鳥原学『日本写真史』を読む

 鳥原学『日本写真史(上)(下)』(中公新書)を読む。日本の写真史に関しては、飯沢耕太郎伊藤俊治多木浩二あたりの仕事があり、こんな名もない人の写真論なんかどうかなあと思いながら読んでいった。とんでもないことだった。私は優れた日本写真史を手にしているのだった。
 幕末頃から現代まで、新書2冊に渡ってていねいに記述される。今までの写真史が、写真家個人の業績を中心に語られていた感があったのに対して、本書では写真を取り巻く時代の風潮、ことに写真を発表する雑誌との関係、撮影機材の変転の影響など、英雄史観ならぬ写真家史観から脱した大きな社会的な視点から書かれている。
 引用されている図版(写真)も少なくないし、圧倒的なのは関連する資料の豊富さで、主要参考文献や主要な日本の写真賞受賞者一覧(日本写真協会賞、日本写真批評家協会賞、木村伊兵衛写真賞土門拳賞、東川賞を網羅している)、日本写真史関連年表、さらに図版典拠一覧まで掲載されているという充実ぶりだ。ちなみに主要参考文献は468点にも上っている。そのため巻末に付せられた資料だけで60ページを越えている。
 写真図版では山崎庸介「原爆の長崎」、長尾靖「浅沼稲次郎社会党委員長刺殺事件」、野町和嘉「バハル−−アフリカが流れる」、鷹野隆大「マリア#1」など、たくさんの図版が印象的だった。鳥原編集による「図版で見る日本写真史」という写真展か写真集なんかも見てみたい気がする。
 これだけの文献を読み込み、たくさんの写真を見、歴史の中に位置づけた優れた仕事を見せてくれた。ここに日本写真史に関する基本文献が付け加わった。