加藤典洋『戦後入門』を読む

 加藤典洋『戦後入門』(ちくま新書)を読む。カバーの袖の惹句から、

 

日本ばかりが、いまだ「戦後」を終わらせられないのはなぜか。この国を呪縛する「対米従属」や「ねじれ」の問題は、どこに起源があり、どうすれば解消できるのか――。世界大戦の意味を喝破し、原子爆弾と無条件降伏の関係を明らかにすることで、敗戦国日本がかかえた矛盾の本質が浮き彫りになる。憲憲法9条の平和原則をさらに強化することにより、戦後問題を一挙に突破する行程を示す決定的論考。……

 

 日本は先の戦争で負け続け、制海権も制空権も失い、東京を始め空襲によって大都市は壊滅させられ、あげくに2度の原子爆弾で徹底的に破壊された。もう反撃力は残っていなかった。降伏は必然だった。

 先に半藤一利『日本の一番長い日』を読んで、日本の指導層の内実を知った。本書で加藤は連合国側の事情を分析する。圧倒的に攻勢だったアメリカはさらに原子爆弾実験を成功させる。アメリカは戦後の主導権を握るために必要ではなかった原子爆弾を日本に投下する。しかし、そのことはアメリカの指導層内部のみならず科学者たちや政治学者たちに深い葛藤を呼び覚ます。

 日本は降伏文書に署名し、アメリカの占領下に入る。アメリカは憲法9条を含む新憲法を与え、日本はそれを採用する。その後世界情勢が変わり、朝鮮戦争があり、冷戦が始まり、アメリカは日本に再軍備を求める。吉田茂憲法9条を盾に自衛隊の軽装備を主張する。

 先の安倍政権で大きな動きがあった。対米従属の深まりと日本会議の要求する戦前日本への回帰の動きだ。しかし、この二つは矛盾していて、両立は不可能だ。

 加藤は憲法9条の問題と世界の核兵器の問題を連動させて考える。対米従属のアメリカ軍基地の問題はフィリピンの例を参考に、外国軍隊の駐留を認めないことを憲法に書き込むように憲法を改正する。アメリカ軍の代りに国連に警察機構を持たせてそちらに紛争の解決を対応させる。それが有効になるまでは国境を侵す相手には自衛権を発揮する。

 読むのが大変だった。新書とはいえ、600ページもある。普通の新書の3冊分だ。しかも内容がきわめて濃い。そして加藤は本書出版4年後の2019年に亡くなっている。これが加藤の代表作と言い得るのではないか。

 本書によって戦後の問題点が明らかになり、理解が深まった。優れた戦後史の定番書と言えると思う。多くの人に読んでもらいたい。

 

 

 

戦後入門 (ちくま新書)

戦後入門 (ちくま新書)