山梨俊夫『美術の愉しみ方』を読む

 山梨俊夫『美術の愉しみ方』(中公新書)を読む。山梨は神奈川県立近代美術館の館長を務め、国立国際美術館の館長も務めた人。前著『現代絵画入門』(中公新書)は名著だった。

 好きな画家を見つけるとか、美術書を読む、美術史を学ぶ、似た画家を比べる、美術館や画廊へ行く、などの7つの視点から美術を好きになっていく事が語られる。

 山梨の美術に関する教養は深いが、それを自分の体験を基に分かりやすく伝えてくれる。第7章の「判る判らない」では、マティスデュシャンの「泉」=小便器などを取り上げて、難解な現代美術の理解へと誘ってくれる。

 美術への入門書として全く肩の凝らない優れた読み物と言える。しかも「カラー版」と銘打たれたとおり、図版はほとんどカラーで紹介されていて、本当に素晴らしい一押しの美術書だ。

 山梨は雑誌などマスコミへの露出も少なく、知名度は同僚だった酒井忠康に比べて低いが、極めて優れた美術評論家だと断言できる。