橋爪大三郎『ふしぎな社会』(ちくま文庫)を読む。本書は以前『面白くて眠れなくなる社会学』(PHPエディターズ・グループ刊)としていたのをタイトルを変えて文庫化したもの。中高校生向けに書いたものだという。これが分かりやすくて面白かった。
中高校生向けの社会学の案内書というか入門書という位置づけだ。社会学がどんな学問かということを16のテーマを立てて紹介している。そのテーマは、「言語」「戦争」「憲法」「貨幣」「資本主義」「私有財産」「性」「家族」「結婚」「正義」「自由」「死」「宗教」「職業」「奴隷制とカースト制」「幸福」というものだ。
「憲法」について、
憲法は手紙です。
人民から、国にあてた手紙。その国の政府職員に向けて、こうしなさいと約束させるものです。
手紙ですから、あて先があります。そのあて先は、国王かもしれないし、大統領や首相や、その部下かもしれません。そして、差出人は、その国の人民。これが憲法です。
憲法も、広い意味では、法律です。
法律は、あらかじめルールを決めておき、人びとがそれに従うことです。
でも、一般の法律と、憲法を、ごっちゃにしないことが大事です。
一般の法律は、国が決めて、人民が守ります。人民の全員でなく、関係ある人びと(政府の職員や、特定の業界のひと)だけが守る法律もあります。警察官は、警察官職務執行法を守る、医師は、医師法を守る、などです。
憲法は、この向きが正反対です。人民が、約束を守らせる側。国(政府や議会や裁判所)が、約束を守る側です。人民が政府に言うことを聞かせるところに、憲法の本質があります。
「死」について、
これまですべてのひとは、みんな、死んできました。その人びとと自分が同等ならば、仲間ならば、自分も死ぬべきなのです。死ななかったらおかしいのです。
これまでのすべてのひとは、ある場合は不本意ながらも、あるいは喜んで、死を迎えました。あるときは水に溺れて苦しみながら、あるときはライオンに噛みつかれて痛みのさなかで、あるときは年老いて安らかに、それぞれの死を迎えたけれど、自分で死に方を選んでいるわけではありません。死にたくなくても、死ぬのがイヤでも、それでもしかたなく、平等に、みんな死んできました。
それがこの社会を生きる人びとの宿命だとすれば、自分もその宿命を受け入れて、死ぬのは正しく正当だ、公平だと、思うべきなのです。死ぬのが、最後の人間のつとめだとすれば、そこから振り返って、自分の死を、自分なりに意味づけてみる。それが自分の人生にピリオドを打つ、最後のやり方です。
巻末に読書案内が載っている。短い解説がついているけれど、解説を省いて著者と書名だけを紹介する。
大沢真幸『思考術』(河出書房新社)
小室直樹『痛快! 憲法学』(集英社インターナショナル)※のちに『日本人のための憲法原論』と改題
山田昌弘『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書)
山本七平『「空気」の研究』(文春文)