吉行淳之介『目玉』を読む

 吉行淳之介『目玉』(新潮文庫)を読む。以前読んでいたが、荒川洋治が『文庫の読書』(中公文庫)で、戦後の最高の短篇小説10篇の中に吉行淳之介の「葛飾」を挙げていた。それで「葛飾」の入っている短篇集『目玉』を再読した。

 『目玉』は、単行本が平成元年に発行された。亡くなる5年前、65歳の時の出版だ。病気にまつわる話が多い。「大きい荷物」はアレルギーに関する話。「鋸山心中」は心中事件をめぐる話を書いている。9歳の時同い年の女の子とランデブーして海岸へ遊びに行った。その子が道を外れて繁みの中に座り込みおしっこをした。「何も無いところから水が出ている、と私は驚いた。男と女のちがいの入口のところを、そのときはじめて知った」。

 短篇集の表題にもなっている「目玉」は白内障の手術を受けた体験。40年前だから白内障の手術も簡単ではなかったようだ。

 「鳩の糞」は横根という病気。横根とは正式には鼠径部リンパ腺腫脹が正式な病名で、「これは性病にかかって出るほうが本筋で、切開した傷跡が銭湯などで見えると、かえって一目置かれた。「女郎買いのつわもの」と、幅がきく」と吉行が書いているが、吉行は道路で転んで、右の脛を擦りむいて、そのうち腿の内側が晴れてきたのだった。

 「百閒の喘息」は吉行が気管支喘息で、軍隊に入ったのに喘息のため4日間ほどで家に帰されたという。しかし2度目の徴兵検査を受けさせられて再び甲種合格になったが、入営通知が来るより前に敗戦になった。

 「いのししの肉」は刑務所帰りだという怪しげな男との長期間にわたる交流を描いている。最後の「葛飾」は腰痛を治療するために葛飾の整体院にこれまた長期間通った話。2週間に2、3回車で通った。50回は治療を受けたがすこしも良くならなかった。

 いずれの短篇も淡々と書いている。