文学
小室直樹『新版 三島由紀夫が復活する』(毎日ワンズ)を読む。初めに第1章「三島由紀夫と二・二六事件」として2.26事件が詳しく語られる。それも反乱軍である青年将校側に立って事件を語っている。2.26事件に際して昭和天皇が鎮圧を命じた。それを三島は深…
吉行淳之介『目玉』(新潮文庫)を読む。以前読んでいたが、荒川洋治が『文庫の読書』(中公文庫)で、戦後の最高の短篇小説10篇の中に吉行淳之介の「葛飾」を挙げていた。それで「葛飾」の入っている短篇集『目玉』を再読した。 『目玉』は、単行本が平成元…
荒川洋治『文庫の読書』(中公文庫)を読む。荒川は詩人で書評家、私の大好きな文筆家だ。ここには荒川が書いた文庫本の書評が100冊分集められている。 気になったところを引用する。三浦哲郎『盆土産と十七の短篇』の項で、荒川が評価する短編が列挙される。…
中央公論新社 編『対談 日本の文学 作家の肖像』(中公文庫)を読む。1960年代の後半に中央公論社から『日本の文学』全80巻が刊行された。その月報の対談を編集したもの、全3巻の最終巻。25篇が収録されている。この巻が一番面白かった。 柳田国男と折口信…
石畑由紀子『エゾシカ/ジビエ』(六花書林)を読む。石畑は1971年北海道帯広市生まれ、初め自由詩を書いていたが、30代後半になって短歌を詠み始めたという。本書が第1歌集となる。 恋愛は人をつかってするあそび 洗面台に渦みぎまわり ゆびさきでのぼりつ…
斎藤美奈子『出世と恋愛』(講談社現代新書)を読む。副題が「近代文学で読む男と女」。 斎藤の視点はいつも皮肉で辛辣で面白い。 最初にいっておくと、近代日本の青春小説はみんな同じだ。「みんな同じ」は誇張だが、そう錯覚しても仕方ないほど、似たよう…
桑原武夫『文明感想集』(筑摩書房)を読む。1970年代前半頃あちこちに描いたエッセイを集めたもの。「今西錦司について」は今西の全集のための解説だが、今西の偉大さをよく示している。でも20年以上前に今西の孫弟子にあたる京都大学の昆虫学者に会ったと…
桑原武夫『思い出すこと忘れえぬ人』(講談社文芸文庫)を読む。桑原の出生時から旧制高校1年の夏休みまでを記した著者唯一の自叙伝だという。桑原は第一流の学者であるが、とりわけ劇的な生涯は送っていない。しかも旧制高校1年までの自伝だから、とりわ…
高見澤潤子『兄 小林秀雄』(新潮社)を読む。小林秀雄の妹潤子はマンガ『のらくろ』の作者田河水泡と結婚して高見澤潤子となった。兄を深く尊敬していて、小林秀雄が亡くなった2年後、雑誌『新潮』に兄の思い出を連載する。 妹しか知らないプライベートなエ…
大岡昇平『成城だよりⅢ』(中公文庫)を読む。1985年、大岡75-76歳の時の日記。大岡はこの3年後に亡くなっている。『成城だより』の最終巻。外出して映画館でちょっと寒かったとき風邪を引いている。遠くまで散歩に出られないなど健康の不安を訴えている。…
夏井いつき『句集 伊月集 鶴』(朝日出版社)を読む。マスコミに出演して人気のある俳人の50代の句を集めた句集。繊細なものへの気づきが見事だと思う。 龍角散みたいに冬の日の匂ふ 馬臭き氷を育てゐるバケツ 水は球体そらも球体春もまた 隠居所の伊万里の…
中央公論新社 編『対談 日本の文学 素顔の文豪たち』(中公文庫)を読む。1960年代の後半に中央公論社から『日本の文学』全80巻が刊行された。その月報の対談を編集したもの、全3巻で刊行予定の1冊目。24篇が収録されている。 幸田露伴について幸田文と瀬…
持田叙子 編『安岡章太郎短篇集』(岩波文庫)を読む。持田が選んだ安岡章太郎の短篇集。31歳で発表した「ガラスの靴」から58歳の「猶予時代の歌」までの14篇が収録されている。 安岡章太郎は昔何かを読んだけどあまり感心しなかったので、以来読んだことが…
グレアム・グリーン『ジュネーヴのドクター・フィッシャー』(ハヤカワ文庫)を読む。カバーの惹句から、 スイスのチョコレート製造会社に勤務する平凡な事務員ジョーンズは、全くの偶然から30も年下のアンナ・ルイーズと知りあい、愛しあって結婚した。彼女…
川端康成『みずうみ』(新潮文庫)を読む。高校教師桃井銀平が教え子と関係し職を追われる。退職後もその教え子と付き合っていたが、彼女の親に見つかり離れ離れにされる。桃井銀平は別の少女を見初めストーカー行為を繰り返す。 解説で中村真一郎が本作を絶…
マリオ・バルガス=リョサ ほか『ラテンアメリカ五人集』(集英社文庫)を読む。 本書には、ホセ・エミリオ・パチェーコ「砂漠の戦い」、マリオ・バルガス=リョサ「子犬たち」、カルロス・フエンテス「二人のエレーナ」、オクタビオ・パス「白」「青い花束…
小谷野敦『川端康成と女たち』(幻冬舎新書)を読む。川端の文学に現れる女性たちのモデルを探っている。いつもながら小谷野は品が悪いが、『雪国』の分析など教えられることが多かった。『雪国』は川端があちこちの雑誌に書き継いで後にそれを単行本にして…
カミュ『異邦人』(新潮文庫)を読む。『異邦人』は50年以上前、繰り返し読んだ本だ。おそらく10回は読んだのではないか。自分の中では詩集を除けば最も繰り返し読んだ本だ。次いで読んだのがル・クレジオの『調書』だった。『調書』は18歳の時から数年間は…
筒井康隆『大いなる助走』(文春文庫)を読む。大岡昇平の『成城だよりⅡ』を読んでいたら、この本の解説を書いたとあった。それで興味を持って読んでみた。読み始めてしばらくして途中でやめたくなった。だが読み始めた本は読み切るのがモットーなので最後ま…
金井美恵子『迷い猫あずかってます』(中公文庫)を読む。1990年12月18日に子猫が迷い込んできた。飼い猫のようだったので、ちらしを作りあちこちに貼りだした。ちらしの文言、 迷い猫あずかってます 12月18日の昼ごろから、/この近辺で/迷い子になって/…
斎藤美奈子が「旅する文學 岐阜編」で、岐阜県を舞台とする小説を紹介している(朝日新聞、2023年3月31日夕刊)。 島崎藤村『夜明け前』(岩波文庫など)について、 (……)ひと言でいうとこれは地方から見た明治維新の裏面史だ。維新に夢をつなぐも裏切られ…
十重田裕一『川端康成』(岩波新書)を読む。副題が「孤独を駆ける」、川端康成の評伝だ。私は若いころ川端が好きで、長篇など主な作品はほとんど読んでいた。もう50年前になる。そんなこともあって新刊が発売されてすぐ買い、早速に読んだ。 十重田は本書で…
大岡昇平『成城だよりⅡ』(中公文庫)を読む。大岡が1981年の日記を『文学界』に連載したもの。大岡73歳。足が衰えて自分のことをよれよれのもうろくじじい等と自嘲している。しかし舌鋒は変わらず鋭い。 (……)青山学院院長大木某、縁故入学は創業以来の方…
金子兜太・又吉直樹『孤独の俳句』(小学館新書)を読む。副題が「“山頭火と放哉”名句110選」というもの。兜太が山頭火の55句を選び、又吉が放哉の55句を選んで、それぞれ解説をしている。 兜太の選んだ山頭火の句とその解説、 分け入つても分け入つても青い…
2月3日は節分だった。節分の夜は大島かづ子の短歌を思い出す。 追儺の豆外には打たじ戸はたてじ召さりし護国の鬼の兄来よ 追儺(ついな)は節分の夜、桃の弓で葦の矢を放って悪魔を追い払う儀式。戦死した兵は鬼となって国を守るとされた。戦死した兄を妹…
梅崎春生『カロや』(中公文庫)を読む。梅崎は飼った猫をカロと名付ける。4代にわたって飼われたが、いずれもカロと名付けられた。その3代目のカロについて、 (……)カロが、我が家の茶の間を通るとき、高さが5寸ばかりになる。私が茶の間にいるとき、こと…
『O・ヘンリーニューヨーク小説集』(ちくま文庫)を読む。もう60年近く前に読んだ・ヘンリーの短篇集だが、本書はニューヨークを舞台にしたものを集めている。しかし、特筆すべきは訳者だろう。青山南+戸山翻訳農場 訳となっている。青山南は有名な翻訳者…
佐野洋子『覚えていない』(マガジンハウス)を読む。主に1990年前後に雑誌等に掲載されたエッセイなどを集めたもの。佐野を読む面白さは、女性の極論的本音を知ることができると思われるからだ。 佐野が、テレビのアナウンサーが、年取って容貌がおとろえた…
谷川俊太郎『女に』(集英社)を読む。詩が谷川俊太郎、絵が佐野洋子。本書の初版はマガジンハウスからで1991年だった。谷川はこの前年1990年に佐野洋子と3回目の結婚をしている。この時谷川は59歳、佐野は2度目の結婚で52歳だった。 『女に』は佐野と結婚…
第39回朝日歌壇賞に佐々木幸綱は十亀弘史の次の歌を選んだ(朝日新聞2023年1月8日付)。 戦争は祈りだけでは止まらない 陽に灼かれつつデモに加わる 十亀さんは時折朝日歌壇に選ばれ常連の一人となっている。もう何年にもなるが、ある時獄に入ると詠って強…