吉本隆明『なぜ、猫とつきあうのか』を読む

 吉本隆明『なぜ、猫とつきあうのか』(講談社学術文庫)を読む。インタビューアーの質問に答えて吉本が猫について語っている。吉本家は多くの猫を飼っていたようだから、猫についてしゃべらせようと企画したのだろう。末尾に解説にかえて、として娘の作家吉本ばななが「吉本家の猫」という一文を寄せている。

 それにしても、この本の、なんとなく盛り上がらないというか、無理がある感じが、なんとも間が抜けていてよく、妙に味が出ていますね。作っている人たち全員(父を含む)の困った気持ちが伝わってくるようだ。

 この感想が本書の本質を正確に伝えている。盛り上がっていないのだ。何しろ吉本が猫が好きだとは言っても、専門家の知識には程遠いし、質問者たちも猫のことが分かっていない。巻末に参考文献が載っているが、インタビューアーが参考にした文献で、吉本が参照した文献ではない。ちょっと泥縄みたいな印象さえ持ってしまう。
 書誌学的にも不十分な記載で、「付記」で初めてインタビューの時期が1987年から1993年にかけて行われたこと、聞き手の名前が岡田幸文と山本かずこであることが明かされる。原本はミッドナイト・プレスで、1995年に刊行された。
 その後河出文庫に取り上げられ、今回講談社学術文庫として刊行された。しかし、吉本が思想家であること以外に学術文庫に入れる理由がない、というより講談社文庫で十分ではないのか。
 内容については、最も優れた部分は吉本ばななの解説だった。ということで、本書の評価も押して知れることだろう。