文学

三木那由他『会話を哲学する』を読む

三木那由他『会話を哲学する』(光文社新書)を読む。副題が「コミュニケーションとマニピュレーション」。このコミュニケーションとマニピュレーションについて、 ……話し手が発言をおこない、それによって聞き手とのあいだで共有の約束事が形成されるとき、…

塚谷裕一『漱石の白百合、三島の松』を読む

塚谷裕一『漱石の白百合、三島の松』(中公文庫)を読む。副題が「近代文学植物誌」とあり、植物学の専門家である塚谷が日本近代文学に登場する植物についてあれこれ論評している。 本書に興味を持ったのは、須藤靖が「注文の多い雑文 その59」で推薦してい…

中島国彦『森鴎外』を読む

中島国彦『森鴎外』(岩波新書)を読む。鴎外の「決定版」評伝。私は漱石はほとんど読んだが鴎外はほとんど読んでいない。しかし漱石と並ぶ近代文学の重要作家だから読んでみなければなるまい。 鴎外は『舞姫』を書いたようにドイツ留学中に恋人を作り、別れ…

サリンジャー『彼女の思い出/逆さまの森』を読む

サリンジャー『彼女の思い出/逆さまの森』(新潮社)を読む。サリンジャーが戦前から戦後すぐの頃発表した短篇8つと戦後に発表した中篇「逆さまの森」が金原瑞人の新しい訳で収録されている。 「逆さまの森」はこれまでも「倒錯の森」の題で訳されている。…

墨田区と江戸川区の区境の川

旧中川、左:江戸川区、右:墨田区 朝日新聞の朝日歌壇に十亀弘史の短歌が選ばれている(8月28日付け)。 墨田区と江戸川区との区境の川の両側どちらも真夏 (東京都 十亀弘史) 墨田区と江戸川区の区境の川といえば旧中川だ。曲がりくねって決して大きいと…

横尾忠則『創造&老年』を読む

横尾忠則『創造&老年』(SBクリエイティブ)を読む。80歳前後の横尾忠則が、80歳以上の作家、画家、建築家、写真家、映画監督、作曲家らと老年と創造について対談した記録。具体的には、瀬戸内寂聴、磯崎新、野見山暁治、細江英公、金子兜太、李禹煥、佐藤…

石原慎太郎『わが人生の時の時』を読む

石原慎太郎『わが人生の時の時』(新潮文庫)を読む。私は慎太郎があまり好きではなく、ほとんど読んでこなかった。最近友人から、慎太郎ではこの本が好きだと言われ、それでは読んでみようと思った。なるほど、とても気に入った。 慎太郎自身や知人の経験し…

村上春樹『一人称単数』を読む

村上春樹『一人称単数』(文藝春秋)を読む。春樹はあまり読んでこなかった。特に長篇はちょっと苦手だったが、短篇集は好きだった。 さて『一人称単数』だが、いつもに比べて淡々とした印象だ。超常現象的なところが少ないし、エッセイのような味わいだ。「…

山本弘の詩

ここに山本弘の詩集『ありぢごく』第1集がある。発行は55年秋とあるから、山本弘25歳の時だ。そこから何編か紹介する。 (ひきはがされた夢が) ひきはがされた夢がさめきらぬうちに どろにまつわれつかれた足をそのまゝ 冷たい床の中になげ出して 逆上した…

幸田文『崩れ』を読む

幸田文『崩れ』(講談社文庫)を読む。幸田72歳のとき、『婦人の友』に14回に渡って連載したもの。全国の大きな崩壊現場を訪ねてそれを詳しく書いている。静岡県の大谷崩れ、富山県の鳶山崩れ、富士山の大沢崩れ、日光男体山の崩れ、長野県の稗田山崩れ、北…

『吉野弘詩集』を読む

『吉野弘詩集』(角川春樹事務所)を読む。これは「にほんの詩集」という12冊のラインナップの1冊だ。ほかには、『谷川俊太郎』『長田弘』『中島みゆき』『金子みすゞ』『萩原朔太郎』『中原中也』『石垣りん』『まど・みちお』『寺山修司』『工藤直子』『宮…

幸田文『木』を読む

幸田文『木』(新潮文庫)を読む。名文家といえば私にとって、佐多稲子、幸田文、そして野見山暁治だ。幸田文は幸田露伴の娘、青木玉の母親。本書は単行本が発行された1992年に読んでいるから30年ぶりの再読になる。 最初の「えぞ松の更新」はとても印象に残…

大岡昇平『小林秀雄』を読む

大岡昇平『小林秀雄』(中公文庫)を読む。大岡が先輩であり師であった小林秀雄について書いた文章を集めた文庫オリジナル。第1部に批評・書評を、第2部にエッセイ、第3部に追悼文を収め、小林と大岡の対談2編を収録している。 大岡が小林に初めて会ったのは…

『小林秀雄 江藤淳 全対話』を読む

『小林秀雄 江藤淳 全対話』(中公文庫)を読む。17年間に行った5回の対談を網羅したもの。文庫オリジナルという。 一応日本を代表する知性の対談で楽しみにして読んだが、柄谷行人の濃密な対談を読んだ後では、慣れ合った二人のスカスカの雑談を読まされて…

金井美恵子『新・目白雑録』を読む

金井美恵子『新・目白雑録』(平凡社)を読む。金井の『目白雑録』シリーズは朝日新聞出版のPR誌『一冊の本』に連載されていて、ある分量が貯まると朝日新聞出版から単行本が出版されてきた。単行本は5巻まで発行され、しばらくするとそれが朝日文庫になって…

金井美恵子『〈3・11〉はどう語られたか』を読む

金井美恵子『〈3・11〉はどう語られたか』(平凡社ライブラリー)を読む。購入してよく見たら、本書は9年前に朝日新聞出版から発行された『目白雑録5 小さいもの、大きいこと』のタイトルを変えての再発行だった。すでに1度読んでいたし、ブログにも紹介し…

小林貴子『句集 黄金分割』を読む

小林貴子『句集 黄金分割』(朔書房)を読む。小林は1959(昭和34)年、長野県飯田市生まれ。松本の「岳」俳句会に所属し編集長を務めている。先に亡くなった稲畑汀子に代わって、4月から朝日俳壇の選者に就任した。 本書は2008(平成21)年~2014(平成26…

矢島渚男『虚子点描』を読む

矢島渚男『虚子点描』(紅書房)を読む。本書について矢島が「あとがき」で書いている。 これは自分の俳誌『梟』に毎号1ページの短文を「虚子雑談」として好きな句や気になる句を季節に従いつつ、青年時代を書いたり、晩年の作品に行ったり、壮年期に戻った…

荒川洋治 編『昭和の名短篇』を読む

荒川洋治 編『昭和の名短篇』(中公文庫)を読む。荒川洋治は現代詩人だが、本の読み巧者でもある。荒川の取り上げる書評は面白く私は絶大な信頼を寄せている。その荒川が取り上げた昭和の名短篇のアンソロジー。志賀直哉から色川武大までの14人の作家の14作…

江藤淳『石原慎太郎・大江健三郎』を読む

江藤淳『石原慎太郎・大江健三郎』(中公文庫)を読む。江藤が石原と大江について書いたのをまとめたもので、文庫オリジナルとうたっている。とはいえ、石原への言及が多く、大江に関しては初期に高く評価したものの、『万延元年のフットボール』あたりから…

死臭について

高見順の詩「三階の部屋」を引く。 三階の部屋 窓のそばの大木の枝に カラスがいっぱい集まってきた があがあと口々に喚(わめ)き立てる あっち行けとおれは手を振って追い立てたが 真黒な鳥どもはびくともしない 不吉な鳥どもはふえる一方だ おれの部屋は…

高見順『死の淵より』を読む

高見順『死の淵より』(講談社文芸文庫)を読む。1963年(昭和38年)、高見順は食道がんと診断され、手術を受ける。翌年6月、再度入院し手術を受ける。詩集「死の淵より」を発表する。これによって野間文芸賞受賞。12月入院し手術を受ける。翌1965年3月、ま…

閻連科『年月日』を読む

閻連科『年月日』(白水uブックス)を読む。閻連科は「えんれんか」と読み、1958年生まれの中国の作家。2014年には村上春樹に続いてアジアでは二人目となる、フランツ・カフカ賞を受賞している。 本書は象徴的な小説で、ヘミングウェイの『老人と海』やカフ…

『シンボルスカ詩集』を読む

つかだみちこ編・訳『シンボルスカ詩集』(土曜美術社出版販売)を読む。1996年度のノーベル文学賞受賞のポーランドの詩人。フルネームはヴィスワヴァ・シンボルスカ、1923年生まれの女性詩人だ。中に「橋の上の人々」という詩がある。私はまさかこれは鮎川…

長谷川櫂『俳句と人間』を読む

長谷川櫂『俳句と人間』(岩波新書)を読む。岩波書店のPR誌『図書』に2019年10月から2021年10月まで連載したエッセイ。これが素晴らしい。冒頭、右太腿に皮膚がんができていたという個人的な話題から始まる。そこから正岡子規が脊椎カリエスと診断されたと…

丸谷才一・編『恋文から論文まで』を読む

丸谷才一・編『恋文から論文まで』(福武書店)を読む。まえがきみたいな文章で、編者の丸谷が書いている。 (……)随筆がある。評論がある。対談がある。講義がある。題材も、恋文、料理、作文、卒業論文、小説、悪文と幅が広い。筆者の職業だつて、いろいろ…

司馬遼太郎『この国のかたち 六』を読む

司馬遼太郎『この国のかたち 六』(文春文庫)を読む。司馬が『文藝春秋』の巻頭言として連載していたものだが、「歴史のなかの海軍」を書いていて、その5回目を書いたところで亡くなってしまう。この優れた論考は未完で中断してしまった。 「歴史のなかの海…

鮎川信夫・大岡信・北川透 編『戦後代表詩選 続』を読む

鮎川信夫・大岡信・北川透 編『戦後代表詩選 続』(思潮社 詩の森文庫)を読む。先日読んだ正編の続きで、副題が「谷川俊太郎から伊藤比呂美」。『現代詩の展望』(1986年11月刊)の「戦後史100選」を2冊に分けて編集したものの後編に当る。38人の戦後詩人の…

高橋源一郎・斎藤美奈子『この30年の小説、ぜんぶ』を読む

高橋源一郎・斎藤美奈子『この30年の小説、ぜんぶ』(河出新書)を読む。二人が雑誌『SIGHT』で「ブック・オブ・ザ・イヤー」という名称の対談を2003年から2014年まで行った。そのうちの2011年以降、2014年までのものを収録し、さらに2019年に「平成の小説を…

鮎川信夫・大岡信・北川透 編『戦後代表詩選』を読む

鮎川信夫・大岡信・北川透 編『戦後代表詩選』(思潮社 詩の森文庫)を読む。副題が「鮎川信夫から飯島耕一」で、『現代詩の展望』(1986年11月刊)の「戦後史100選」を2冊に分けて編集したものの前編に当る。42人の戦後詩人の56篇が掲載されている。 ほぼ1…