東京浅草橋のギャラリーCASHIで酒々井千里個展「むだな抵抗」が開かれている(7月27日まで)。酒々井は1998年岐阜県生まれ、現在東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画研究室に在籍している。個展は今回が初めてとなる。
展示は極めて奇妙なものだ。ギャラリーにおいてある作品説明を参考にしながら、拙いながら紹介してみる。
ギャラリーには大きな白い立体(キューブ)が斜めに立てかけられている。キューブの下や後ろに「ギリギリ絵と言える形態」をした絵がある。また隅の方にも同じような「絵」が設置されている。
また大小まちまちなバランスボールが点在している。これらのボールは「何かしらの意味になりそこなっている」ので、展示を見た人は最初に忘れていくかもしれない、と思う、と。
中では作品ぽいキャンバスの小品の絵3点は、「絵の具のカスを貼り付けたものや、溶接の残骸」らしい。それらも横長の白いキューブが視覚的に作品の上部分にかかり、作品を通常のように見ることを邪魔する。
作家のテキストより、
例えば絵を描くと何かしらの独自性、オリジナリティが生まれる。自分はいつもその独自性に対して多かれ少なかれ不安を感じてしまう。その不安が過度に大きくなると、自分自身の作品を否定したくなるときがある。それゆえニュートラルな(例え、仮でもいいから)物体で絵の表面を隠す。当然のことだが、絵の前面に不透明な物体を配置し、後ろの部分を隠してしまえば、その部分は見えなくなる。表面を隠せば、正面からは見えなくなる。
しかし、そうしてニュートラルの仮面を手に入れた絵は、本来の独自性を薄めることには成功するかもしれないが、同時に別の何かに変容してしまう。仮のニュートラルの仮面が妙に目立ち、不自然な存在感を持ってしまう。
否む。
視線を阻む。圧。
迂回するように見る。なりそこなった光景。
無駄、むだ。むだな、抵抗。
作家の意図が理解できたとは思わないが、久しぶりに極北の展示に触れた思いで、それなりに面白かった。次の展示も見てみたい。
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酒々井千里個展「むだな抵抗」
2024年6月28日(金)―7月27日(土)
11:00-18:00(日・月・火 休廊)
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CASHI
東京都台東区浅草橋5-6-12
電話03-5825-4703