大森洋平『考証要集』を読む

 大森洋平『考証要集』(文春文庫)を読む。副題が「秘伝! NHK時代考証資料」。著者の大森洋平NHK時代考証業務を担当、2013年現在NHKドラマ番組部シニア・ディレクター。長年まとめた職員向け資料を上梓したもの。

 なるほど知らない事柄が満載されている。

 

アメリカンコーヒー  米軍制度に詳しいミリタリー・ライターの菊月俊之氏によると、これは第2次大戦中、米軍内でもさすがに物資が不足したために、コーヒー豆の節約法として考案された飲み方という。

 

インチキ  これは上方語で、江戸語は「いかさま」である。

 

馬に乗る  日本古来の馬術では、馬の右側から乗るのが正しい。(……)老若男女一律右側、例外はない。

 

享年〇歳  「享年〇」と「歳」はつけないのが正しい。これは「年ヲ享クルコト〇」の意味で、そこに「歳」がついては繰り返しの蛇足になる。

 

桜田門外の変  井伊大老襲撃の際に水戸浪士が使用した拳銃は、6連発の西洋拳銃(リボルバー)である。(……)使用されたリボルバーの種類は、米国製コルト、それを水戸藩内でコピーした日本製、等の説があるが、連発銃であることにはかわりはない。

 

弱冠  これは「20歳」という意味である。「弱冠〇歳」は間違い。(……)「若冠」に至っては、恥の上塗りである。

 

姑の毒殺法  包丁の刃の左側にのみ致死性の毒を塗り(左利きの人は右側),羊羹、カステラ、蒲鉾等を切る。すると、最初の一切れには毒がついていない。その一切れを自分が食べて「お義母さま、おいしいですわよ」と安心させ、毒がついた二切れ目をすすめる。余毒があれば三切れ目を小姑に食べさせる。

 

鳥肌が立つ  この言葉を「感動した」意味に誤用するのは最近の日本語の悪弊である。嫌う人は大勢いるので、とりわけ時代劇の台詞では誤用に注意すべし。

 

 ほかにも教えられること多々、座右の書と言える。