文学

平林敏彦『言葉たちに』を読む

平林敏彦『言葉たちに』(港の人)を読む。副題が「戦後詩私史」、平林が自身の詩歴や古い仲間たちとの交友を書いている。さらに近作の詩を10篇近く収録している。 平林の詩に対して武満徹が私信で「人類が言葉を喪おうとしているとき、このように彫琢された…

丸谷才一『猫だつて夢を見る』を読む

丸谷才一『猫だつて夢を見る』(文春文庫)を読む。丸谷才一の博識を楽しむ。 1975年の統計で韓国人一人あたりの平均1日の唐辛子消費量は5グラムから6グラム。ところが日本人の消費量は一人年間1グラム。これぢやあ、はつきりと文化が違ふ。韓国系日本人…

坪内稔典『俳句いまむかし』を読む

坪内稔典『俳句いまむかし』(毎日新聞出版)を読む。毎日新聞に連載している「季語刻々」から編集したもの。季語刻々は一つの季語について、今と昔の句を挙げ、坪内の感想をなにか書くというスタイルで続いてきた。 佐保姫の春立ちながら尿(しと)をして …

吉増剛造『詩とは何か』を読む

吉増剛造『詩とは何か』(講談社現代新書)を読む。現代詩人の吉増が「詩とは何か」と題して語っている。文字通り語っているらしい。自分の喋りを録音して原稿に起こしている。 様々な詩人や哲学者、音楽家たちに言及する。最初にディラン・トマス、李白、エ…

阿部知二『冬の宿』を読む

阿部知二『冬の宿』(小学館P+Dブックス)を読む。P+Dブックスというのは、ペーパーバックスとデジタルの略称で、「後世に受け継がれるべき名作でありながら、現在入手困難となっている作品を、B6判ペーパーバック書籍と電子書籍を、同時かつ同価格で発売・…

奥本大三郎『パリの詐欺師たち』を読む

奥本大三郎『パリの詐欺師たち』(集英社)を読む。奥本の小説! 奥本はフランス文学者、『ファーブル昆虫記」の訳者、昆虫コレクターで虫に関するエッセイが多い。しかし小説も書いているとは知らなかった。 本書は「パリの詐欺師たち」と「蛙恐怖症(ラノ…

学徒の帽子ふかく埋もる

36年前の今日、朝日新聞の朝日歌壇欄に義母の短歌が掲載されているのを見つけた。 いっ片の骨(こつ)だに在らぬ兄の墓学徒の帽子ふかく埋もる (松本市) 曽根原嘉代子 カミさんの伯父宏さんは昭和19年海軍技術将校としてボルネオ・タラカン島に赴任し石油…

吉行淳之介『やわらかい話』を読む

吉行淳之介『やわらかい話』(講談社文芸文庫)を読む。副題が「丸谷才一 編、吉行淳之介対談集」。前回読んだ『やわらかい話2』の前編。タイトルどおり艶な対談を集めている。 最初の対談相手金子光晴は詩人、対談時79歳。 吉行 (……)ところで、金子さん…

吉行淳之介『やわらかい話2』を読む

吉行淳之介『やわらかい話2』(講談社文芸文庫)を読む。副題が「丸谷才一 編、吉行淳之介対談集」。やわらかい話というタイトルだけあって、艶めいた対談を集めている。 東郷青児は画家。現在のSOMPO美術館は(旧館名:東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜…

佐藤賢一『最終飛行』を読む

佐藤賢一『最終飛行』(文藝春秋)を読む。ふだんあまり小説を読まないが、本書はサン・テグジュペリを描いているという。サン・テグジュペリは好きな作家だ。読まずばなるまい。 サン・テグジュペリといえば、『南方郵便機』『夜間飛行』『人間の土地』『戦…

中村葉子と長谷川龍生の詩、そして図書館の利用法

中村葉子の詩集『夜、ながい電車に乗って』(ポプラ社)を読んだ。その中に「口ずさむ」という詩がある。その全文を引く。 口ずさむ わたしには「口ずさむ詩」がある。 いつも生活の中心に詩があった。 電車に乗ってどこかへ行く途中の、眠たい朝に。 昼下が…

竹内康浩・朴舜起『謎ときサリンジャー』を読む

竹内康浩・朴舜起『謎ときサリンジャー』(新潮選書)を読む。副題が「’自殺’したのは誰なのか」。 帯の推薦文より、 これはすごい。画期的という単語が陳腐に思えるほど、画期的。(恩田陸) 興奮した。グラス家の物語に目を凝らせ! 耳を澄ませ! (若島正…

中上健次『一八歳、海へ』を読む

中上健次『一八歳、海へ』(集英社文庫)を読む。中上の初期短篇集だ。あとがきで中上が18歳から23歳にかけて書いたと綴っている。実に下手な短篇集だった。比喩を練っているが生硬なものに留まっている。「愛のような」は安部公房ばりの設定かと読み進めた…

村上春樹「独立器官」の元ネタを推測する

昨日紹介した村上春樹『女のいない男たち』(文春文庫)に書き忘れたことがあったので補足する。中に収められた短篇「独立器官」は、有能な整形外科医が失恋して食べ物を拒絶して衰弱死するという話だが、これの元ネタではないかと考えたのが野見山暁治の紹…

村上春樹『女のいない男たち』を読む

先日映画『ドライブ・マイ・カー』を見たので、原作にあたる『女のいない男たち』(文春文庫)を4年ぶりに読み直した。ほとんど忘れていたが、「イエスタデイ」の栗谷えりかとの再会や、「シェエラザード」の空き巣のエピソード、また「木野」は全体によく憶…

高橋三千綱が亡くなった

作家の高橋三千綱が先週8月17日に亡くなった。肝硬変と食道がんで、73歳だった。3年前に高橋の『作家がガンになって試みたこと』(岩波書店)を読んでここに紹介し、昨年11月、高橋のその後が岩波の雑誌『図書』に連載されたのと併せて再録した。それが「…

永井荷風『鴎外先生』を読む

永井荷風『鴎外先生』(中公文庫)を読む。副題が「荷風随筆集」、3分の1強が鴎外について書かれている。荷風は鴎外を尊敬し師と仰いでいる。こんなことを書いているほど。 文学者になろうと思ったら大学などに入る必要はない。鴎外全集と辞書の言海とを毎日…

中上健次の墓に詣でる

昨日8月12日は中上健次の命日だった。中上は29年前、46歳の若さで亡くなった。生きていれば大江健三郎の次の世代の日本を代表する作家と言われたろう。12年前、仕事で新宮市へ行った折り、中上の墓を訪ねたのだった。 墓は小ぶりながら上品なものだった。線…

阿川弘之『鮨 そのほか』を読む

阿川弘之『鮨 そのほか』(新潮文庫)を読む。これは6年前に一度読んでいるが、吉行淳之介を偲ぶ座談会「わが友 吉行淳之介」を読み直したくて再び手に取った。座談会は阿川のほか、遠藤周作、小島信夫、庄野潤三、三浦朱門が参加している。みな古い友人たち…

荷風の通った大黒屋閉店

届いたばかりの東大出版会のPR誌『UP』を流し読みしていた。多田蔵人が「東京大学南原繁記念出版賞を受賞して」5「『永井荷風』との距離」というエッセイを寄せている。多田はその『永井荷風』(東京大学出版会)でこの賞を受賞している。東大出版会の惹句…

吉行淳之介『恐怖・恐怖対談』と『恐・恐・恐怖対談』を読む

吉行淳之介『恐怖・恐怖対談』と『恐・恐・恐怖対談』(どちらも新潮文庫)を読む。まず『恐怖・恐怖対談』はあまり面白くなかった。 斎藤茂太と脳梅毒について語る。 斎藤 脳梅毒についてもう一つだけ申し上げると、戦後に、精神医学治療史に残るような大成…

吉行淳之介・開高健『対談 美酒について』を読む

吉行淳之介・開高健『対談 美酒について』(新潮文庫)を読む。とても評判の良い対談なので期待して読んだが、意外とそんなでもなかった。開高が先輩吉行に対して肩ひじ張っている感があって、そのせいじゃないだろうか。 「銀流し」という言葉も「テンプラ…

吉行淳之介『恐怖対談』を読む

吉行淳之介『恐怖対談』(新潮社)を読む。12年間にわたって『別冊小説新潮』誌上で行われた40回の「恐怖対談」シリーズの第1巻。面白かったエピソードをいくつか抜き書きする。 生まれ月と性格について淀川長治が説く。 淀川 あのね、7、8、9月生まれは親…

吉行淳之介『特別恐怖対談』を読む

吉行淳之介『特別恐怖対談』(新潮文庫)を読む。12年間にわたって『小説新潮』誌上で行われた40回の「恐怖対談」シリーズの最終巻。面白かったエピソードをいくつか抜き書きする。 40回の対談で初めてという女性の瀬戸内寂聴との対談は「女の髪の毛について…

牧野信一『ゼーロン・淡雪』を読む

牧野信一『ゼーロン・淡雪』(岩波文庫)を読む。大江健三郎と古井由吉が対談『文学の淵を渡る』(新潮文庫)で牧野を絶賛していたので、牧野の短篇小説「西瓜喰ふ人」を読んだらこれがよくできていた。それで本書を読んだ。 牧野は明治29年に生まれて昭和11…

吉本隆明『日本近代文学の名作』を読む

吉本隆明『日本近代文学の名作』(毎日新聞社)を読む。日本近代文学の名作24冊を取り上げて、吉本隆明がそれぞれ数ページの解説を加えている。吉本の視力がおぼつかなかった時、毎日新聞の編集者が24篇の「名作文学」を提案し、吉本の口述を編集者が文章化…

斎藤美奈子『挑発する少女小説』を読む

斎藤美奈子『挑発する少女小説』(河出新書)を読む。取り上げられている作品は、『小公女』『若草物語』『ハイジ』『赤毛のアン』『あしながおじさん』『秘密の花園』『大草原の小さな家』『ふたりのロッテ』『長くつ下のピッピ』の9点。すべて名前は知っ…

吉行和子『兄・淳之介と私』を読む

吉行和子『兄・淳之介と私』(潮出版社)を読む。女優の吉行和子が兄である吉行淳之介を語っている。しかし実際は兄を語っているのは3分の1ほどだし、その半分が亡くなってからのもの。和子にとって兄は大好きだったようだが、11歳も年上で子どものころはま…

奥本大三郎『ランボーはなぜ詩を棄てたのか』を読む

奥本大三郎『ランボーはなぜ詩を棄てたのか』(インターナショナル新書)を読む。ランボーの詩を棄ててアフリカへ行くまでの半生を、ランボーの詩や手紙など、その詩が生まれる背景を詳しく解説しながら語ってくれる。さらに「イリュミナシオン」を分析し、…

吉行淳之介『懐かしい人たち』を読む

吉行淳之介『懐かしい人たち』(ちくま文庫)を読む。単行本が出た1994年に読み、ちくま文庫になった2007年に読み、今回が3回目になる。吉行は何度読んでもいい。 本書は過去の随筆集から抜き出したもので、「一つの方針があって、追悼文もしくはすでに故人…