文学

『吉本和子句集 七耀』を読む

夭折の霊か初蝶地を慕う 墓までの遠き道辺の姫女苑 家重し七耀歩む蝸牛 大夕立人は魚となりて跳ね 眠られぬ夜はまず風鈴を眠らせる 秋燕の並みて越ゆべき海を見る コスモスの背き合いつつみなやさし 血の色に昇るもやがて名月に 触れられて触れて芒の道を行…

馬場あき子『掌編 源氏物語』を読む

馬場あき子『掌編 源氏物語』(潮文庫)を読む。あの長大な源氏物語を文庫本1冊にまとめたもの。香老舗松栄堂が法人設立50周年の記念事業で『源氏物語』54帖の物語の絵をそろえたいと企画したもの。京都画壇の日本画家54人に依頼して描かれた絵に、馬場あき…

大江健三郎・江藤淳『大江健三郎 江藤淳 全対話』を読む

大江健三郎・江藤淳『大江健三郎 江藤淳 全対話』(中央公論新社)を読む。全対話とあるが、1960年、1965年、1968年、1970年の4回になる。 1960年の対話は安保改定に関するもので、政治に無関心な層が多い『週刊明星』で行われ、わずか6ページにしか過ぎな…

ジャック・ケルアック『オン・ザ・ロード』を読む

ジャック・ケルアック、青山南・訳『オン・ザ・ロード』(河出文庫)を読む。原書は1957年に出版され、日本でも1950年代にすでに『路上』の題名で翻訳発行されていた。アメリカで原書が発行されてすぐベストセラーとなり、ビート・ジェネレーションのバイブ…

豊崎由美『時評書評』を読む

豊崎由美『時評書評』(教育評論社)を読む。副題が「忖度なしのブックガイド」、これが素晴らしい! 書評家としては斎藤美奈子のファンだけど、斎藤に劣らず魅力的な書評を書いている。ほとんど毒舌に近い辛口の書評! 読み終わって推薦されている本を早速…

石垣りん『詩の中の風景』を読む

石垣りん『詩の中の風景』(中公文庫)を読む。荒川洋治が毎日新聞の書評で本書を紹介していた(2024年3月30日)。荒川洋治の推薦する本は外れがないと個人的には思っている。それですぐ購入して読んだ。 百姓をやり猟師もやる朝日新聞の名物記者近藤康太郎…

吉本隆明『わたしの本はすぐに終る』を読む

吉本隆明『わたしの本はすぐに終る』(講談社文芸文庫)を読む。吉本隆明の詩集。本書は『転位のための十篇』より後、1950年代前半から80年代半ばまで書かれてきた作品から著者が自ら選んだ65篇、単行本として刊行された詩集『記号の森の伝説歌』『言葉から…

ゴールズワージー『林檎の木』を読む

ゴールズワージー著、法村里絵訳『林檎の木』(新潮文庫)を読む。私の古くからの友人が、感動した小説として4冊を挙げた。ドストエフスキー『罪と罰』、スタンダール『赤と黒』、ツルゲーネフ『初恋』、ゴールズワージー『林檎の木』だった。私はこの内『…

金子光晴『詩人/人間の悲劇』を読む

金子光晴『詩人/人間の悲劇』(ちくま文庫)を読む。「詩人」は自伝、「人間の悲劇」は自伝的詩集。「解説」で高橋源一郎が、日本を代表する近代詩人のベスト5を選んで、中原中也、宮沢賢治、萩原朔太郎、高村光太郎らと並べて第1位に金子光晴を挙げている…

出久根達郎『[大増補] 古本綺譚』を読む

出久根達郎『[大増補] 古本綺譚』(平凡社ライブラリー)を読む。出久根がまだ作家ではなく古本屋の店主だった頃、経営する芳雅堂の古書目録『書宴』の埋草として書いていたものが評判を呼び、新泉社から『古本綺譚』として出版された。それを「大増補」し…

イザベラ・バード『日本奥地紀行』を読む

イザベラ・バード『日本奥地紀行』(平凡社ライブラリー)を読む。イザベラ・バードは1931年イギリス生まれ、明治11年、48歳のとき来日して6月から9月にかけて日本人従者をたった1人連れて東京から北海道へ旅行している。その詳細な記録。道路事情は最悪で…

『出久根達郎の古本屋小説集』を読む

『出久根達郎の古本屋小説集』(ちくま文庫)を読む。古本屋店主にして直木賞作家になった出久根の古本屋に関する小説を集めたもの。出久根は中学卒業後集団就職で東京月島の古本屋に就職し、29歳のとき独立して高円寺で古本屋を開業する。 昔(9年前)出久…

奥憲介『「新しい時代」の文学論』を読む

奥憲介『「新しい時代」の文学論』(NHKブックス)を読む。副題が「夏目漱石、大江健三郎、そして3.11へ」。 第1章で夏目漱石の『こころ』を取り上げ、全体の半分に当たる第2章で大江健三郎が取り上げられる。3分の1に当たる第3章は「「新しい時代」の文学…

坂口安吾『堕落論』を読む,、そして山本弘の戦争体験

坂口安吾『堕落論』(新潮文庫)を読む。56~57年ぶりの再読。そんなことを覚えているのは、山本弘に初めて会った時、『堕落論』を読めと言われたからだ。その時私は19歳で、『堕落論』はすでに読んでいた。『堕落論』は戦後すぐの昭和21年に坂口安吾が出版…

半藤一利『安吾さんの太平洋戦争』を読む

半藤一利『安吾さんの太平洋戦争』(ちくま文庫)を読む。作家坂口安吾が太平洋戦争中、どんな生活を送ったかどんなことを書いていたかを昭和11年から昭和21年まで、1年ごとに詳しく紹介している。 昭和11年は2.26事件が起こった年だ。安吾はこの事件をすぐ…

海老坂武『戦後文学は生きている』を読む

海老坂武『戦後文学は生きている』(講談社現代新書)を読む。フランス文学者で大江健三郎の東大での同級生だった海老坂武が日本の戦後文学から20冊を選んで紹介している。 取り上げられた20冊は、 日本戦没学生記念会編『きけ わだつみのこえ』 梅崎春生『…

井上ひさし『芝居の面白さ、教えます 日本編』を読む

井上ひさし『芝居の面白さ、教えます 井上ひさしの戯曲講座 日本編』(作品社)を読む。これが面白かった。仙台文学館の初代館長だった井上ひさしが行なった戯曲講座という講演会と文学講座を文字起こししたもの。ほかに「海外篇」もある。 取り上げられたの…

大江健三郎『親密な手紙』を読む

大江健三郎『親密な手紙』(岩波新書)を読む。雑誌『図書』に2010年から2013年まで連載されたエッセイをまとめたもの。『図書』の1ページだけのエッセイだった。短いものなのであまり複雑な内容は期待できない。しかし久しぶりの大江健三郎の新刊でそれな…

会田誠『げいさい』を読む

会田誠『げいさい』(文春文庫)を読む。会田誠は売れっ子の現代美術家、でも文章も得意で数々のエッセイのほか、『青春と変態』という小説もある。裏表紙の惹句から、 佐渡出身で芸大志望の僕は多摩美の学園祭を訪れ、カオス化した打ち上げに参加する。酒を…

梶山季之『李朝残影』を読む

梶山季之『李朝残影』(光文社文庫)を読む。梶山季之はかつて『黒の試走車』などベストセラー作家だったが、45歳で病没した。1930年、現在の韓国ソウルで生まれ、15歳のとき終戦とともに帰国した。 「族譜」は朝鮮の旧家の家系図で、古い家系は700年も記録…

日本美術の二つの様式

恩田侑布子『星を見る人』』(春秋社)の書評を渡辺保が毎日新聞に書いている(2023年9月23日朝刊)。本書で恩田は久保田万太郎の俳句を分析しているが、渡辺は「俳句そのものも面白いが、著者の解釈が面白く、批評の文学になっている」と称える。 さらに渡…

小室直樹『新版 三島由紀夫が復活する』を読む

小室直樹『新版 三島由紀夫が復活する』(毎日ワンズ)を読む。初めに第1章「三島由紀夫と二・二六事件」として2.26事件が詳しく語られる。それも反乱軍である青年将校側に立って事件を語っている。2.26事件に際して昭和天皇が鎮圧を命じた。それを三島は深…

吉行淳之介『目玉』を読む

吉行淳之介『目玉』(新潮文庫)を読む。以前読んでいたが、荒川洋治が『文庫の読書』(中公文庫)で、戦後の最高の短篇小説10篇の中に吉行淳之介の「葛飾」を挙げていた。それで「葛飾」の入っている短篇集『目玉』を再読した。 『目玉』は、単行本が平成元…

荒川洋治『文庫の読書』を読む

荒川洋治『文庫の読書』(中公文庫)を読む。荒川は詩人で書評家、私の大好きな文筆家だ。ここには荒川が書いた文庫本の書評が100冊分集められている。 気になったところを引用する。三浦哲郎『盆土産と十七の短篇』の項で、荒川が評価する短編が列挙される。…

中央公論新社 編『対談 日本の文学 作家の肖像』を読む

中央公論新社 編『対談 日本の文学 作家の肖像』(中公文庫)を読む。1960年代の後半に中央公論社から『日本の文学』全80巻が刊行された。その月報の対談を編集したもの、全3巻の最終巻。25篇が収録されている。この巻が一番面白かった。 柳田国男と折口信…

石畑由紀子『エゾシカ/ジビエ』を読む

石畑由紀子『エゾシカ/ジビエ』(六花書林)を読む。石畑は1971年北海道帯広市生まれ、初め自由詩を書いていたが、30代後半になって短歌を詠み始めたという。本書が第1歌集となる。 恋愛は人をつかってするあそび 洗面台に渦みぎまわり ゆびさきでのぼりつ…

斎藤美奈子『出世と恋愛』を読む

斎藤美奈子『出世と恋愛』(講談社現代新書)を読む。副題が「近代文学で読む男と女」。 斎藤の視点はいつも皮肉で辛辣で面白い。 最初にいっておくと、近代日本の青春小説はみんな同じだ。「みんな同じ」は誇張だが、そう錯覚しても仕方ないほど、似たよう…

桑原武夫『文明感想集』を読む

桑原武夫『文明感想集』(筑摩書房)を読む。1970年代前半頃あちこちに描いたエッセイを集めたもの。「今西錦司について」は今西の全集のための解説だが、今西の偉大さをよく示している。でも20年以上前に今西の孫弟子にあたる京都大学の昆虫学者に会ったと…

桑原武夫『思い出すこと忘れえぬ人』を読む

桑原武夫『思い出すこと忘れえぬ人』(講談社文芸文庫)を読む。桑原の出生時から旧制高校1年の夏休みまでを記した著者唯一の自叙伝だという。桑原は第一流の学者であるが、とりわけ劇的な生涯は送っていない。しかも旧制高校1年までの自伝だから、とりわ…

高見澤潤子『兄 小林秀雄』を読む

高見澤潤子『兄 小林秀雄』(新潮社)を読む。小林秀雄の妹潤子はマンガ『のらくろ』の作者田河水泡と結婚して高見澤潤子となった。兄を深く尊敬していて、小林秀雄が亡くなった2年後、雑誌『新潮』に兄の思い出を連載する。 妹しか知らないプライベートなエ…