文学

吉行淳之介『私の東京物語』を読む

吉行淳之介『私の東京物語』(文春文庫)を読む。編集が山本容朗となっている。単行本の出版が1993年だから吉行が亡くなる1年前だ。すると吉行の監修というか了承を得ているのだろう。 東京を舞台にした短篇小説とやはり東京を舞台にしたエッセイを集めてい…

吉行淳之介『ダンディな食卓』を読む

吉行淳之介『ダンディな食卓』(グルメ文庫)を読む。グルメ文庫というのは角川春樹事務所が発行している文庫。吉行が亡くなって12年後に出版されている。内容は昔『夕刊フジ』に連載した食べ物に関する短いエッセイをまとめた『偽食物誌』(新潮文庫)に、…

橋本治『そして、みんなバカになった』を読む

橋本治『そして、みんなバカになった』(河出新書9を読む。橋本治の対談集というかインタビュー集。橋本は『桃尻娘』でデビューした作家だが、あまり注目してこなかった。でもきわめてユニークな作家で、『枕草子』や『源氏物語』、『平家物語』などを現代…

大岡昇平『常識的文学論』を読む

大岡昇平『常識的文学論』(講談社文芸文庫)を読む。このタイトルは生ぬるい、「好戦的文学論」だろう。昭和36年(1961年)に雑誌『群像』に連載した文芸時評的なものだが、初回から当時世評きわめて高かった井上靖の『蒼き狼』に激しく嚙みついている。 井…

中村稔『現代詩の鑑賞』を読む

中村稔『現代詩の鑑賞』(青土社)を読む。これがとても素晴らしかった。中村は詩人で、また駒井哲郎などの伝記作者、本職は弁護士である。現代詩の実作者であるから「現代詩の鑑賞」にはぴったりだ。 本書には鮎川信夫、田村隆一から荒川洋治、高橋順子、小…

井伏鱒二『珍品堂主人』を読む

井伏鱒二『珍品堂主人』(中公文庫)を読む。骨董屋であり、料亭を経営した変わった男を主人公にした小説。モデルがあり、秦秀雄という魯山人や小林秀雄などと付き合っていた骨董商だ。彼のことは宇野千代も書いていたのではなかったか。 長篇小説であるにも…

常盤新平『遠いアメリカ』を読む

常盤新平『遠いアメリカ』(講談社文庫)を読む。先に読んだ『片隅の人たち』のいわば前編のような連作短編集。「遠いアメリカ」「アル・カポネの父たち」「おふくろとアップル・パイ」「黄色のサマー・ドレス」の4作からなっている。登場人物は共通で翻訳者…

橋口幸子『珈琲とエクレアと詩人』を読む

橋口幸子『珈琲とエクレアと詩人』(港の人)を読む。この詩人とは荒地グループの北村太郎を指す。橋口が住んだ部屋の隣に北村が越してきた。北村は大家さんの愛人だった。橋口と北村の親しい交流が語られる。橋口が部屋で校正の仕事をし、隣の部屋で北村が…

アレン・ギンズバーグ/柴田元幸 訳『吠える その他の詩』を読む

アレン・ギンズバーグ/柴田元幸 訳『吠える その他の詩』(スイッチ・パブリッシング)を読む。『吠える』は50年前に諏訪優の訳で思潮社から出版されていた。ビート・ジェネレーションとかビート族、当時のふうてんたちにとってバイブルだった。周りの友だ…

橋口幸子『こんこん狐に誘われて 田村隆一さんのこと』を読む

橋口幸子『こんこん狐に誘われて 田村隆一さんのこと』(左右社)を読む。橋口夫婦は1980年2月に稲村ケ崎の家に引っ越した。ここの大家は田村隆一の4番目の正妻の和子だった。間もなく和子の恋人で田村隆一の友人である詩人の北村太郎が同じ家に越してきた。…

埴谷雄高『酒と戦後派』を読み直す

埴谷雄高『酒と戦後派』(講談社文芸文庫)を読み直す。5年前に読んでブログにも紹介したが、武田泰淳の最後が書かれた「最後の二週間」が読みたくて手に取り結局全部読み直した。素晴らしい本だ。埴谷雄高全集から文学者たちとの交友録を編集してくれた講談…

石田千『窓辺のこと』を読む

石田千『窓辺のこと』(港の人)を読む。朝日新聞の「書評委員が選ぶ『今年(2020年)の3冊』」に須藤靖が取り上げていた。 『窓辺のこと』(石田千著、港の人・1980円) 初回の書評で取り上げたかったものの、出版後2カ月以内の原則に抵触して断念した。先…

ジョン・ル・カレの評価

先月イギリスのスパイ小説作家ジョン・ル・カレが89歳で亡くなった。松浦寿輝が「追悼ジョン・ル・カレ」を発表した(朝日新聞2021年1月16日)。 松浦はイギリス「純文学」界の雄であるイアン・マキューアンの言葉を引く。「ル・カレの小説になぜブッカー賞…

武田百合子『富士日記』全3巻を読む

武田百合子『富士日記』全3巻(中公文庫)を読む。 武田泰淳は昭和38年に山梨県鳴沢村に500坪の土地を借り、そこに別荘=山荘を建てる。山荘名はいろいろ呼んでいたが、表札は武田山荘としていた。昭和39年の晩春あたりから東京と山梨を妻の百合子の運転する…

小川さやか『チョンキンマンションのボスは知っている』を読む

小川さやか『チョンキンマンションのボスは知っている』(春秋社)を読む。面白い読書だった。チョンキンマンションのボスことカラマは香港在住のタンザニア人。安ホテルチョンキンマンションの住人で、中古自動車のブローカーなどをしている。香港のタンザ…

佐藤秀明『三島由紀夫』を読む

佐藤秀明『三島由紀夫』(岩波新書)を読む。佐藤は三島由紀夫文学館館長。その地位に相応しく三島に関する資料を徹底的に読み込んでいるように見える。 三島は早熟な少年だった。15歳の頃詩を量産している。「詩はまつたく楽に、次から次へ、すらすらと出来…

浜崎洋介『三島由紀夫』を読む

浜崎洋介『三島由紀夫』(NHK出版)読む。「シリーズ・戦後思想のエッセンス」の1冊。 序章で浜崎が「自選短編集」の「解説」に(三島自身が)次のように書いていた、と紹介する。 集中、「詩を書く少年」と「海と夕焼」と「憂国」の3編は、一見単なる物語…

河野裕子『歌集 蝉声』を読む

河野裕子『歌集 蝉声』(青磁社)を読む。河野は2010年8月12日、乳がんのため64歳で亡くなった。本書は夫の歌人永田和宏とやはり歌人の息子と娘の永田淳、永田紅の3人が没後編集して出版したもの。第1部が雑誌に2009年4月に発表したものから、2010年8月号に…

河野裕子の最後の歌

朝日新聞のコラム「うたをよむ」に河野裕子の最後の歌が紹介されていた(11月1日付け)。江戸雪が「時空を超える孤独」で書いている。 耳底にゆふべの水のひかるごと明日は死ぬべき蝉を聴きしか 『ひるがほ』 暗がりを蜀もてひとり歩むがに身をかがめ聞くひ…

高樹のぶ子『小説伊勢物語 業平』を読む

高樹のぶ子『小説伊勢物語 業平』(日本経済新聞出版)を読む。小説を読むなんて今年やっと数冊目だろうか。久しぶりに読んだせいかかったるいという印象だ。評論集ならさっさと主張なりテーマなりが提示されるのに、小説はぐだぐだ続いてなかなか本質に触れ…

丸谷才一『七十句』を読む、また検印のこと

丸谷才一『七十句』(立風書房)を読む。「あとがき」に、「このたび七十歳を迎へるに当り、齢の数だけの句を拾つて知友に配らうと思ひ立つた」とある。1995年丸谷が70歳になったのを記念して70句だけの句集を作った。そんな体裁だから「知友に配る」つもり…

金子兜太 編『現代の俳人101』を読む

金子兜太 編『現代の俳人101』(新書館)を読む。2004年発行の本で、金子兜太が100人の俳人を選んでいる。それに自分を加えて101人というわけだ。「戦前を中心に活躍した俳人」、「戦後を中心に活躍した俳人」、「戦後派以降の俳人」となっていて、それぞれ…

細見綾子『細見綾子』を読む

細見綾子『細見綾子』(春陽堂俳句文庫)を読む。細見は1907年(明治40年)生まれの俳人、第13回蛇笏賞を受賞している。1997年に90歳で亡くなった。沢木欣一が創刊した「風」同人で、沢木と結婚後「風」編集発行人を務めた。ベテランの俳人だ。 代表作の一つ…

『証言・昭和の俳句 上』を読む

先に読んだ下巻に続いて、『証言・昭和の俳句 上』(角川選書)を読む。黒田杏子が聞き手となって、著名な俳人たちにインタビューしてまとめたもの。取り上げられた俳人は、桂信子、鈴木六林男、草間時彦、金子兜太、成田千空、古館曹人の6人。 六林男が内輪…

『証言・昭和の俳句 下』を読む

『証言・昭和の俳句 下』(角川選書)を読む。黒田杏子が聞き手となって、著名な俳人たちにインタビューしてまとめたもの。この下巻では7人の俳人が語っている。津田清子、古沢大穂、沢木欣一、佐藤鬼房、中村苑子、深見けん二、三橋敏雄。 話が面白かったの…

佐藤鬼房の句

毎日新聞の書評欄に小島ゆかりが『佐藤鬼房俳句集成/第1巻 全句集』(朔出版)を紹介している(8月1日)。 やませ来るいたちのようにしなやかに なんとしなやかで、なんとしたたかな俳句かと思う。 そして他にも、 切株があり愚直の斧があり 鶺鴒(せきれい…

福島次郎『三島由紀夫―剣と寒紅』を読む

教えてくれた人がいて、福島次郎『三島由紀夫―剣と寒紅』(文藝春秋)を読む。著者は大学生のとき三島の『仮面の告白』を読み、自分と同じ趣味(男色)の人がいると、三島に興味を持ち、『禁色』を読んでその中に出てくる男色家たちが集まる店の場所を聞くた…

熊野純彦『三島由紀夫』を読む

熊野純彦『三島由紀夫』(清水書院)を読む。同社の「人と思想シリーズ」その197巻目。圧倒的な傑作評伝である。熊野は哲学者、マルクス、ヘーゲル、カント、レヴィナスなどについて書いている。さらに最近は本居宣長論も評価が高い。難解な哲学で知られる廣…

『定本 黒田三郎詩集』を読む

『定本 黒田三郎詩集』(昭森社)を読む。600ページ余の厚い本に200篇ほどの詩が収録されている。黒田三郎は好きで読んできたが、こんなまとまったものを読むのは初めてだ。 まとめて読んで、やはり良いのは『ひとりの女に』として出版された詩集だ。奥さん…

幽草の句

先日曽根原幽草のあじさいの句を紹介したが、『合同句集 岳樺』(雲母長野句会発行)に載っているほかの句も紹介したい。発行は平成2年、1990年1月1日。 あぢさゐや南溟遠く沈みし船悲しみを頒つひとありさくらんぼ甚平やどこから見ても小さき耳さぎ草の揺る…