文学

高橋源一郎『間違いだらけの文章教室』を読む

高橋源一郎『間違いだらけの文章教室』(朝日文庫)を読む。以前、『ぼくらの文章教室』として単行本で出ていたものを改題し、学生たちの書いた「吉里吉里国憲法前文」を加筆したもの。 例文にいくつもの文章が引用されている。最初の文章は、木村センという…

鬼海弘雄『靴底の減りかた』を読む

鬼海弘雄『靴底の減りかた』(筑摩書房)を読む。厳しい写真を撮っている鬼海の文字だけのエッセイ集だ。いや、32ページのモノクロ写真が挟み込まれているが。 鬼海は淡々と書き綴っていく。事件はほとんど起こらない。いや鬼海はトルコだけで15年間に6回旅…

東直子歌集『青卵』を読む

東直子歌集『青卵(せいらん)』(ちくま文庫)を読む。東2冊目の歌集。その歌のいくつかを引く。 ママンあれはぼくの鳥だねママンママンぼくの落とした砂じゃないよねピストルに胸を刺されて死んだのよ、ママン、水着の回転木馬煙立つ終点の駅我がドアを砂…

獄舎の歌

朝日新聞の「朝日歌壇」に吉島覚の歌が馬場あき子選で載っている(2月2日付け)。 年越して訳の分からぬ一体感真夜の獄舎に静かな熱気 (広島市)吉島覚 獄舎と詠っていて広島市在住とあるから広島刑務所に服役中なのだろうか。今まで気がつかなかったが、ネ…

道浦母都子『無援の抒情』を読む

道浦母都子『無援の抒情』(岩波同時代ライブラリー)を読む。感動して読み終わって、いくつか知っている歌やエッセイがあるのはどこで知ったのだったのかと考えていた。念のためにこのブログを検索したら4年前に読んで感想をアップしていた。すっかり忘れて…

三島由紀夫『告白』を読む

三島由紀夫『告白』(講談社文庫)を読む。副題が「三島由紀夫未公開インタビュー」、TBSの社内倉庫から平成25年に発見された録音テープを起こしたもの。三島の『太陽と鉄』などの翻訳者であるジョン・べスターが三島にインタビューしたテープだった。録音日…

ドゥ・ヴィット、谷川俊太郎『あのひと』を読む

マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット構成・絵、谷川俊太郎 詩の『あのひと』(スタジオジブリ)という〈やおい〉絵本を読む。 谷川俊太郎の詩が「私はひとり そらのした/私はひとり くさのうえ/私はひとり ひとりがいい/あのひとを ゆめみて」と書かれ、…

宇野千代『青山二郎の話・小林秀雄の話』を読む

宇野千代『青山二郎の話・小林秀雄の話』(中公文庫)を読む。青山、小林と併記されているが、青山が全体の3/4を占め、その中でも「青山二郎の話」が全体の半分を占めている。「青山二郎の話」は宇野が最晩年に雑誌に連載していたもので、おそらく執筆途中…

深沢眞二『連句の教室』を読む

深沢眞二『連句の教室』(平凡社新書)を読む。深沢は和光大学の教授で、一般教養科目で連句を巻く授業をしていて、その一部始終を本にまとめたもの。初心者の学生たちに連句に参加させ、その結果で単位を与えるとしている。 初心者の学生たちに連句のルール…

道浦母都子『女歌の百年』を読む

道浦母都子『女歌の百年』(岩波新書)を読む。最初に俵万智とその同時代の水原紫苑、米川千嘉子が取り上げられる。そして与謝野晶子から始まって、山川登美子、茅野雅子、九條武子、柳原白蓮、原阿佐緒、三ヶ島葦子、岡本かの子、中条ふみ子、齋藤史、葛原…

野坂昭如『吾輩は猫が好き』を読む

野坂昭如『吾輩は猫が好き』(中公文庫)を読む。野坂がヒマラヤンの猫を5匹飼っていた頃、シベリアンハスキーのジジを散歩に連れ出した時に道路の植え込みでジジが仔猫をくわえてきた。野坂はその仔猫を拾って帰りチャーリーと名づける。しかし先住のヒマラ…

穂村弘『短歌ください』を読む

穂村弘『短歌ください』(メディアファクトリー)を読む。雑誌『ダ・ヴィンチ』誌上で短歌を募集し、応募された短歌を穂村が選びコメントしている。 面白い作品を拾ってみる。 好きでしょ、蛇口。だって飛びでているとこが三つもあるし、光っているわ (陣崎…

穂村弘=監修『はじめての短歌』を読む

穂村弘=監修『はじめての短歌』(成美堂出版)を読む。穂村は日経新聞の短歌欄の選者をしている。そこに送られてきた短歌を例にとってそれを改悪などして、良い短歌悪い短歌を解説している。 空き巣でも入ったのかと思うほどわたしの部屋はそういう状態 平…

小林信彦『和菓子屋の息子』を読む

小林信彦『和菓子屋の息子』(新潮社)を読む。副題が「ある自伝的試み」とある。小林の生家は京保年間創業の老舗の和菓子屋だった。店舗兼工場兼住宅は両国にあった。地名が変わって今は東日本橋という。現在の両国は昔は東両国と言った。戦前東京の盛り場…

坂本砂南+鈴木半酔『はじめての連句』を読む

坂本砂南+鈴木半酔『はじめての連句』(木魂社)を読む。来年の年賀状の文面を考えていて、10年前に義父からいただいた年賀状にあった俳句を使わせてもらおうと思った。しかしそれだけでは芸がないと考えて、連句のように脇を付けようと思った。だが、連句…

若松英輔『詩集 幸福論』と『詩集 燃える水滴』を読む

若松英輔『詩集 幸福論』と『詩集 燃える水滴』(どちらも亜紀書房)を読む。荒川洋治が『霧中の読書』(みすず書房)で若松の詩について、「素朴なのはいいが、ものの見方がすこぶる単純。ほんとうはあまりものを考えない人なのではないかと思った」と書い…

荒川洋治「美代子、石を投げなさい」

荒川洋治が芸術院会員に選ばれた。会員には年間250万円の報酬が出る。詩人というおそらくは裕福ではない優れた詩人のためにそのことを喜びたい。それで私の好きな荒川の詩「美代子、石を投げなさい」を紹介したい。(以下、全文) 美代子、石を投げなさい 宮…

若手評論家を批判する荒川洋治

荒川洋治『霧中の読書』(みすず書房)にある評論家についての激しい批判がある。評論家の名前は書かれていない。 最近の批評家の特徴はどんなところにも顔を出し、まことしやかなことを言う点にある。ある若手の批評家は、文芸・学術各誌に登場。石牟礼道子…

荒川洋治『霧中の読書』を読む

荒川洋治『霧中の読書』(みすず書房)を読む。これがとても楽しい読書だった。荒川の最新3年間の書評集。本書を読んでまた何冊も読みたい本ができてしまった。 吉本隆明『詩学叙説』は『言語にとって美とはなにか』から41年後、平成18年の詩論集。散文は「…

田村隆一『詩人の旅 増補新版』を読む

田村隆一『詩人の旅 増補新版』(中公文庫)を読む。「増補新版」というのは、1991年の中公文庫版に「北海道――釧路」を追加したもの。旅行記で、他に隠岐、若狭、伊那、奥津、鹿児島、越前、越後、佐久、浅草、京都、沖縄が収録されている。 このうち、「伊…

中村稔『むすび・言葉について 30章』を読む

中村稔『むすび・言葉について 30章』(制度社)を読む。言葉をテーマにした詩(14行詩)が30篇収録されている。言葉をテーマと書いたが、言葉の本質、機能、生態などの省察を14行詩の形式で表現した詩集『言葉について』20章、『新輯・言葉について 50章』…

長谷川龍生亡くなる

うかつにも知らなかったが、詩人の長谷川龍生が8月20日に亡くなっていた。享年91歳だった。長谷川は1928年、大阪生まれ。幼い時から強度の自閉症に罹り、さらに失語症に陥ると年譜にある。処女詩集『パウロウの鶴』が評価される。ついで詩集『虎』が発表され…

中村稔『回想の伊達得夫』を読む

中村稔『回想の伊達得夫』(青土社)を読む。伊達は書肆ユリイカの社主で、雑誌『ユリイカ』を創刊し、多くの戦後詩人を世に出した。ただし、現代の『ユリイカ』は別会社の青土社が発行している。 中村稔は詩人で弁護士、処女詩集『無言歌』を書肆ユリイカか…

堀啓子『日本近代文学入門』を読む

堀啓子『日本近代文学入門』(中公新書)を読む。副題が「12人の文豪と名作の真実」とある。「真実」というのはちょっとオーバーだが、内容は面白かった。6つの章でテーマを立て、2人の作家を比較していてそれが成功している。 近代小説が落語家の三遊亭円朝…

加藤典洋『完本 太宰と井伏』を読む

加藤典洋『完本 太宰と井伏』(講談社文芸文庫)を読む。5月に加藤が肺炎で亡くなった。以前『敗戦後論』を読んで感心したが、それ以外加藤を読んでこなかった。いや、『敗者の想像力』は素晴らしかった。加藤の死をきっかけに何か読んでみようと本書を手に…

半藤一利、塚本やすし・絵『焼けあとのちかい』を読む

半藤一利、塚本やすし・絵『焼けあとのちかい』(大槻書店)を読む。半藤の書いた絵本、子ども向けの本、50ページ未満の薄い絵本に感動した。 半藤は89年前に東京向島で生まれた。小学校5年生のとき、日本が英米と戦争を始めた。その後の具体的な戦況は語ら…

北大路公子『苦手図鑑』を読む

北大路公子『苦手図鑑』(角川文庫)を読む。脱力系エッセイというのだそうだ。裏表紙の惹句から、 電話でカジュアルに300万の借金を申し込まれ、ゴミ分別の複雑さに途方に暮れ、扇風機との闘いを放棄し、食パンの耳に翻弄される……。キミコさん(趣味・昼酒…

西東三鬼『俳愚伝』を読む

西東三鬼『俳愚伝』(出帆社)を読む。正確な書名は『神戸・続神戸・俳愚伝』というのだが、「神戸・続神戸」は先日新潮文庫で読んだので、それ以外の収録作を読んだ。 西東三鬼は戦前京大俳句会で特高に連行されて検挙され、起訴はされなかったものの不起訴…

「お尻にさわる」

先だって若い女性画家がFacebookに書いていた。 先生「〇〇さんっていう絵描き知ってる?(普通の絵に関してのお話の中で)」私「知ってます! 母のお尻を触った人です!(*・∀・*)」先生「あの人は誰でも触るの!」私「知ってます!(*・∀・*)」二世絵描きは…

西東三鬼『神戸・続神戸』を読む

西東三鬼『神戸・続神戸』(新潮文庫)を読む。西東については前衛的な俳句を作る俳人としか知らなかったが、SギャラリーのYさんのブログで本書を知った。西東が京大俳句事件で特高に検挙され、執筆を禁止されて神戸へ流れていく。アパートを兼ねたホテルを…