山梨俊夫『風景画』(集英社)を読む。副題が「テーマで見る世界の名画」として、68点の‘名画’を山梨俊夫が解説している。
全体が3部に分かれ、「自然と都市」「物語の舞台」「想像の構成」となっている。「自然と都市」では1世紀の古代ローマから始まるが、次は16世紀で、およそ1400年が欠けている。その間、風景画がほとんどなかった。自然自体が主題になっていなかった。それが16世紀あたりから自然景観だけを描いて絵が完結するようになる。山梨は、歴史的風景画~神話的風景画、バルビゾン派、ロマン主義、印象派、ポスト印象主義、そして風景画は造形思考の浸透を受けて大きく変形したとして、セザンヌ、シスレー、クリムト、スーチン、ボナール、モランディ、ド・スタールからこの章の最後にリヒターを採り上げる。
ついで「物語の舞台」では、画家は神話や物語を描くが、現実感を表すために物語に相応しい自然景観を描き出す。そこで描かれる自然は実際の景観に近づけられる。時代が下ると自然とともにある人間のドラマが増えていく。マンテーニャの描く「オリーブ山での祈り」(15世紀)やクラナーハ(父)の「悔悛する聖ヒエロニムス」(16世紀)の背景の自然=風景に注目し、17世紀のニコラ・プッサン、クロード・ロランを紹介し、クロード=ジョゼフ・ヴェルネの「嵐と難破船」(18世紀)では、画面の6つの細部を取り出して詳しい分析を加えている。この章の最後は19世紀のセガンティーニが採り上げられる。
「物語の構成」では、風景画の概念を大きく超えた作品も採り上げられる。ターナーから始められ、ピーテル・ブリューゲル(父)の有名な「雪中の狩人」も7つの細部を採り上げ、綿密な分析が加えられる。画面左下の二人の狩人について、
獲物は兎が1羽。狩りは不首尾に終わった。どうやら鉄砲も弓もなく、引き連れた13匹の猟犬に獲物を狩り出させて、長い棒で仕留める素朴な猟である。3人の狩人も猟犬どもも心なしかうなだれて元気がない。
その後、ターナー、コローに続いてゴッホ、ゴーギャン、ルソー、ブラックと続き、カンディンスキーでは「風景が解体される」と書く。次いでシャガール、キリコ、エルンスト、クレーが続き、最後にキーファーが置かれている。
山梨俊夫は、『現代絵画入門』(中公新書)が素晴らしく、山梨の著書はできるだけ目を通すようにしている。
※追記
この後、森洋子『ブリューゲルの世界』(新潮社とんぼの本)には、山梨と別の解釈が書かれていた。
猟師たちは領主の狩猟の手伝いの帰りだったのでしょう。自分たちの分はキツネ1匹です。農民たちは領主たちの狩猟地で自分たちのためにシカ、イノシシ、クマなどの大きな動物を射止めることは禁止されていたからです。驚くべきことにブリューゲルは猟師と一緒に描かれた13匹の猟犬を、1.猟師たちに獲物のありかを教える、足の速い犬、2.地中に逃げ込む獲物を臭いをかぎわけて追跡する犬、3.猟師が打ちとめた獲物を運ぶ犬など、3種に描き分けているのです。
これは森の解釈が正しいみたいだ。
ART GALLERY テーマで見る世界の名画 3 風景画 自然との対話と共感 (ART GALLERYテーマで見る世界の名画)
- 作者:山梨 俊夫
- 発売日: 2017/11/15
- メディア: ペーパーバック