小室直樹『新版 三島由紀夫が復活する』(毎日ワンズ)を読む。初めに第1章「三島由紀夫と二・二六事件」として2.26事件が詳しく語られる。それも反乱軍である青年将校側に立って事件を語っている。2.26事件に際して昭和天皇が鎮圧を命じた。それを三島は深く悼んでいる。
第2章「戦後天皇制に挑戦した三島由紀夫」。冒頭で『英霊の声』の末尾が引用される。「などてすめらぎは人間(ひと)となりたまいし」。戦後の天皇の人間宣言を三島は批判する。そして『豊穣の海』4部作を分析する。そこで仏教の唯識論が重要だと言い、唯識論について詳しく解説している。これが私には分からなかった。
第3章「蘇る三島由紀夫」では、元陸相補山本舜勝との交流が紹介される。山本に師事して軍事訓練を行う。盾の会を結成する。自衛隊へ体験入隊する。
第4章「帰らざる河」で三島の半生が辿られる。続いて第5章「そして『豊穣の海』へ」で自衛隊市ヶ谷駐屯地での三島の決起の呼びかけと、その後の自決が語られる。
第6章「残された建白書」は、三島が最後に山本舜勝に宛てた手紙の中身で、それが自民党政府と当時の佐藤内閣に向けての建白書だった。小室直樹が、この建白書のなかで三島が声を大にして訴えているのは次の3つだと要約している。
第一は、戦略上共産主義陣営は自由陣営に対し、基本的利点をもち優位にあるということであり、第二は、戦後日本は、防衛の基本的前提というべき国家の政治体制が、戦略上最大の弱点になっているという指摘である。第三は、日本の国防理念には基本的矛盾があり、日米安保と関係のない自主防衛を確立し、その矛盾を解消して第一、第二の不利を克服しなければならぬということである。
この建白書全文を紹介し小室の叙述は終わっている。その後に元盾の会班長の特別寄稿「三島由紀夫先生の遺書」が付されている。
三島由紀夫論として文学的な内容を期待して読んだのだが、実態は三島由紀夫の政治的立場を解説したものだった。三島の文学をこそ解説してほしかったのに。