橋爪大三郎『アメリカの教会』を読む

 橋爪大三郎アメリカの教会』(光文社新書)を読む。副題が「“キリスト教国家”の歴史と本質」というもの。

 アメリカの教会は独特で、まず教会の種類が多い。それに対してヨーロッパは、ある地域にはある教会と決まっている。ウエストファリア条約(1648年)で、住民の信仰は君主の信仰と一致するべきと決められた。それで、ヨーロッパの人びとは、生まれたら、その町、その地域はどの教会であるか、だいたい決まっている。教会を自由に選ぶ習慣がない。アメリカとの大きな違いだという。

 アメリカは最初ヨーロッパの国々の植民地だった。それぞれの植民地に様々な教会が持ち込まれた。最初アメリカにも公定教会の制度があった。町や市や州が特定の教会を決めて集めた税金で費用をまかなうという制度だ。しかしアメリカは独立するとき、連邦に関しては公定教会をやめることにする。政教分離の原則だ。

 そのためアメリカでは自由に教会が作られた。様々な教会が様々な価値観を主張している。キリスト教の信仰のあり方は、アメリカの人びとのものの考え方や行動の基本になっている。アメリカを理解するためにアメリカの教会を理解することが大切なのだ。

 それで本書は教科書のようにアメリカの教会をその歴史から宗教観まで解説していく。

 そもそも宗派はささいな違いでいがみ合う。宗派間のストレスを避けるのに別々の場所に住む。この結果アメリカでは州ごと、また地域ごとに宗派の偏りがみられる。

 アメリカの人びとのおよそ半分は、メジャーな23の宗派に属している。残りは、10万人以上のメンバーをもつ75の教会、この両者でアメリカの宗教はできあがっている。その他多数の新宗教が生まれている。モルモン教エホバの証人人民寺院などのカルトなど。

 「結論」で橋爪はアメリカの特徴を世界の主だった国々の政治と宗教のあり方と比べている。

 アメリカの特徴。それは、世俗の政府+政府と無関係ないくつもの教会、の組み合わせだ。

 イングランドは、政府+国教会。ドイツは、政府+ルター派。ロシアは、政府+ロシア正教。フランスは、政府+哲学。日本は、政府+国家神道ソ連は、政府+共産党。中国は、政府+中国共産党。「政府と無関係ないくつもの教会」が組みになっている国は、どこにもない。

 

 本書は476ページもあって、普通の新書の2冊分だ。でも読みやすい。アメリカの教会についてほとんど知らなかったが、しかし大事なことがよく分かった。興味深い読書だった。