文学

熊野純彦『三島由紀夫』を読む

熊野純彦『三島由紀夫』(清水書院)を読む。同社の「人と思想シリーズ」その197巻目。圧倒的な傑作評伝である。熊野は哲学者、マルクス、ヘーゲル、カント、レヴィナスなどについて書いている。さらに最近は本居宣長論も評価が高い。難解な哲学で知られる廣…

『定本 黒田三郎詩集』を読む

『定本 黒田三郎詩集』(昭森社)を読む。600ページ余の厚い本に200篇ほどの詩が収録されている。黒田三郎は好きで読んできたが、こんなまとまったものを読むのは初めてだ。 まとめて読んで、やはり良いのは『ひとりの女に』として出版された詩集だ。奥さん…

幽草の句

先日曽根原幽草のあじさいの句を紹介したが、『合同句集 岳樺』(雲母長野句会発行)に載っているほかの句も紹介したい。発行は平成2年、1990年1月1日。 あぢさゐや南溟遠く沈みし船悲しみを頒つひとありさくらんぼ甚平やどこから見ても小さき耳さぎ草の揺る…

紫陽花の句

紫陽花が咲いている。日本古来のガクアジサイに加えて、それがヨーロッパへ渡って改良され、西洋アジサイとかハイドランジアという名前で街のあちこちに青、ピンク、白などの花を咲かせている。 ここにアジサイの句を紹介する。 あ ぢ さ ゐ や 南 溟 遠 く …

佐藤正午『小説の読み書き』を読む

佐藤正午『小説の読み書き』(岩波新書)を読む。岩波書店のPR誌『図書』に2年間連載したもの。作家佐藤正午が著名な12冊の小説を取り上げて感想を書いている。これが面白い。作家らしく文体などのある種細部にこだわり、それを追求していく。 中勘助の『銀…

松岡正剛『日本文化の核心』を読む

松岡正剛『日本文化の核心』(講談社現代新書)を読む。カバーに「松岡日本論」の集大成とある。いくつかの新聞の書評で絶賛されていたと思うが、その記事が見当たらない。 松岡は古代からの日本の文化を取り上げて、それを編集して松岡日本論を提出する。そ…

幽草の俳句

幽草さんはわが義父、1924年生まれで早稲田大学在学中に学徒出陣で中国戦線に投入された。終戦後大学に戻り、卒業後長野県で教職に就いた。趣味で俳句を作り『雲母』に属していたが、『雲母』の終刊とともに結社に属することをやめ、個人的な集りでのみ発表…

椋鳩十の顔について

コロナ禍で家にこもっていて古い写真を整理していると昔撮った椋鳩十の銅像写真がでてきた。椋鳩十は長野県喬木村出身の童話作家。本名久保田彦穂、1905-1987。母親を早くに亡くし、継母との折り合いが悪く、法政大学文学部卒業後鹿児島の女学校へ赴任し、故…

トルーマン・カポーティ『ティファニーで朝食を』を見て読む

トルーマン・カポーティ『ティファニーで朝食を』を見て読む。最初にオードリー・ヘップバーンが主演した映画を見た。オードリーの映画は50年以上前に『マイフェアレディ』と『ローマの休日』を見て以来だ。原作は龍口直太郎訳の新潮文庫を35年ほど前に読ん…

古井由吉『半自叙伝』を読む

2月18日に古い由吉が亡くなった。82歳だった。それを機として、毎日新聞(3月29日)と朝日新聞(4月11日)の書評欄に古井についての追悼文が載った。 毎日新聞で富岡幸一郎が書く。 現代日本文学で「小説」というジャンルをこれほど深く広い領域にまで展開さ…

『シルヴィア・プラス詩集』を読む

ここに掲げた絵は、雑誌『ちくま』4月号の表紙だ。この下手なような女性の絵は小林エリカが描いた詩人シルヴィア・プラスの肖像。表紙裏にシルヴィア・プラスについて小林エリカが書いている。 シルヴィア・プラスはアメリカ生まれの詩人、小説家。才色兼備…

水野朝『詩集ラピス・ラズリ』を読む

水野朝『詩集ラピス・ラズリ』(広瀬企画)を読む。本書を知り合いの画商さんから頂いた。水野は1945年生まれ、本書が10冊目の詩集となる。また水野は画家でもある。画家として作品を5万点以上作り、4千点作品を売ったと詩の中で書いている。 水野は中学生…

歌人 諏訪兼位氏亡くなる

今朝(3月22日)の朝日歌壇の高野公彦選の筆頭は諏訪兼位だった。 「わすれても大丈夫、僕が覚えておくよ」日福大生の認知症カルタ (名古屋市)諏訪兼位 選評「一首目、日本福祉大の女子学生たちが作ったカルタ。どの札も優しさに満ちているのだろう。なお…

高橋源一郎『間違いだらけの文章教室』を読む

高橋源一郎『間違いだらけの文章教室』(朝日文庫)を読む。以前、『ぼくらの文章教室』として単行本で出ていたものを改題し、学生たちの書いた「吉里吉里国憲法前文」を加筆したもの。 例文にいくつもの文章が引用されている。最初の文章は、木村センという…

鬼海弘雄『靴底の減りかた』を読む

鬼海弘雄『靴底の減りかた』(筑摩書房)を読む。厳しい写真を撮っている鬼海の文字だけのエッセイ集だ。いや、32ページのモノクロ写真が挟み込まれているが。 鬼海は淡々と書き綴っていく。事件はほとんど起こらない。いや鬼海はトルコだけで15年間に6回旅…

東直子歌集『青卵』を読む

東直子歌集『青卵(せいらん)』(ちくま文庫)を読む。東2冊目の歌集。その歌のいくつかを引く。 ママンあれはぼくの鳥だねママンママンぼくの落とした砂じゃないよねピストルに胸を刺されて死んだのよ、ママン、水着の回転木馬煙立つ終点の駅我がドアを砂…

獄舎の歌

朝日新聞の「朝日歌壇」に吉島覚の歌が馬場あき子選で載っている(2月2日付け)。 年越して訳の分からぬ一体感真夜の獄舎に静かな熱気 (広島市)吉島覚 獄舎と詠っていて広島市在住とあるから広島刑務所に服役中なのだろうか。今まで気がつかなかったが、ネ…

道浦母都子『無援の抒情』を読む

道浦母都子『無援の抒情』(岩波同時代ライブラリー)を読む。感動して読み終わって、いくつか知っている歌やエッセイがあるのはどこで知ったのだったのかと考えていた。念のためにこのブログを検索したら4年前に読んで感想をアップしていた。すっかり忘れて…

三島由紀夫『告白』を読む

三島由紀夫『告白』(講談社文庫)を読む。副題が「三島由紀夫未公開インタビュー」、TBSの社内倉庫から平成25年に発見された録音テープを起こしたもの。三島の『太陽と鉄』などの翻訳者であるジョン・べスターが三島にインタビューしたテープだった。録音日…

ドゥ・ヴィット、谷川俊太郎『あのひと』を読む

マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット構成・絵、谷川俊太郎 詩の『あのひと』(スタジオジブリ)という〈やおい〉絵本を読む。 谷川俊太郎の詩が「私はひとり そらのした/私はひとり くさのうえ/私はひとり ひとりがいい/あのひとを ゆめみて」と書かれ、…

宇野千代『青山二郎の話・小林秀雄の話』を読む

宇野千代『青山二郎の話・小林秀雄の話』(中公文庫)を読む。青山、小林と併記されているが、青山が全体の3/4を占め、その中でも「青山二郎の話」が全体の半分を占めている。「青山二郎の話」は宇野が最晩年に雑誌に連載していたもので、おそらく執筆途中…

深沢眞二『連句の教室』を読む

深沢眞二『連句の教室』(平凡社新書)を読む。深沢は和光大学の教授で、一般教養科目で連句を巻く授業をしていて、その一部始終を本にまとめたもの。初心者の学生たちに連句に参加させ、その結果で単位を与えるとしている。 初心者の学生たちに連句のルール…

道浦母都子『女歌の百年』を読む

道浦母都子『女歌の百年』(岩波新書)を読む。最初に俵万智とその同時代の水原紫苑、米川千嘉子が取り上げられる。そして与謝野晶子から始まって、山川登美子、茅野雅子、九條武子、柳原白蓮、原阿佐緒、三ヶ島葦子、岡本かの子、中条ふみ子、齋藤史、葛原…

野坂昭如『吾輩は猫が好き』を読む

野坂昭如『吾輩は猫が好き』(中公文庫)を読む。野坂がヒマラヤンの猫を5匹飼っていた頃、シベリアンハスキーのジジを散歩に連れ出した時に道路の植え込みでジジが仔猫をくわえてきた。野坂はその仔猫を拾って帰りチャーリーと名づける。しかし先住のヒマラ…

穂村弘『短歌ください』を読む

穂村弘『短歌ください』(メディアファクトリー)を読む。雑誌『ダ・ヴィンチ』誌上で短歌を募集し、応募された短歌を穂村が選びコメントしている。 面白い作品を拾ってみる。 好きでしょ、蛇口。だって飛びでているとこが三つもあるし、光っているわ (陣崎…

穂村弘=監修『はじめての短歌』を読む

穂村弘=監修『はじめての短歌』(成美堂出版)を読む。穂村は日経新聞の短歌欄の選者をしている。そこに送られてきた短歌を例にとってそれを改悪などして、良い短歌悪い短歌を解説している。 空き巣でも入ったのかと思うほどわたしの部屋はそういう状態 平…

小林信彦『和菓子屋の息子』を読む

小林信彦『和菓子屋の息子』(新潮社)を読む。副題が「ある自伝的試み」とある。小林の生家は京保年間創業の老舗の和菓子屋だった。店舗兼工場兼住宅は両国にあった。地名が変わって今は東日本橋という。現在の両国は昔は東両国と言った。戦前東京の盛り場…

坂本砂南+鈴木半酔『はじめての連句』を読む

坂本砂南+鈴木半酔『はじめての連句』(木魂社)を読む。来年の年賀状の文面を考えていて、10年前に義父からいただいた年賀状にあった俳句を使わせてもらおうと思った。しかしそれだけでは芸がないと考えて、連句のように脇を付けようと思った。だが、連句…

若松英輔『詩集 幸福論』と『詩集 燃える水滴』を読む

若松英輔『詩集 幸福論』と『詩集 燃える水滴』(どちらも亜紀書房)を読む。荒川洋治が『霧中の読書』(みすず書房)で若松の詩について、「素朴なのはいいが、ものの見方がすこぶる単純。ほんとうはあまりものを考えない人なのではないかと思った」と書い…

荒川洋治「美代子、石を投げなさい」

荒川洋治が芸術院会員に選ばれた。会員には年間250万円の報酬が出る。詩人というおそらくは裕福ではない優れた詩人のためにそのことを喜びたい。それで私の好きな荒川の詩「美代子、石を投げなさい」を紹介したい。(以下、全文) 美代子、石を投げなさい 宮…