。
それが後半、利休の半生が語られ始めると俄然おもしろくなってくる。信長と利休の関係、秀吉と利休、家康と利休、石田三成とはライバル関係にあったこと、そのあたりから利休の悲劇に繋がっていることなどなど。
最後に利休が秀吉の勘気に触れ、大徳寺の山門に己の木像を掲げたとして、まずその木像がはりつけにされる。それで秀吉はしばらく利休の様子を見るが、利休は詫びを入れることなく死罪を受け入れる。しかし利休のその時の懊悩も村井はきちんと書く。
利休以後で、利休七哲すなわち利休の弟子七人衆がすべて武将だったことを取り上げ、それまでの町人の茶だったものが武士の茶に変わっていったことを指摘する。
赤瀬川と異なり、千利休に関する資料性の高い伝記だった。前半をガマンして読めば、後半で豊かな実りを享受することができるだろう。
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