思想

濵田恂子『入門 近代日本思想史』を読む

濵田恂子『入門 近代日本思想史』(ちくま学芸文庫)を読む。「本書は国内外の状況が目まぐるしく変わっていく時代、19世紀後半から20世紀末にいたる歴史に足跡を残した哲学者・思想家たちの主要著作と思索のエッセンスを紹介。(……)日本の哲学思想史を概観…

白井聡『未完のレーニン』を読む

白井聡『未完のレーニン』(講談社学術文庫)を読む。白井は、『永続敗戦論』、『長期腐敗政権』など、優れた書を書いている。本書はレーニンの思想について、『国家と革命』、『何をなすべきか』を中心に極めて詳細に読み解いている。原本は一ツ橋大学大学…

牧野雅彦『ハンナ・アレント』を読む

牧野雅彦『ハンナ・アレント』(講談社現代新書)を読む。本書は「現代新書100(ハンドレッド)」という新しいシリーズで、帯には次のように書かれている。 ①それは、どんな思想なのか(概論) ②なぜ、その思想が生まれたのか(時代背景) ③なぜ、その思想が…

姫岡とし子『ローザ・ルクセンブルク』を読む

姫岡とし子『ローザ・ルクセンブルク』(山川出版社:世界史リブレット)を読む。副題が「闘い抜いたドイツの革命家」。リブレット=小冊子だから100ページちょっとの簡単な伝記。私はローザについてはほとんど知らなかった。先に読んだ池上彰・佐藤優『激動…

池上彰・佐藤優『漂流 日本左翼史』を読む

池上彰・佐藤優『漂流 日本左翼史』(講談社現代新書)を読む。『日本左翼史』シリーズの3冊目で最終巻。副題が「理想なき左派の混迷 1972―2022」、最初の『真説 日本左翼史』の副題が「戦後左派の源流 1945-1960」と15年間を扱い、次の『激動 日本左翼史』…

加藤典洋『戦後入門』を読む

加藤典洋『戦後入門』(ちくま新書)を読む。カバーの袖の惹句から、 日本ばかりが、いまだ「戦後」を終わらせられないのはなぜか。この国を呪縛する「対米従属」や「ねじれ」の問題は、どこに起源があり、どうすれば解消できるのか――。世界大戦の意味を喝破…

釈徹宗『天才 富永仲基』を読む

釈徹宗『天才 富永仲基』(新潮新書)を読む。副題が「独創の町人学者」とある。富永仲基は、江戸時代17世紀に大阪に醤油醸造業の息子として生まれ、懐徳堂に学んだが、病気のため31歳で亡くなっている。 何冊かの著書があるが、現在まで伝わるのは『出定後…

生々流転ということ、人はみな大陸の一塊。本土のひとひら

先日紹介した大矢雅章『日本における銅版画の「メティエ」』(水声社)の中に脅威深いエピソードが綴られていた。祖母の臨終に立ち会った経験から「生々流転」を体得したという。祖母の闘病の終わりに立ち会った時、集まった親類達の顔、姿がよく似ているこ…

鶴見俊輔『思い出袋』を読む

鶴見俊輔『思い出袋』(岩波新書)を読む。これがダントツ素晴らしかった。新書だが内容はその分量の何倍も濃い。鶴見が岩波書店のPR誌『図書』に晩年7年間毎月連載した短いエッセイをまとめたもの。新書という小さな本に84篇、1篇が400字詰め原稿用紙約3枚…

養老孟司『形を読む』を読む

養老孟司『形を読む』(講談社学術文庫)を読む。副題が「生物の形態をめぐって」とあり、解剖学者の立場から生物、とくに動物の形態を論じている。『バカの壁』がベストセラーになった解剖学者の3冊目の著作で、解剖学という基礎学をじっくり研究した人だか…

林達夫・久野収『思想のドラマトゥルギー』を読む

林達夫・久野収『思想のドラマトゥルギー』(平凡社)を読む。二人の対談集だが、久野が聞き手となっている。略歴には林が西洋精神史研究家、久野が哲学者となっている。 1974年の発行直後に買って読み、その20年後に読み直し、今回が3回目となる。林の西洋…

橋爪大三郎による熊野純彦『本居宣長』の書評

今日の毎日新聞に橋爪大三郎による熊野純彦『本居宣長』(作品社)の書評が載っている。橋爪は社会学者、熊野は西洋哲学者で、レヴィナス、カント、ヘーゲルなどを専門にしている。また熊野は廣松渉の弟子でもある。橋爪も熊野も尊敬する学者たちだ。 西欧哲…

橋爪大三郎『丸山眞男の憂鬱』を読む

橋爪大三郎『丸山眞男の憂鬱』(講談社選書メチエ)を読む。これが刺激的でとても面白かった。題名としては『丸山眞男と山本七平』の案も考えたという通り、山本七平の書と対比して丸山を批判している。丸山の主著『日本政治思想史研究』は戦後東京大学出版…

加藤周一対談集『歴史・科学・現代』を読む

加藤周一対談集『歴史・科学・現代』(ちくま学芸文庫)を読む。加藤が丸山眞男、湯川秀樹、久野収、渡辺一夫、笠原芳光、サルトル、西嶋定生ら錚々たる学者たちと対談したものを集めている。初版の単行本を編集した鷲巣力が解説を書いていて、当時対談集と…

中沢新一・河合俊雄 編『思想家 河合隼雄』を読む

中沢新一・河合俊雄 編『思想家 河合隼雄』(岩波現代文庫)を読む。河合隼雄はユング派の精神分析家。河合俊雄は河合隼雄の息子。中沢と河合俊雄の対談、河合隼雄の論文に、中沢、鷲田清一、赤様憲雄、河合俊雄、大澤真幸の諸論文、それに養老孟司と河合俊…

鷲田清一『ひとはなぜ服を着るのか』を読む

鷲田清一『ひとはなぜ服を着るのか』(ちくま文庫)を読む。ファッションやモード(流行)を哲学的に分析している。鷲田は現象学が専門の哲学者で大阪大学総長などをしてきている。 わたし自身が(……)哲学者でありながら、ファッションについて文章を書きだ…

石川美子『ロラン・バルト』を読む

石川美子『ロラン・バルト』(中公新書)を読む。カバーの惹句から、 『恋愛のディスクール・断章』『記号の国』で知られる批評家ロラン・バルト(1915−80)。「テクスト」「エクリチュール」など彼が新たに定義し生み出した概念は、20世紀の文学・思想シー…

新宮一成『ラカンの精神分析』を読む

新宮一成『ラカンの精神分析』(講談社現代新書)を読む。これが大変難しかった。もともと16年前に購入し、すぐに読んでいた。当時も難しくてよく分からなかったと思う。傍線を引いた部分が1か所だけで、「文化勲章のような装置が存在するのは、芸術の上にも…

島薗進・橋爪大三郎『人類の衝突』を読む

島薗進と橋爪大三郎の対談『人類の衝突』(サイゾー)を読む。雑誌『月刊サイゾー』に2015年に連載したもので、副題が「思想、宗教、精神文化からみる人類社会の展望」というもの。知人から勧められて読んだ。島薗は宗教学者、橋爪は社会学者で、この二人の…

苅部直『日本思想史への道案内』を読む

苅部直『日本思想史への道案内』(NTT出版)を読む。見出しを拾うと全体の構成が見える。「日本神話」をめぐって/『神皇正統記』の思想/武士の倫理をどうとらえるか/戦国時代の「天」とキリシタン/儒学と徳川社会/「古学」へのまなざし/国学思想と近代…

片山杜秀・島薗進『近代天皇論』を読む

片山杜秀・島薗進『近代天皇論』(集英社新書)を読む。片山は政治思想史研究者、島薗は宗教学者。二人の対談をまとめたものでとても読みやすい。 まず片山が司馬遼太郎の「司馬史観」を紹介する。 片山 島薗先生のお話を聞いていて、もうひとつ思い起こした…

小林敏明『夏目漱石と西田幾多郎』を読む

小林敏明『夏目漱石と西田幾多郎』(岩波新書)を読む。副題が「共鳴する明治の精神」とある。テーマに興味を持って読んだのではなかった。著者小林に興味があったから。小林はきわめて難解な哲学者廣松渉の弟子なのだ。本人は廣松と木村敏に大きな影響を受…

中沢新一『チベットの先生』を読む

中沢新一『チベットの先生』(角川ソフィア文庫)を読む。チベットの先生とは中沢がチベット仏教を学んだケツン・サンポ先生のこと。表紙には先生と並んだ中沢の写真が使われている。なんとなく四方田犬彦の『先生とわたし』を連想した。四方田は彼が師事し…

大澤真幸『考えるということ』を読む(その1)

大澤真幸『考えるということ』(河出文庫)を読む。これが難しいけれどとても面白かった。3つの章に分かれていて、社会科学の章、文学の章、自然科学の章となっている。社会科学では「時間」、文学では「罪」、自然科学では「神」を主題に、それぞれ数冊の本…

『三木清教養論集』を読む

大澤聡・編『三木清教養論集』(講談社文芸文庫)を読む。1931年から1941年までの雑誌等に掲載したエッセイをまとめたもの。昭和6年から16年になる。満州事変開始から真珠湾攻撃の年までだ。 本書は文庫オリジナルで、読書論、教養論、知性論の3部に分かれ、…

ラカン『テレヴィジオン』を読む

ラカン『テレヴィジオン』(講談社学術文庫)を読む。裏表紙の惹句から、 ……フランスの精神分析家が1973年に出演したテレヴィ番組の記録。難解を極める著作『エクリ』で知られるラカンに高弟ジャック・アラン・ミレールが問いかける。一般の視聴者に語られる…

『ポパーとウィトゲンシュタインとのあいだで交わされた世上名高い10分間の大激論の謎』を読む

デヴィッド・エドモンズ&ジョン・エーディナウ『ポパーとウィトゲンシュタインとのあいだで交わされた世上名高い10分間の大激論の謎』(ちくま学芸文庫)を読む。最初に書いてしまうと、羊頭狗肉だった。ポパーとウィトゲンシュタインの大激論とあり、ちく…

いしいひさいち『現代思想の遭難者たち』がおもしろい

いしいひさいち『現代思想の遭難者たち』(講談社学術文庫)を読む。これがとてもおもしろい。1990年代後半に講談社から『現代思想の冒険者たち』全31巻が刊行された。ハイデガーから始まり、フッサール、ウィトゲンシュタイン、カフカ、ニーチェ、マルクス…

『がん哲学外来へようこそ』を読む

樋野興夫『がん哲学外来へようこそ』(新潮新書)を読む。中村桂子が毎日新聞で紹介していた(2016年5月8日)。アスベストが原因で起きる中皮腫や肺癌などが問題になったとき、樋野は中皮腫の外来がないことに気づく。そこで「アスベスト・中皮腫外来」を順…

内田樹『修行論』を読む

内田樹『修行論』(光文社新書)を読む。内田は哲学者であり合気道の道場を主宰している。本書は主として合気道に関する原稿をまとめたもの。演劇評論家の渡辺保が毎日新聞に書評を掲載していた(2013年9月29日)。それで購入していたが、このほどやっと読ん…