会田誠『げいさい』を読む

 会田誠『げいさい』(文春文庫)を読む。会田誠は売れっ子の現代美術家、でも文章も得意で数々のエッセイのほか、『青春と変態』という小説もある。裏表紙の惹句から、

 

佐渡出身で芸大志望の僕は多摩美の学園祭を訪れ、カオス化した打ち上げに参加する。酒を飲み芸術論を戦わせる中、僕は浪人生活を見つめ直す。表面的なテクニック重視の受験絵画は個性や自由といった芸術の理想とはかけ離れていた。真に心を揺さぶる表現とは。気鋭の現代美術家が揺れ動く青年期を鮮明に描いた傑作小説。

 

 優れた恋愛小説だ。単行本が出版されたのが3年前だったのに、なぜこの優れた青春小説が大きな話題にならなかったのだろう? おそらくそれは、本書の中心的なテーマが青春=恋愛ではなくて、美大の受験絵画の移り変わりや、美大生たちが語る芸術動向の方に重点が大きく傾いているせいだろう。それらのことは青春と異なり一般的な話題にはなりにくい。しかし、美大受験を考えている受験生や美大生、美術に関心がある者たちにはきわめて興味深い内容だろう。

 私は興味深く楽しく読んだのだった。ただ瑕疵を言えば、わずかに文章が冗長な印象があった。むかし中国文学者の吉川幸次郎が、丸山眞男の『日本政治思想史研究』に対して言った言葉を思い出した。曰く、「お素人さんとしてはなかなか」と。