文学

梅崎春生『カロや』を読む

梅崎春生『カロや』(中公文庫)を読む。梅崎は飼った猫をカロと名付ける。4代にわたって飼われたが、いずれもカロと名付けられた。その3代目のカロについて、 (……)カロが、我が家の茶の間を通るとき、高さが5寸ばかりになる。私が茶の間にいるとき、こと…

『O・ヘンリーニューヨーク小説集』を読む

『O・ヘンリーニューヨーク小説集』(ちくま文庫)を読む。もう60年近く前に読んだ・ヘンリーの短篇集だが、本書はニューヨークを舞台にしたものを集めている。しかし、特筆すべきは訳者だろう。青山南+戸山翻訳農場 訳となっている。青山南は有名な翻訳者…

佐野洋子『覚えていない』を読む(再掲)

佐野洋子『覚えていない』(マガジンハウス)を読む。主に1990年前後に雑誌等に掲載されたエッセイなどを集めたもの。佐野を読む面白さは、女性の極論的本音を知ることができると思われるからだ。 佐野が、テレビのアナウンサーが、年取って容貌がおとろえた…

谷川俊太郎『女に』を読む

谷川俊太郎『女に』(集英社)を読む。詩が谷川俊太郎、絵が佐野洋子。本書の初版はマガジンハウスからで1991年だった。谷川はこの前年1990年に佐野洋子と3回目の結婚をしている。この時谷川は59歳、佐野は2度目の結婚で52歳だった。 『女に』は佐野と結婚…

十亀弘史が朝日歌壇賞を受賞

第39回朝日歌壇賞に佐々木幸綱は十亀弘史の次の歌を選んだ(朝日新聞2023年1月8日付)。 戦争は祈りだけでは止まらない 陽に灼かれつつデモに加わる 十亀さんは時折朝日歌壇に選ばれ常連の一人となっている。もう何年にもなるが、ある時獄に入ると詠って強…

大岡昇平『成城だより』を読む

大岡昇平『成城だより』(中公文庫)を読む。「作家の日記」が併録されている。「成城だより」は1979年11月から1980年10月までの1年間の日記。「作家の日記」は1957年11月から1958年4月までの日記。『成城だより』はこの後も『成城だよりⅡ』『成城だよりⅢ』…

三島由紀夫『作家論』を読む

三島由紀夫『作家論』(中公文庫)を読む。三島が『日本の文學』『日本文学全集』『新潮日本文学』『川端康成全集』『現代の文學』の解説として書いたもの。ただ林房雄論のみ雑誌『新潮』に掲載したもので最も力が入っている。本文庫の3分の1、80ページを…

金子兜太の山頭火評価「なんか嫌な野郎だね」

北村皆雄が「金子兜太の語った井月と、山頭火、一茶」で金子兜太の山頭火への厳しい評価を紹介している(『図書』2022年12月号)。 俳人井月(せいげつ、1822-1887)と言っても知らない人の方が多いだろう。信州では北の一茶、南の井月と言われてきたが、知…

黛まどか『句集 北落師門』を読む

黛まどか『句集 北落師門』(文學の森)を読む。面白かった句を拾う。 竹煮草いづくで憑きしひだる神 夏柳風の縺れを雨に解き 「ひだる神」は、『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』によると、 だり神ともいう。憑物 (つきもの) の一種。民間伝承上の一…

夢枕獏『仰天・俳句噺』を読む

夢枕獏『仰天・俳句噺』(文藝春秋)を読む。俳句にまつわるエッセイ。以前夢枕の『仰天・プロレス和歌集』(集英社文庫)を読み、それが面白かったので期待して読んだ。夢枕は最盛期には月に原稿用紙1000枚も書いたという。なるほど、それほど量産できる理…

トルーマン・カポーティ『ここから世界が始まる』を読む

トルーマン・カポーティ『ここから世界が始まる』(新潮文庫)を読む。カポーティの10代の頃書かれた初期短篇集。巻末に村上春樹が「解説 天才作家の天才的習作」を書いている。天才の言葉が2度も使われているが、キモは「習作」だ。やはりカポーティと言え…

三木那由他『会話を哲学する』を読む

三木那由他『会話を哲学する』(光文社新書)を読む。副題が「コミュニケーションとマニピュレーション」。このコミュニケーションとマニピュレーションについて、 ……話し手が発言をおこない、それによって聞き手とのあいだで共有の約束事が形成されるとき、…

塚谷裕一『漱石の白百合、三島の松』を読む

塚谷裕一『漱石の白百合、三島の松』(中公文庫)を読む。副題が「近代文学植物誌」とあり、植物学の専門家である塚谷が日本近代文学に登場する植物についてあれこれ論評している。 本書に興味を持ったのは、須藤靖が「注文の多い雑文 その59」で推薦してい…

中島国彦『森鴎外』を読む

中島国彦『森鴎外』(岩波新書)を読む。鴎外の「決定版」評伝。私は漱石はほとんど読んだが鴎外はほとんど読んでいない。しかし漱石と並ぶ近代文学の重要作家だから読んでみなければなるまい。 鴎外は『舞姫』を書いたようにドイツ留学中に恋人を作り、別れ…

サリンジャー『彼女の思い出/逆さまの森』を読む

サリンジャー『彼女の思い出/逆さまの森』(新潮社)を読む。サリンジャーが戦前から戦後すぐの頃発表した短篇8つと戦後に発表した中篇「逆さまの森」が金原瑞人の新しい訳で収録されている。 「逆さまの森」はこれまでも「倒錯の森」の題で訳されている。…

墨田区と江戸川区の区境の川

旧中川、左:江戸川区、右:墨田区 朝日新聞の朝日歌壇に十亀弘史の短歌が選ばれている(8月28日付け)。 墨田区と江戸川区との区境の川の両側どちらも真夏 (東京都 十亀弘史) 墨田区と江戸川区の区境の川といえば旧中川だ。曲がりくねって決して大きいと…

横尾忠則『創造&老年』を読む

横尾忠則『創造&老年』(SBクリエイティブ)を読む。80歳前後の横尾忠則が、80歳以上の作家、画家、建築家、写真家、映画監督、作曲家らと老年と創造について対談した記録。具体的には、瀬戸内寂聴、磯崎新、野見山暁治、細江英公、金子兜太、李禹煥、佐藤…

石原慎太郎『わが人生の時の時』を読む

石原慎太郎『わが人生の時の時』(新潮文庫)を読む。私は慎太郎があまり好きではなく、ほとんど読んでこなかった。最近友人から、慎太郎ではこの本が好きだと言われ、それでは読んでみようと思った。なるほど、とても気に入った。 慎太郎自身や知人の経験し…

村上春樹『一人称単数』を読む

村上春樹『一人称単数』(文藝春秋)を読む。春樹はあまり読んでこなかった。特に長篇はちょっと苦手だったが、短篇集は好きだった。 さて『一人称単数』だが、いつもに比べて淡々とした印象だ。超常現象的なところが少ないし、エッセイのような味わいだ。「…

山本弘の詩

ここに山本弘の詩集『ありぢごく』第1集がある。発行は55年秋とあるから、山本弘25歳の時だ。そこから何編か紹介する。 (ひきはがされた夢が) ひきはがされた夢がさめきらぬうちに どろにまつわれつかれた足をそのまゝ 冷たい床の中になげ出して 逆上した…

幸田文『崩れ』を読む

幸田文『崩れ』(講談社文庫)を読む。幸田72歳のとき、『婦人の友』に14回に渡って連載したもの。全国の大きな崩壊現場を訪ねてそれを詳しく書いている。静岡県の大谷崩れ、富山県の鳶山崩れ、富士山の大沢崩れ、日光男体山の崩れ、長野県の稗田山崩れ、北…

『吉野弘詩集』を読む

『吉野弘詩集』(角川春樹事務所)を読む。これは「にほんの詩集」という12冊のラインナップの1冊だ。ほかには、『谷川俊太郎』『長田弘』『中島みゆき』『金子みすゞ』『萩原朔太郎』『中原中也』『石垣りん』『まど・みちお』『寺山修司』『工藤直子』『宮…

幸田文『木』を読む

幸田文『木』(新潮文庫)を読む。名文家といえば私にとって、佐多稲子、幸田文、そして野見山暁治だ。幸田文は幸田露伴の娘、青木玉の母親。本書は単行本が発行された1992年に読んでいるから30年ぶりの再読になる。 最初の「えぞ松の更新」はとても印象に残…

大岡昇平『小林秀雄』を読む

大岡昇平『小林秀雄』(中公文庫)を読む。大岡が先輩であり師であった小林秀雄について書いた文章を集めた文庫オリジナル。第1部に批評・書評を、第2部にエッセイ、第3部に追悼文を収め、小林と大岡の対談2編を収録している。 大岡が小林に初めて会ったのは…

『小林秀雄 江藤淳 全対話』を読む

『小林秀雄 江藤淳 全対話』(中公文庫)を読む。17年間に行った5回の対談を網羅したもの。文庫オリジナルという。 一応日本を代表する知性の対談で楽しみにして読んだが、柄谷行人の濃密な対談を読んだ後では、慣れ合った二人のスカスカの雑談を読まされて…

金井美恵子『新・目白雑録』を読む

金井美恵子『新・目白雑録』(平凡社)を読む。金井の『目白雑録』シリーズは朝日新聞出版のPR誌『一冊の本』に連載されていて、ある分量が貯まると朝日新聞出版から単行本が出版されてきた。単行本は5巻まで発行され、しばらくするとそれが朝日文庫になって…

金井美恵子『〈3・11〉はどう語られたか』を読む

金井美恵子『〈3・11〉はどう語られたか』(平凡社ライブラリー)を読む。購入してよく見たら、本書は9年前に朝日新聞出版から発行された『目白雑録5 小さいもの、大きいこと』のタイトルを変えての再発行だった。すでに1度読んでいたし、ブログにも紹介し…

小林貴子『句集 黄金分割』を読む

小林貴子『句集 黄金分割』(朔書房)を読む。小林は1959(昭和34)年、長野県飯田市生まれ。松本の「岳」俳句会に所属し編集長を務めている。先に亡くなった稲畑汀子に代わって、4月から朝日俳壇の選者に就任した。 本書は2008(平成21)年~2014(平成26…

矢島渚男『虚子点描』を読む

矢島渚男『虚子点描』(紅書房)を読む。本書について矢島が「あとがき」で書いている。 これは自分の俳誌『梟』に毎号1ページの短文を「虚子雑談」として好きな句や気になる句を季節に従いつつ、青年時代を書いたり、晩年の作品に行ったり、壮年期に戻った…

荒川洋治 編『昭和の名短篇』を読む

荒川洋治 編『昭和の名短篇』(中公文庫)を読む。荒川洋治は現代詩人だが、本の読み巧者でもある。荒川の取り上げる書評は面白く私は絶大な信頼を寄せている。その荒川が取り上げた昭和の名短篇のアンソロジー。志賀直哉から色川武大までの14人の作家の14作…