豊崎由美『時評書評』を読む

 豊崎由美『時評書評』(教育評論社)を読む。副題が「忖度なしのブックガイド」、これが素晴らしい! 書評家としては斎藤美奈子のファンだけど、斎藤に劣らず魅力的な書評を書いている。ほとんど毒舌に近い辛口の書評! 読み終わって推薦されている本を早速何冊か注文してしまった。

 

 「私なりの追悼・石原慎太郎」から、

 わたし自身、大森望さんと続けてきた『文学賞メッタ切り!』シリーズ(ちくま文庫など)では、長らく選考委員を務めた氏の選評での悪文を「てにをはヌーヴォーロマン」と揶揄し、その狭量な小説感をバカにし、東京都知事時代には傍若無人な差別発言や社会的弱者に寄り添わない政治家としての姿勢を激しく糾弾してきたものです。が、しかし、石原慎太郎は小説家でもあったんです。

 2013年9月、栗原裕一郎さんとの共著『石原慎太郎を読んでみた』を原書房から刊行しました(現在は入門篇が中公文庫で、完全収録版はKindleで読むことができます)。これは2012年までに刊行された慎太郎の代表作をほぼ全部読んで、いいものはいい、ダメなものはダメと、忖度なく2人で評価していった対談集です。栗原さんからこの企画を持ち込まれた時、正直、とてもイヤでした。石原慎太郎を蛇蝎のごとく嫌っていたわたしは、氏の小説を全部読んだりしたら脳みそが腐ると思ったからです。ところが――。栗原さんの熱意に推されて読み始めたところ、いくつもの傑作に出会うことが出来たんです。

 

 そして豊崎が選んだ石原慎太郎ベスト3が、

待ち伏せ』、ベトナム戦争アメリカ軍の作戦に従軍記者として加わった体験を描いている。

『嫌悪の狙撃者』、1965年に実際に起きた「少年ライフル魔事件」をベースにした作品。この作品は、石原慎太郎の代表作中の代表作、自信を持っておすすめできる逸品です、と。

『院内』、慎太郎の分身とおぼしき国会議員の〈私〉が、議場の扉を開けて入ってきたメッセンジャーガールに強烈な印象を抱いて妄想に駆られ、その少女の後を追い国会議事堂の中をさまようという、シュルレアリスティックでもあり、ヌーヴォーロマン的でもある短篇小説になっている、と。

 

 本書で豊崎が推薦する小説で特に気になったものを取り上げると、

『言語の七番目の機能』ローラン・ピネ(東京創元社

『終わりの感覚』ジュリアン・バーンズ(新潮社)

フロベールの鸚鵡』ジュリアン・バーンズ白水uブックス

『10 1/2章で書かれた世界の歴史』ジュリアン・バーンズ白水uブックス

『短篇集ダブル』パク・ミンギュ(筑摩書房

『ヌマヌマ はまったら抜け出せない現代ロシア小説傑作選』沼野充義&恭子(河出書房新社

アホウドリの迷信』柴田元幸岸本佐知子スイッチ・パブリッシング

 

 なお、豊崎の崎は本当は「﨑」である。