馬場悠男『「顔」の進化』(講談社ブルーバックス)を読む。副題が「あなたの顔はどこからきたのか」とある。馬場は人類学者で、人類形態進化学を専門とし、ジャワ原人の発掘調査に長年取り組むとある。
まず動物の顔の進化を教えてくれる。機能が形を作っている。ウマが馬面の理由、ウマは長距離を走るために脚が非常に細長い。しかし、その長い脚に合わせて頸だけを長く伸ばして地面の草を食べるのは、重さの点で得策ではない。なぜならウマは臼歯で噛むために頬の筋肉が大きく発達しているので、顔の頸に近いところは太く重いからだ。そこで顔の口の近くを細長く伸ばして、その分、頸を短くすれば全体が軽くなる。結果として顔が長くなった、とこんな調子で解説してくれる。
ヒトの人種による違い、その理由、性別による違い、ヒトの顔の進化……と語られ、最古の日本人の顔は「アフリカ由来」と言われる。それは沖縄の港川人骨だ。馬場は港川人や縄文人、渡来系弥生人の顔を復元していく。
徳川将軍家の墓地の改葬に当たって、将軍親族の遺骨を調査する機会が与えられた。徳川第8代将軍の生母浄円院は紀州藩第2代藩主徳川光貞の側室だったが、子どもが将軍に大出世したので大奥に住むことになった。彼女は庶民と同じように顔の幅が広く骨がしっかりしていたが、なかなかの美人であったと思われる(復元図が載っている)。
第9代将軍家重の正室証明院は京都の公家の娘だが、その顔は幅が狭く華奢なつくりだ。いかにも貴族の出身という高貴な雰囲気を漂わせた美人だったと思われる(復元図が載っている)。
さらに、馬場の研究の結果として未来の日本人の顔が予測されている。コンピュータ処理したものだが、馬場は「コーンの上に丸いアイスクリームをおまけして載せたような顔」と言っている。顎が細くなっていって、短い人参のような顔だ。
人類学者の研究成果をもとに書かれているので、内容は説得力があり楽しめた。唯一の不満は表紙の顔のイラストだった。どうしても馴染めない。