司馬遼太郎『人間の集団について』(中公文庫)を読む。副題が「ベトナムから考える」。司馬は1973年4月に取材のためにベトナムを訪ねた。偶然その数日前にアメリカ兵が引き上げたのだった。
司馬は中国文明の周辺にいる国家群に関心をもっていた。それらの地域のうち、多くは中国文明に化せられなく、儒教化しなかった。儒教化した周辺国家のうち、今の世界地図に残っているのは朝鮮とベトナムだけであり、日本もその中に入れることができると言う。わずか3国である。東南アジアでもタイ、カンボジア、ラオスはインド文明圏に属している。
サイゴンは食べるものがうまい、と言う。「インドシナのうち、ラオスやカンボジアには料理はない。料理らしいものがあるのはベトナムだけだ」と。ラオスやカンボジアは元来食物が豊富なので、素材を食っていれば済む。ベトナムは中部あたりへ行くと必ずしも食糧が豊富すぎるというわけにはゆかないためもあって、料理が発達したのかもしれない。
ちょっと面白そうなところを拾ったが、ベトナム人の文化などを日本人や中国人、朝鮮人などと比較して語られている。最初から最後まで大変面白かった。解説で桑原武夫という偉大な思想家が「第一級の思想書といえる」と絶賛している。地味なタイトルで損をしているように思えるが、お勧めの本である。