文学

堀啓子『日本近代文学入門』を読む

堀啓子『日本近代文学入門』(中公新書)を読む。副題が「12人の文豪と名作の真実」とある。「真実」というのはちょっとオーバーだが、内容は面白かった。6つの章でテーマを立て、2人の作家を比較していてそれが成功している。 近代小説が落語家の三遊亭円朝…

加藤典洋『完本 太宰と井伏』を読む

加藤典洋『完本 太宰と井伏』(講談社文芸文庫)を読む。5月に加藤が肺炎で亡くなった。以前『敗戦後論』を読んで感心したが、それ以外加藤を読んでこなかった。いや、『敗者の想像力』は素晴らしかった。加藤の死をきっかけに何か読んでみようと本書を手に…

半藤一利、塚本やすし・絵『焼けあとのちかい』を読む

半藤一利、塚本やすし・絵『焼けあとのちかい』(大槻書店)を読む。半藤の書いた絵本、子ども向けの本、50ページ未満の薄い絵本に感動した。 半藤は89年前に東京向島で生まれた。小学校5年生のとき、日本が英米と戦争を始めた。その後の具体的な戦況は語ら…

北大路公子『苦手図鑑』を読む

北大路公子『苦手図鑑』(角川文庫)を読む。脱力系エッセイというのだそうだ。裏表紙の惹句から、 電話でカジュアルに300万の借金を申し込まれ、ゴミ分別の複雑さに途方に暮れ、扇風機との闘いを放棄し、食パンの耳に翻弄される……。キミコさん(趣味・昼酒…

西東三鬼『俳愚伝』を読む

西東三鬼『俳愚伝』(出帆社)を読む。正確な書名は『神戸・続神戸・俳愚伝』というのだが、「神戸・続神戸」は先日新潮文庫で読んだので、それ以外の収録作を読んだ。 西東三鬼は戦前京大俳句会で特高に連行されて検挙され、起訴はされなかったものの不起訴…

「お尻にさわる」

先だって若い女性画家がFacebookに書いていた。 先生「〇〇さんっていう絵描き知ってる?(普通の絵に関してのお話の中で)」私「知ってます! 母のお尻を触った人です!(*・∀・*)」先生「あの人は誰でも触るの!」私「知ってます!(*・∀・*)」二世絵描きは…

西東三鬼『神戸・続神戸』を読む

西東三鬼『神戸・続神戸』(新潮文庫)を読む。西東については前衛的な俳句を作る俳人としか知らなかったが、SギャラリーのYさんのブログで本書を知った。西東が京大俳句事件で特高に検挙され、執筆を禁止されて神戸へ流れていく。アパートを兼ねたホテルを…

吉本隆明『追悼私記 完全版』を読む

吉本隆明『追悼私記 完全版』(講談社文芸文庫)を読む。吉本が「あとがき」で書いている。 ……もしこれらの追悼の文章に共通項があるとしたら、死を契機にして書かれた掌篇の人間論というほかないということだ。 43人、50篇の追悼文が載っている。1人に2篇…

菅孝行『三島由紀夫と天皇』を読む

菅孝行『三島由紀夫と天皇』(平凡社新書)を読む。1970年11月25日、三島は市ヶ谷の自衛隊東部方面総監室で自刃した。管はその理由を探って三島の小説を読み込んでいく。そして菅は三島の多くの作品が、2.26事件の蹶起将校たちや特攻隊員たちを裏切った昭和…

吉行淳之介『目玉』を読む

吉行淳之介『目玉』(新潮文庫)を読む。「眼玉」のほかに「鋸山心中」や「百閒のぜんそく」「葛飾」など7編の短編を集めている。吉行は最も好きな作家で娯楽小説以外はほとんど読んできた。本書も何十年ぶりかの再読だ。 村上春樹も『若い読者のための短編…

ドナルド・キーン『思い出の作家たち』を読む

ドナルド・キーン『思い出の作家たち』(新潮文庫)を読む。谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫、安部公房、司馬遼太郎の5人の作家の想い出を取り上げている。いずれの作家に向ける眼も暖かい。 谷崎の作品を、他の主要な現代日本の諸作家の作品から際立たせ…

『ウンベルト・エーコの小説講座』を読む

『ウンベルト・エーコの小説講座』(筑摩書房)を読む。副題が「若き作家の告白」というもので、原題が「若き小説家の告白」とある。出版社と訳者がタイトルを変えたのは売るためだろう。それで内容と異なる題名になってしまった。 エーコは『薔薇の名前』の…

高山なおみ・文、中野真典・絵『どもるどだっく』を読む

高山なおみ・文、中野真典・絵『どもるどだっく』(ブロンズ新社)を読む。以前読んだ三浦哲哉『食べたくなる本』(みすず書房)に紹介されていた。高山は料理人で、三浦は高山の『諸国空想料理店』を推薦していたが、この絵本も絶賛していた。 いや、絵も迫…

木村榮一『ラテンアメリカ十大小説』を読む

木村榮一『ラテンアメリカ十大小説』(岩波新書)を読む。都甲幸治が読売新聞の書評で紹介していた(2011年4月24日)。書評が載る前に購入していたのだが、8年たってようやく読んだ。その書評から。 どうしてもラテンアメリカ文学を読みたくなってしまう。な…

崔実『ジニのパズル』を読む

崔実(チェシル)『ジニのパズル』(講談社文庫)を読む。主人公パク・ジニは在日朝鮮人3世の女の子。おそらく作者崔とも共通の状況なのだろう。ジニは小学校は日本人小学校に通うが、中学は朝鮮学校に入学する。しかし朝鮮語が話せなかったり、金日成や金正…

赤坂真理『東京プリズン』を読む

赤坂真理『東京プリズン』(河出文庫)を読む。裏表紙の惹句から、 日本の学校になじめずアメリカの高校に入学したマリ。だが今度は文化の違いに悩まされ、落ちこぼれる。そんなマリに、進級をかけたディベートが課される。それは日本人を代表して「天皇の戦…

斎藤美奈子『日本の同時代小説』を読む

斎藤美奈子『日本の同時代小説』(岩波新書)を読む。「はじめに」で、「明治以降の小説の歴史を知りたい人にとって、岩波新書の中村光夫『日本の近代小説』(1954)、『日本の現代小説』(1968)は親切な入門書、かつ便利なガイドブックです。前者は明治大…

服部真里子『遠くの敵や硝子を』を読む

服部真里子『遠くの敵や硝子を』(書肆侃侃房)を読む。著者2冊目の歌集。読み始めて岡井隆とか塚本邦雄あたりのエピゴーネンかと思ったが、途中まできてお父さんの死の前後を詠んだあたりから、私が服部の語法に慣れたのか、いいじゃないかと思い始める。 …

辻原登・永田和宏・長谷川櫂『歌仙はすごい』を読む

辻原登・永田和宏・長谷川櫂『歌仙はすごい』(中公新書)を読む。これがとてもおもしろかった。小説家と歌人と俳人の3人が2011年から2018年までの8年間に8回の歌仙を巻いている。 歌仙は複数の参加者が集り、最初の人が5・7・5の句を読み、次の人が7・…

車谷長吉『文士の生魑魅』を読む

車谷長吉『文士の生魑魅』(新潮社)を読む。これはその後『文士の魂・文士の生魑魅』として新潮文庫に収められた。新潮文庫を読んでこのブログに紹介したが、今度単行本をもらったので再読した。やはり優れた読書案内だと思う。(生魑魅=いきすだま) 「エ…

小山鉄郎『文学はおいしい。』を読む

小山鉄郎/ハルノ宵子・画『文学はおいしい。』(作品社)を読む。共同通信の配信で全国の新聞に週1回連載したもの。小説やエッセイなどに表れた食べ物を紹介している。見開き2ページで完結し、半ページをハルノ宵子のカラーイラストが飾っている。だから小…

堀江敏幸『傍らにいた人』を読む

堀江敏幸『傍らにいた人』(日本経済新聞出版社)を読む。版元から分かる通り、日本経済新聞に毎週連載していたもの。現在表参道のギャラリー412で野見山暁治「カット展」が開かれているが、それは堀江の日経の連載に挿絵として描かれたものを展示している(…

『ありがさき 第2号』より

いつもはあまり見ない居間の本棚に『ありがさき 第2号』という歌集が挟まれていた。編集発行 松本市蟻ケ崎北町短歌会となっている。会員9人の短歌が集められている。義母曽根原嘉代子の作品もあった。そこからいくつか拾ってみる。 皮の手袋 なんとまあ背丈…

高橋源一郎『今夜はひとりぼっちかい?』を読む

高橋源一郎『今夜はひとりぼっちかい?』(講談社)を読む。副題が「日本文学盛衰史 戦後文学篇」というもの。日本文学史を扱ったものと思って読み始めたが違った。 ゼミ生の前で先生が講義しているように見える。映像を流しているが、そこではイノウエさん…

堀田百合子『ただの文士 父、堀田善衛のこと』を読む

堀田百合子『ただの文士 父、堀田善衛のこと』(岩波書店)を読む。堀田善衛の娘が父のことを書いている。とても気持ちの良い読書だった。著者堀田百合子のことは長谷川康夫の『つかこうへい正伝1968−1982』(新潮社)で知った。つかは堀田百合子と慶応大学…

野長瀬正夫の詩について

野長瀬正夫・作、安野光雅・絵『ゆうちゃんと こびと』(フレーベル館)の絵本を読む。安野にしては絵が凡庸だしあまり面白くなかった。もっとも子供はこれを面白がるかもしれないが。野長瀬は詩人で金の星社の編集長だった。 本書はゆうちゃんという小さな…

『堀田善衛を読む』を読む

『堀田善衛を読む』(集英社新書)を読む。5人と1組織の共著という体裁。これは今年10月から富山県 高志の国文学館で開催される生誕100年記念特別展「堀田善衛―世界の水平線を見つめて」に際してインタビューに協力した5人の話に各著者が加筆・修正して書籍…

ドナルド・キーン『日本文学史 近世篇二』を読む

ドナルド・キーン『日本文学史 近世篇二』(中公文庫)を読む。同『〜近世篇一』を読んでから2年も経ってしまった。キーンの日本文学史シリーズは英文で書かれており、英米の読者に向けて日本文学を講義しているもの。キーンは日本の国文学の文献を渉猟し詳…

小谷野敦『江藤淳と大江健三郎』を読む

小谷野敦『江藤淳と大江健三郎』(ちくま文庫)を読む。江藤と大江の二人の伝記を同時に描いている。ただ小谷野はかなり癖の強いひねくれた性格の文芸評論家なので、他の伝記作家とはだいぶ異なった意見が綴られることになる。遠慮することがなく、細部に必…

幸田文『流れる』を読む

幸田文『流れる』(新潮文庫)を読む。何十年ぶりかの再読だが、すばらしさに圧倒される。昭和の樋口一葉といった印象だ。 芸者置屋へ住み込みで働いた経験を小説にしている。女中として働くが幸田文は父幸田露伴に家事等を徹底的に仕込まれている。この作品…