文学

中村葉子と長谷川龍生の詩、そして図書館の利用法

中村葉子の詩集『夜、ながい電車に乗って』(ポプラ社)を読んだ。その中に「口ずさむ」という詩がある。その全文を引く。 口ずさむ わたしには「口ずさむ詩」がある。 いつも生活の中心に詩があった。 電車に乗ってどこかへ行く途中の、眠たい朝に。 昼下が…

竹内康浩・朴舜起『謎ときサリンジャー』を読む

竹内康浩・朴舜起『謎ときサリンジャー』(新潮選書)を読む。副題が「’自殺’したのは誰なのか」。 帯の推薦文より、 これはすごい。画期的という単語が陳腐に思えるほど、画期的。(恩田陸) 興奮した。グラス家の物語に目を凝らせ! 耳を澄ませ! (若島正…

中上健次『一八歳、海へ』を読む

中上健次『一八歳、海へ』(集英社文庫)を読む。中上の初期短篇集だ。あとがきで中上が18歳から23歳にかけて書いたと綴っている。実に下手な短篇集だった。比喩を練っているが生硬なものに留まっている。「愛のような」は安部公房ばりの設定かと読み進めた…

村上春樹「独立器官」の元ネタを推測する

昨日紹介した村上春樹『女のいない男たち』(文春文庫)に書き忘れたことがあったので補足する。中に収められた短篇「独立器官」は、有能な整形外科医が失恋して食べ物を拒絶して衰弱死するという話だが、これの元ネタではないかと考えたのが野見山暁治の紹…

村上春樹『女のいない男たち』を読む

先日映画『ドライブ・マイ・カー』を見たので、原作にあたる『女のいない男たち』(文春文庫)を4年ぶりに読み直した。ほとんど忘れていたが、「イエスタデイ」の栗谷えりかとの再会や、「シェエラザード」の空き巣のエピソード、また「木野」は全体によく憶…

高橋三千綱が亡くなった

作家の高橋三千綱が先週8月17日に亡くなった。肝硬変と食道がんで、73歳だった。3年前に高橋の『作家がガンになって試みたこと』(岩波書店)を読んでここに紹介し、昨年11月、高橋のその後が岩波の雑誌『図書』に連載されたのと併せて再録した。それが「…

永井荷風『鴎外先生』を読む

永井荷風『鴎外先生』(中公文庫)を読む。副題が「荷風随筆集」、3分の1強が鴎外について書かれている。荷風は鴎外を尊敬し師と仰いでいる。こんなことを書いているほど。 文学者になろうと思ったら大学などに入る必要はない。鴎外全集と辞書の言海とを毎日…

中上健次の墓に詣でる

昨日8月12日は中上健次の命日だった。中上は29年前、46歳の若さで亡くなった。生きていれば大江健三郎の次の世代の日本を代表する作家と言われたろう。12年前、仕事で新宮市へ行った折り、中上の墓を訪ねたのだった。 墓は小ぶりながら上品なものだった。線…

阿川弘之『鮨 そのほか』を読む

阿川弘之『鮨 そのほか』(新潮文庫)を読む。これは6年前に一度読んでいるが、吉行淳之介を偲ぶ座談会「わが友 吉行淳之介」を読み直したくて再び手に取った。座談会は阿川のほか、遠藤周作、小島信夫、庄野潤三、三浦朱門が参加している。みな古い友人たち…

荷風の通った大黒屋閉店

届いたばかりの東大出版会のPR誌『UP』を流し読みしていた。多田蔵人が「東京大学南原繁記念出版賞を受賞して」5「『永井荷風』との距離」というエッセイを寄せている。多田はその『永井荷風』(東京大学出版会)でこの賞を受賞している。東大出版会の惹句…

吉行淳之介『恐怖・恐怖対談』と『恐・恐・恐怖対談』を読む

吉行淳之介『恐怖・恐怖対談』と『恐・恐・恐怖対談』(どちらも新潮文庫)を読む。まず『恐怖・恐怖対談』はあまり面白くなかった。 斎藤茂太と脳梅毒について語る。 斎藤 脳梅毒についてもう一つだけ申し上げると、戦後に、精神医学治療史に残るような大成…

吉行淳之介・開高健『対談 美酒について』を読む

吉行淳之介・開高健『対談 美酒について』(新潮文庫)を読む。とても評判の良い対談なので期待して読んだが、意外とそんなでもなかった。開高が先輩吉行に対して肩ひじ張っている感があって、そのせいじゃないだろうか。 「銀流し」という言葉も「テンプラ…

吉行淳之介『恐怖対談』を読む

吉行淳之介『恐怖対談』(新潮社)を読む。12年間にわたって『別冊小説新潮』誌上で行われた40回の「恐怖対談」シリーズの第1巻。面白かったエピソードをいくつか抜き書きする。 生まれ月と性格について淀川長治が説く。 淀川 あのね、7、8、9月生まれは親…

吉行淳之介『特別恐怖対談』を読む

吉行淳之介『特別恐怖対談』(新潮文庫)を読む。12年間にわたって『小説新潮』誌上で行われた40回の「恐怖対談」シリーズの最終巻。面白かったエピソードをいくつか抜き書きする。 40回の対談で初めてという女性の瀬戸内寂聴との対談は「女の髪の毛について…

牧野信一『ゼーロン・淡雪』を読む

牧野信一『ゼーロン・淡雪』(岩波文庫)を読む。大江健三郎と古井由吉が対談『文学の淵を渡る』(新潮文庫)で牧野を絶賛していたので、牧野の短篇小説「西瓜喰ふ人」を読んだらこれがよくできていた。それで本書を読んだ。 牧野は明治29年に生まれて昭和11…

吉本隆明『日本近代文学の名作』を読む

吉本隆明『日本近代文学の名作』(毎日新聞社)を読む。日本近代文学の名作24冊を取り上げて、吉本隆明がそれぞれ数ページの解説を加えている。吉本の視力がおぼつかなかった時、毎日新聞の編集者が24篇の「名作文学」を提案し、吉本の口述を編集者が文章化…

斎藤美奈子『挑発する少女小説』を読む

斎藤美奈子『挑発する少女小説』(河出新書)を読む。取り上げられている作品は、『小公女』『若草物語』『ハイジ』『赤毛のアン』『あしながおじさん』『秘密の花園』『大草原の小さな家』『ふたりのロッテ』『長くつ下のピッピ』の9点。すべて名前は知っ…

吉行和子『兄・淳之介と私』を読む

吉行和子『兄・淳之介と私』(潮出版社)を読む。女優の吉行和子が兄である吉行淳之介を語っている。しかし実際は兄を語っているのは3分の1ほどだし、その半分が亡くなってからのもの。和子にとって兄は大好きだったようだが、11歳も年上で子どものころはま…

奥本大三郎『ランボーはなぜ詩を棄てたのか』を読む

奥本大三郎『ランボーはなぜ詩を棄てたのか』(インターナショナル新書)を読む。ランボーの詩を棄ててアフリカへ行くまでの半生を、ランボーの詩や手紙など、その詩が生まれる背景を詳しく解説しながら語ってくれる。さらに「イリュミナシオン」を分析し、…

吉行淳之介『懐かしい人たち』を読む

吉行淳之介『懐かしい人たち』(ちくま文庫)を読む。単行本が出た1994年に読み、ちくま文庫になった2007年に読み、今回が3回目になる。吉行は何度読んでもいい。 本書は過去の随筆集から抜き出したもので、「一つの方針があって、追悼文もしくはすでに故人…

古井由吉『東京物語考』を読む

古井由吉『東京物語考』(講談社文芸文庫)を読む。ちょっと変わった本で、私小説作家、徳田秋聲、正宗白鳥、葛西善蔵、嘉村磯多や、永井荷風、谷崎潤一郎が描いた東京を、その作品に沿って尋ね歩き、当時を再現している。 それにしても私小説作家たちの悲惨…

井坂洋子『犀星の女ひと』を読む

井坂洋子『犀星の女ひと』(五柳書院)を読む。詩、小説、評論、随筆、俳句と多岐にわたって書いた作家を詩人の井坂が暖かく書いている。表紙の犀星の写真がいいが、新潮社の犀星担当の編集者だった谷田昌平によるもの。 犀星といえば、萩原朔太郎の親友だっ…

田村隆一『詩集 言葉のない世界』を紹介する荒川洋治

荒川洋治が毎日新聞の書評欄で田村隆一『詩集 言葉のない世界』(港の人)を紹介している(6月12日付)。 (……)初版は1962年刊。たった10編。詩の文字の印刷されたところが、35ページしかない、とても薄い詩集だけれど、緊迫感は、無常のもの。名編「帰途…

谷川由里子『サワーマッシュ』を読む

谷川由里子『サワーマッシュ』(左右社)を読む。谷川は第1回笹井宏之賞大森静佳賞の受賞者。笹井宏之賞は書肆侃侃房が主催する短歌新人賞で、夭折した歌人笹井宏之を記念して作られた。大賞のほか、選考委員が選ぶ賞があり、選者の大森静佳が谷川を選んでい…

笹井宏之歌集『ひとさらい』を読む

笹井宏之歌集『ひとさらい』(書肆侃侃房)を読む。笹井宏之はWikipediaによれば、「15歳の頃から身体表現性障害という難病で寝たきりになり日常生活もままならず」、「2005年に「数えてゆけば会えます」で第4回歌葉新人賞を受賞。2007年、未来短歌会入会、…

鈴木真砂女『鈴木真砂女』を読む

岩合光昭カレンダー『日本の猫』の5月25日の項に「卯波立つ」とあった。卯波は『広辞苑』によれば、「卯月(陰暦4月)のころに海に立つ波。卯月波。〈季・夏〉。」とある。卯波と言えば、東京銀座の京橋に近い路地にその名前の小料理屋があった。並木通りに…

牧野信一「西瓜喰ふ人」を読む

牧野信一の短篇小説「西瓜喰ふ人」を読む。牧野は明治29年生まれで、昭和11年に39歳で自死している。私小説の作家であまり関心を持たなかった。しかし、大江健三郎と古井由吉が対談『文学の淵を渡る』(新潮文庫)で牧野を絶賛している。牧野をとびきりの名…

吉本隆明『夏目漱石を読む』を読む

吉本隆明『夏目漱石を読む』(ちくま文庫)を読む。吉本が1990年から1993年にかけて4回にわたって講演したものに手を入れたものだという。基本、これが講演録なのでとても分かりやすい。漱石の個々の作品について丁寧に語っている。教えられることが多かった…

海外の長篇小説ベスト100から

少し古いが雑誌『考える人』が海外の長篇小説ベスト100を特集していた(2008年春号)。このテーマなら13年前だがあまり古びてはいないだろう。これがなかなか興味深い。 129人の作家や批評家など、さまざまな書き手129人にアンケートを依頼し、各人のベスト1…

クルミの詩

娘が殻付きクルミを買ってくれた。殻付きクルミを見ると山内薫の詩「クルミ」を思い出す。 クルミ 山内薫 クルミは脳 ポケットに入れるとポケットは考えはじめる 太陽を見るには どうすればいいか あちらのポケットには 何が入っているかと くつに落とすとく…