司馬遼太郎『この国のかたち 三』を読む

 司馬遼太郎『この国のかたち 三』(文春文庫)を読む。司馬のエッセイは優れていて好きだ。司馬の小説はほとんど読んでこなかったけれど、『街道をゆく』は全43巻を2回通読したくらい好きなのだ。

 『この国のかたち』は雑誌『文藝春秋』の巻頭言として連載したもの。巻頭言という性格から400字詰め原稿用紙10枚でまとめている。司馬も「それにしても10枚はすくなく」と読み手のゆたかな想像力を期待しながら、「読み手に過当な負担をかけているにちがいない」と書いている。

 短いながらも話題は様々に飛び、その教養、知識に感嘆するほかない。本書にも24回分、2年分が収録されているが、テーマの多様性が司馬の関心の広さ、知識の深さを表している。

 タイトルをいくつか拾ってみると、「ドイツへの傾斜」「七福神」「洋服」「脱亜論」「平安遷都」「東京遷都」「宋学」「小説の言語」などとなっている。「ドイツへの傾斜」は日本近代史を見れば、日本の学問などは、ドイツ医学、ドイツ憲法、陸軍の作戦思想もドイツ式だった。

 「七福神」では、布袋は中国の弥勒菩薩から来ているとし、毘沙門天も弁財天もインドの神様だった。大黒天は大国主命となっているが、それは中世以後の習合で、これまたインドの神様だった。えびす様は日本の神様だったが。

 司馬は売れっ子作家でエッセイや歴史小説に多くの資料を必要とした。大阪の古書店はめぼしい資料が入るとまず司馬のところへ持ち込んだので、大学の研究者らが自分たちのところへ入ってこないと嘆いていたという。『街道をゆく』の取材で地方へ行っても、地元の本屋で郷土史の棚へ行って、ここからここまで全部というような買い方をしたらしい。

 司馬が亡くなって「街道をゆく」を連載していた『週刊朝日』はかなり部数を落としたに違いない。

 

 

この国のかたち(三) (文春文庫)

この国のかたち(三) (文春文庫)