グレアム・グリーン『ジュネーヴのドクター・フィッシャー』を読む

 グレアム・グリーンジュネーヴのドクター・フィッシャー』(ハヤカワ文庫)を読む。カバーの惹句から、

スイスのチョコレート製造会社に勤務する平凡な事務員ジョーンズは、全くの偶然から30も年下のアンナ・ルイーズと知りあい、愛しあって結婚した。彼女はレマン湖畔の豪奢な邸宅で孤独な生活を送っている大富豪ドクター・フィッシャーの一人娘だった。フィッシャーは、彼にこびへつらう友人たちを辱めることで、人間の貪欲さ、醜悪な心情の探求者を自称していた。そして彼が金にあかせて催すパーティーに、富を全く欲しないジョーンズもやむなく参加するが、パーティーは次第に悪魔性を帯びてゆく……巨匠が辛辣痛切に描くブラック・コメディ!

 

 訳者の宇野利泰があとがきで、「内容はカトリックの神とこれを信じて奉仕する人々との交渉をテーマにした残酷物語である」と書いている。そのことが私には理解できなかった。また本文205ページと長篇小説というより中篇小説の分量のためか、どこか図式的で、さらに登場人物たちの戯画化が甚だしい。読んでいて鼻白むほどだ。だいたい若く美しくて大富豪の一人娘なのに、父親ほど年齢の離れたしがないサラリーマンで、しかも戦争で片腕をなくしている男に惚れて結婚したなんておとぎ話ではないか。

 グレアム・グリーンは高校の頃から好きな作家の一人で、主要な作品はたいてい読んできたが、本作は巨匠晩年の失敗作ではないかとまで思われる。『情事の終り』なんかはわが愛読書のベスト10に入るほどなのに。