言葉

川添愛『世にもあいまいなことばの秘密』を読む

川添愛『世にもあいまいなことばの秘密』(ちくまプリマ―新書)を読む。はじめあまり興味を持たなかったが、書評などで評判が良いようなので読んでみた。 本書の一節に次のような箇所があった。 以前読んだ記事の中で、グルメリポーターとして有名な彦摩呂さ…

平板のイントネーション

毎日新聞の書評欄の「なつかしい1冊」のコラムに石山蓮華(俳優)が田辺聖子の『苺をつぶしながら』(講談社文庫)を挙げている(2024年1月6日朝刊)。 私が発する「いちご」のイントネーションは変わっているらしい。この小説のタイトルを口にしようとす…

今井むつみ・秋田喜美『言語の本質』を読む

今井むつみ・秋田喜美『言語の本質』(中公新書)を読む。副題が「ことばはどう生まれ、進化したか」。 初めにオノマトペを考えていく。オノマトペとは、ドロドロとか、ジャンジャンとか、ゲラゲラのような擬音語、擬態語などを指すことば。オノマトペは「感…

和泉悠『悪い言語哲学入門』を読む

和泉悠『悪い言語哲学入門』(ちくま学芸新書)を読む。「悪い」というのはどれに掛かっているのだろう。間違った言語? 悪意のある言語? 正しくない言語哲学? ふつう言語論とか言語哲学なんて聞くと、難しそうで敬遠したくなる印象がある。それを「悪い」…

蔦屋書店ギンザ アトリウムの上野裕二郎展を見る

東京銀座のギンザシックスにある蔦屋書店ギンザ アトリウムで上野裕二個展「Clash of Two Spirits ―天地の鬩ぎ―」が開かれている(2月25日まで)。ギャラリーのホームページから、 上野裕二郎は東洋思想の「気」の思想をベースに龍や虎、鳥などの生き物をモ…

千野栄一『言語学を学ぶ』を読む

千野栄一『言語学を学ぶ』(ちくま学芸文庫)を読む。本書は「言語学へのいざない」と「近代言語学を築いた人々」からなっている。その「言語学へのいざない」は三省堂のPR誌『ぶっくれっと』に1984年から1986年に連載されたもの。当時『ぶっくれっと』を愛…

三木那由他『会話を哲学する』を読む

三木那由他『会話を哲学する』(光文社新書)を読む。副題が「コミュニケーションとマニピュレーション」。このコミュニケーションとマニピュレーションについて、 ……話し手が発言をおこない、それによって聞き手とのあいだで共有の約束事が形成されるとき、…

川添愛『言語学バーリ・トゥード』を読む

川添愛『言語学バーリ・トゥード』(東京大学出版会)を読む。本書は東京大学出版会のPR誌『UP』に連載していたものをまとめたもの。「はじめに」に相当するところで、「この連載に登場しがちなイカしたメンバーを紹介する」とある。 筆者(川添):かつて研…

故郷のイントネーション

穂村弘が「絶叫委員会」という連載コラムに「発音の話」を書いている(『ちくま』7月号)。 トンカチのイントネーションはトンカチと思い込んでた本当はトンカチ エース古賀 「トンカチのイントネーション」には具体的な説明がなく、読者の想像に任されてい…

抜け感という言葉

朝日新聞のコラム「古田徹也の言葉と生きる」が、「〇〇感、独特の面白さも」と題して書いている(11月26日)。 昨今濫用されがちな「〇〇感」という言葉だが、この種の言葉には独特の面白い側面も見て取れる。 たとえば、ファッションの分野などでいま頻出…

難解な文章のこと

朝日新聞の書評欄に宮崎章夫が「ひもとく/1968年のナックルボール」というエッセイを寄せている(10月6日)。60年代の難解な文章について書いている。 黒テントの佐藤信による『演劇論集眼球しゃぶり』(晶文社・絶版)について、かつて「難解」だと発言し…

鴻巣友季子『翻訳ってなんだろう?』を読む

鴻巣友季子『翻訳ってなんだろう?』(ちくまプリマ―新書)を読む。副題が「あの名作を訳してみる」とあり、10冊の英語の小説の一部を実際に訳している。その10冊は、 モンゴメリ『赤毛のアン』 ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』 エミリー・ブロンテ…

徳川夢声『話術』を読んで

徳川夢声『話術』(新潮文庫)を読む。裏表紙の惹句に「人生のあらゆる場面で役に立つ、“話術の神様”が書き残した(話し方)の教科書」とある。しかしながら、私にはほとんど役に立たなかった。気になった個所がある。 小学校の先生方よ、次の時代の国民を、…

黒田龍之助『世界のことばアイウエオ』を読む

黒田龍之助『世界のことばアイウエオ』(ちくま文庫)を読む。世界の100の言葉を見開き2ページでエッセイ風にまとめている。配列はアイウエオ順で、アイスランド語から始まってアイヌ語、アイルランド語と続き、ルーマニア語、レト・ロマンス語、そしてロシ…

円満字二郎『漢和辞典的に申しますと。』を読む

円満字二郎『漢和辞典的に申しますと。』(文春文庫)を読む。円満字は出版社で国語教科書や漢和辞典の編集者として働いていた。本書では160の漢字を取り上げて、それぞれ見開き2ページでコラムのように解説している。これが意外におもしろかった。私も漢字…

今井信吾『宿題の絵日記』を読む

今井信吾『宿題の絵日記』(リトルモア)を読む。今井は多摩美術大学名誉教授。二人目の娘が強度の難聴だった。住んでいるところに近い私立日本聾話学校に通わせた。ここは手話を使わずことばを話す教育をしていた。聾話学校ではそのころ補聴器の力を借りて…

沼野允義の書評から

毎日新聞に沼野允義が阿部公彦『史上最悪の英語政策』(ひつじ書房)と鳥飼玖美子『英語教育の危機』(ちくま新書)の書評を書いている(1月21日)。 阿部の本は大学入試の改革に焦点を合わせた緊急提言だという。入試改革ではスピーキング(話す能力)もテ…

駅のアナウンス

駅のアナウンスが英語で「野郎ライン」て言っているように聞こえる。娘に話したら、後日、あれは「イエローライン」だよって教えてくれた。そういえば、日本語で「安全のため黄色い点字ブロックの内側までお下がりください」と言っている。こう言っているの…

おこげという植物

私が育った長野県の飯田地方は昆虫食のセンターでもあるが、「おこげ」という灌木の新芽をお浸しにして食べていた。春芽吹いた時、それを摘んでお浸しにする。ちょっとでも葉が大きくなると硬くなって食べられない。だから食べられるのはほんの短い期間だ。 …

アーサー・ビナードの危惧

アメリカ出身の詩人アーサー・ビナードが「日本語は破滅に向かっている」と危惧している記事が毎日新聞に掲載されていた(2017年11月29日)。 大好きな宮沢賢治の詩など美しい日本語がいつまでも残ってほしいと願うビナードさんにとって一番の気がかりは日本…

誤解していた諺

吉行淳之介の『やややのはなし』(小学館)を読んでいたら誤解されている諺について書かれていた。「顧(かえり)みて他を言う」の意味について、何人かの知人にその意味を尋ねると皆その意味を誤解していたという。「自分自身にたいしての反省の上に立って…

橋本治+橋爪大三郎『だめだし日本語論』を読む

橋本治+橋爪大三郎『だめだし日本語論』(太田出版)を読む。これがわくわくするほど面白かった。橋本治は小説の『桃尻娘』シリーズで人気を博した小説家。その後『枕草子』や『源氏物語』などの古典の現代語訳の仕事も定評がある。橋爪大三郎はきわめて有…

今野真二『かなづかいの歴史』を読む

今野真二『かなづかいの歴史』(中公新書)を読む。目次を見ると、「仮名の成立とかなづかい」「平仮名で日本語を書く」「片仮名で日本語を書く」「中世から近世にかけてのかなづかい」「明治期のかなづかい」「『現代仮名遣い』再評価」となっている。 本書…

大野晋・丸谷才一『日本語で一番大事なもの』を読む

大野晋・丸谷才一『日本語で一番大事なもの』(中公文庫)を読む。分かりにくい題名だが、本書は古文の主に助詞と助動詞について大野と丸谷が語っている。つまり日本語文法の本なのだ。文法の本だといえば、ややこしくてうっとうしいものだという印象を持つ…

東京女子大篠崎ゼミの方言チャートがスグレモノ

数年前から話題になっている東京女子大学の篠崎晃一ゼミとジャパンナレッジが開発した「出身地鑑定!! 方言チャート」がおもしろい。 方言に関する質問に答えるだけで、あなたの出身地を当ててしまうのが「出身地鑑定!! 方言チャート」。東京女子大学篠崎ゼミ…

町田健『ソシュールと言語学』を読む

町田健『ソシュールと言語学』(講談社現代新書)を読む。ソシュールはスイスの言語学者で、現代言語学を築いた偉大な学者だ。またその方法から構造主義が生まれた。 全体の3分の1を占める第1章で町田は難解なソシュールの言語学をやさしく丁寧に解説してく…

金田一春彦『美しい日本語』を読む

金田一春彦『美しい日本語』(角川ソフィア文庫)を読む。2002年に角川oneテーマ新書21として刊行された『日本語を反省してみませんか』を改題したもの。5つの章からなっていて、「『常識度』模擬試験」「周りを引き付ける人の日本語力」「『話せばわかる』…

黒田龍之助『その他の外国語 エトセトラ』を読む

黒田龍之助『その他の外国語 エトセトラ』(ちくま文庫)を読む。初めてのエッセイ集の由で、4つの章に分かれていて、「33文字の日常」「22の不仕合せ」「海外旅行会話11の法則」「11年目の実践編」からなっている。 黒田はロシア語から始めて、ウクライナ…

瀬戸賢一『時間の言語学』を読む

瀬戸賢一『時間の言語学』(ちくま新書)を読む。「はじめに」より、 本書は小著だが、一般に世にある時間論とは一線を画する。私たちが頭の中で時間をどのように考えるのかを、数多くの実際のことばの分析によって明らかにし、無意識的に使われるメタファー…

鈴木孝夫『教養としての言語学』を読む

鈴木孝夫『教養としての言語学』(岩波新書)を読む。同じ著者の岩波新書『ことばと文化』『日本語と外国語』を読んできたが、本書は題名ほど硬い本ではない。 記号、あいさつ、指示語、人称、言語干渉の5章からなっている。鈴木は少年の頃から野鳥が好きで…