梶山季之『李朝残影』(光文社文庫)を読む。梶山季之はかつて『黒の試走車』などベストセラー作家だったが、45歳で病没した。1930年、現在の韓国ソウルで生まれ、15歳のとき終戦とともに帰国した。
「族譜」は朝鮮の旧家の家系図で、古い家系は700年も記録がある。戦前朝鮮を植民地にしていた日本は、朝鮮人に対して日本名に変えさせる創氏改名を強いた。それをどうしても受け入れない貴族階級の地主と主人公との葛藤が描かれる。あくまで抵抗する地主に対して娘婿への拷問など汚い手段で改名に応じさせようとする日本人支配者たち。読んでいて胸が悪くなるような歴史があったのだ。
「李朝残影」は朝鮮の妓生の踊りを描いて公募展に応募しようとする若い日本人画家と、モデルになった妓生との交流を描いているが、二人の両親には相容れない決定的な歴史があった。
戦前の日本人が植民地だった朝鮮に対して何をしたのか、もう継承されていない辛い歴史がこれでもかと教えられる。戦前、日本は朝鮮を37年間も植民地にしていた。そのことさえ知らない日本人が多すぎる。若い日本人がぜひ読むべき作品集だ。