岡田暁生『西洋音楽史講義』を読む

 岡田暁生西洋音楽史講義』(角川ソフィア文庫)を読む。一見地味なタイトルだが、これが素晴らしい。岡田暁生といえば、吉田秀和賞を受賞した『音楽の聴き方』(中公新書)や『オペラの運命』(同)、『西洋音楽史』(同)、『音楽の危機』(同)といった名著を量産している音楽学者だ。

 本書はもともと放送大学のテキストとして書かれた。15回に分けて放送され、本書でも15章で構成されている。単なる音楽史ではない。グレゴリア聖歌から、バロックの対位法やフーガの意味、通奏低音の働きなど、それらがすたれていった歴史が根底から紹介される。

 グレゴリア聖歌は最古の西洋音楽だ。それはハーモニーを持たず、拍子感もなく、伴奏楽器はおろか女性の声も排除している。これらは肉体性の拒否から来ている。官能性の拒否なのだ。中世美術も含め中世芸術は神の国からの啓示だったのだ。

 バロック音楽について、

 作曲技法の点でも、いわゆる調性が完全に確立されるのが、バロック時代である。調整の定義は難しいが、その重要な特徴を簡単にまとめておく。まず、音階として旋法ではなく、主として長音階(ドレミファソラシド)を用いること。はっきり主和音(ハ長調でいえばドミソ)で開始し、主和音で終止すること。属和音(ハ長調でいえばシレソ)から主和音に解決する和声進行、つまり一般に「カデンツ」と呼ばれる終止形を、いわば音楽進行における句読点のように用いて、明快な分節を与えること。明るい長調(例えばドミソのような長三和音を中心とする)と暗い短調(例えばラドミのような短三和音を中心とする)のコントラストを駆使すること。これらはいずれも調性音楽に不可欠の要素であって、すべての音楽がほぼ例外なくこれらに基づいて作られるようになるのが、バロック時代なのである。

 

 ウィーン古典派の特徴として、

(……)対位法というのは基本的にルネサンスの原理であり、バロックにおいてはやや古めかしいスタイルになっていた。それでもバロック時代にあって対位法が、とりわけバッハのフーガにおいてその技芸の極致に到達したことは、いうまでもあるまい。対するに通奏低音は、バロック時代に入って初めて生まれた、当時としては新しいスタイルであった。曲の最初から最後まで通して、和音を支えるバスが、音楽をリードするのである。だからこそバロック音楽を支える古い原理と新しい原理のどちらも、古典派は廃止したのである(モーツァルトベートーヴェン大バッハに触発され、フーガの大傑作を書くことになるが、これは音楽史の趨勢とは別問題である)。

 

 こんな調子で教えられることが多い。西洋音楽史であり、西洋音楽入門書である。小さな本だが内容は大きい。