吉本隆明『わたしの本はすぐに終る』を読む

 吉本隆明『わたしの本はすぐに終る』(講談社文芸文庫)を読む。吉本隆明の詩集。本書は『転位のための十篇』より後、1950年代前半から80年代半ばまで書かれてきた作品から著者が自ら選んだ65篇、単行本として刊行された詩集『記号の森の伝説歌』『言葉からの触手』の全篇、90年代、雑誌発表された2篇「十七歳」「わたしの本はすぐに終る」を収録。(裏表紙の惹句から)。

 文庫本としては大著の500ページ強。難解な詩句が並ぶ。中に「葉の声」という詩があり、入江比呂への献辞が付されている。

 

   葉の声

    入江比呂さんに

 

 

葉は街のうえに撒かれる するとどこでもない

どこでもいい街路で 佇ちとまった人たちの

対話になる

 

対話になりつくしたものは みな

しだいに木みたいな影として

夕べの空につき刺さる

 

燃える声は ゆっくりと空を流れて

妖怪みたいな露地うらで 老女が起した

ちいさな火災になる

 

おさえながら騒ぐ葉の声

むらがる鳥みたいに渦巻いて

墓地を端から端まで

歩行する黄色い紳士たち

 

木にまといつき 木の高さで

きこえる葉になった 世界の芯で

幹の非在がうたううた

枝にうたれたあえかな

鳥たちの鋲 川は

錆色の葉脈として流れ その奥に

薄命の鹿が走りこんでいった

 

さあ 鉄と石の葉

少女たちはその下で

透明な精緻を囲んで焚く

 

 

 入江比呂は戦後、前衛美術会に属したプロレタリア美術家で彫刻家だった。入江比呂について紹介した門田秀雄のテキストと入江の作品を、次のページに掲載した。でも、吉本隆明と入江比呂の関係はどうだったのだろう。

 

・門田秀雄さんが紹介する入江比呂

https://mmpolo.hatenadiary.com/entry/20091130/1259529759