岡田暁生『クラシック音楽とは何か』(小学館)を読む。さすが岡田暁生だ、とても分かりやすいクラシック音楽の入門書だ。クラシック音楽は3つの時代に分けられると書く。18世紀前半までのバロック、18世紀後半からのウィーン古典派、19世紀のロマン派、これがクラシック音楽の黄金時代だと。
クラシックの最末期、19世紀末から20世紀初頭の世紀転換期を、音楽史では後期ロマン派という。プッチーニやリヒャルト・シュトラウス、マーラー、ラフマニノフ、フランス印象派のドビュッシーやラヴェルらの名前があげられている。
その後が現代音楽と呼ばれるシェーンベルクやストラヴィンスキーで、こうした音楽の系譜はブーレーズやシュトックハウゼンを経由して今日に至っている。
交響曲がクラシック音楽のメインディッシュであり、4つの楽章からなっている。この交響曲はほとんどドイツ語圏で作られた。それに対抗して、とりわけイタリアのオペラは娯楽色が強い。「ロッシーニもベッリーニもドニゼッティも、そしてヴェルディもプッチーニも、言うなれば当時の演歌のようなものであって、決してコンサートホールで真面目くさって聴くようなものではなかった」と言う。ベルリンやウィーンのコンサートホールに通って交響曲を聴く聴衆と、ローマやナポリやミラノの劇場の天井桟敷に陣取るオペラ狂たちがどれほど違った人々であるか、日本にいると分かりづらいと言って、「敢えて言えば、イタリア人のオペラ観客の多くは、サッカー競技場に詰めかけるファンのようなメンタリティーの人々である」とまで言う。さらにオペラとオペレッタは違っていて、「オペレッタは、値の張るオペラになかなか行けない庶民のための代用品として生まれた」と。
さて現代音楽の作曲家たちが初期に書いた曲について岡田が紹介している。
……晩年オカルトに狂って、独特の無調音楽に到達したロシアのスクリャービン。彼が10代半ばのころに書いた練習曲(作品2)は、ロシアの大ピアニスト、ヴラディーミル・ホロヴィッツがよく弾いたものだが、ショパンの甘美にチャイコフスキーの憂鬱を加えて蒸留したような、異様に洗練された芳香を放っている。あるいはシェーンベルクの弟子で、のちに師とともに無調音楽へ突き進んだウィーン生まれのベルク。彼が20代で作曲した《初期の7つの歌》も、もうこれを聴いてしまったらシューマンもマーラーも色褪せて聴こえるというくらいに、陶然とするようなロマンを湛えた作品だ。しかもそこには早熟の脆く危うい魅惑のオーラが輝いている。
本書は40の小さな章から構成されている。その見出しのいくつかを引いて、本書の魅力を伝える代わりとしたい。
「交響曲にはなぜ複数の楽章があるのか?」「モーツァルトの凄さとさりげなさ」「「後期ベートーヴェン」というスフィンクス」「シューベルトと病み衰える快楽」「名演とは何か」「オーケストラになぜ指揮者がいるのか」「オペラの客いろいろ」「私見――音楽史でもっとも偉大な作曲家」
岡田の本は何冊も読んできたが、いずれも素晴らしい。どんなに教えられてきたか。
- 作者: 岡田暁生
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2017/11/20
- メディア: 単行本
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