堀啓子『日本近代文学入門』を読む

 堀啓子『日本近代文学入門』(中公新書)を読む。副題が「12人の文豪と名作の真実」とある。「真実」というのはちょっとオーバーだが、内容は面白かった。6つの章でテーマを立て、2人の作家を比較していてそれが成功している。
 近代小説が落語家の三遊亭円朝の語りとそれを取り入れた二葉亭四迷の文体から生まれたこと。女性作家の嚆矢として樋口一葉とその先輩の田辺花圃がいたこと。一葉はそこそこきれいな肖像写真が残されていて5,000円札にもなっているが、職業写真屋がめちゃくちゃ修正していて、特別の不美人ではないが地味な女性だったらしい。この点は30歳で没したのに少年のような肖像写真が残っている中原中也と一緒だろう。中也も写真屋が皺などを徹底的に修正した結果だと聞いた。
 洋の東西の種本を翻案して成功した作家として、尾崎紅葉泉鏡花が取り上げられている。また漱石新聞小説で成功し、黒岩涙香は新聞の売り上げ増加を計って成功した。涙香は英語の小説3千冊の読書体験から大衆小説を手掛け、『巌窟王』や『ああ無情』などで成功を収めた。
 自然主義田山花袋に対して堀は反自然主義森鴎外を挙げる。対極的に見えるが二人はお互いを尊敬しあっていてお互いに影響を受け合っているという。菊池寛芥川龍之介と比べられる。作風は正反対だったが、学生時代から強い友情に結ばれ、のちに菊池は芥川賞直木賞を創設する。直木賞より菊池賞として方が適切だったろう。
 タイトルが硬くて読みにくいと思われるのではないか。なかなか楽しい読書だったが。