石畑由紀子『エゾシカ/ジビエ』(六花書林)を読む。石畑は1971年北海道帯広市生まれ、初め自由詩を書いていたが、30代後半になって短歌を詠み始めたという。本書が第1歌集となる。
恋愛は人をつかってするあそび 洗面台に渦みぎまわり
ゆびさきでのぼりつめてく鳳仙花 とおくへいきたかったのはきみだ
みぞおちにちいさな家を建てたことふたりで建てたこと 夜が明ける
あ、降ってきましたね雪。そのような温度で医師は癌を告げおり
嗚呼いとこの目に眉に叔父 不在という存在感に出迎えられて
くちばしで穴をあけ幹に棲みますわたしそのようにきみに棲みます
心にも五体があれば利き腕を失うほどの怪我の幾つか
肉球を押せば出てくる猫の爪どうしても怒りが間に合わぬ
雄シシャモナイフのように焼きあがる 刺したいひとのいた夏のこと
エロティックな歌が隠喩をもって詠われている。「いとこの目に眉に叔父」は、「叔父一周忌」と題されている。