高見澤潤子『兄 小林秀雄』を読む

 高見澤潤子『兄 小林秀雄』(新潮社)を読む。小林秀雄の妹潤子はマンガ『のらくろ』の作者田河水泡と結婚して高見澤潤子となった。兄を深く尊敬していて、小林秀雄が亡くなった2年後、雑誌『新潮』に兄の思い出を連載する。

 妹しか知らないプライベートなエピソードが語られてそれはなかなか興味深い。中原中也から奪った恋人長谷川泰子(佐規子)については、その異常な性格が徹底的に批判されている。泰子の偏執性にいついては他の人も語っていたけれど、確かにひどいようだ。小林秀雄が逃げ出したのも仕方ないだろう。それでも一時は「ぞっこんほれこん」だのだから、そして彼女は映画女優をめざしていたのだから外見は魅力的な女性だったのだろう。小林も一時は伊豆大島へ旅行してその地で自殺を考えたほどだという。

 雑誌連載のせいもあるが、時系列がばらばらで、繰り返しも多い。兄を尊敬するあまり、小林秀雄の仕事にまで踏み込んで絶賛するメッセージを書き込んでいる。本書と並行して私が桑原武夫を読んでいるせいで高見澤の文章のまずさがことに気にかかった。

 小林は、『本居宣長』のあと、ルオーについて書きたいと言っていたらしい。ルオーが好きで、ルオーがパレットとして使っていたものにピエロの顔を描いた作品を部屋に飾っていたという。それが表紙に使われている。今になって見ると、ルオーの古さがきにかかる。これがセザンヌだったら小林の審美眼が評価できたのに。