苅部直『日本思想史への道案内』を読む

 苅部直『日本思想史への道案内』(NTT出版)を読む。見出しを拾うと全体の構成が見える。「日本神話」をめぐって/『神皇正統記』の思想/武士の倫理をどうとらえるか/戦国時代の「天」とキリシタン儒学と徳川社会/「古学」へのまなざし/国学思想と近代/明治維新福沢諭吉。これらのテーマを和辻哲郎丸山眞男を軸に読み解いている。
 先人の文献に対する目配りも良く、分かりやすい日本思想史概説となっている。ただ全体に狭く深いという印象がある。儒教国学に詳しいのに、仏教をもっと取り上げてもいいのではないか。日本が明治維新後急速に資本主義化=近代化を成功させた要因として、商人の合理的思想を高く評価してもよいのではないか。平田篤胤の評価が高すぎるのではないか。
 題名に反して簡略に仕上げたとの印象を拭い難い。いや、だから「道案内」なのか。
 巻末に「読書案内」の項があり、本書の見出しの章ごとにおすすめの文献が紹介されている。
 気になったのを拾うと、清水正之『日本思想全史』(ちくま新書)、山本ひろ子『中世神話』(岩波新書)、今井修編『津田左右吉歴史論集』(岩波文庫)、田尻祐一郎『こころはどう捉えられてきたか――江戸思想史散策』(平凡社新書)、佐藤雅美『知の巨人――荻生徂徠伝』(角川文庫)、吉田麻子『平田篤胤――交響する死者・生者・神々』(平凡社新書)、原武史『〈出雲〉という思想――近代日本の抹殺された神々』(講談社学術文庫)、これは読んだが名著と言えるだろう、三谷博『明治維新を考える』(岩波現代文庫)、丸山眞男(松沢弘陽編)『福沢諭吉の哲学 他六編』(岩波文庫)。
 

日本思想史への道案内

日本思想史への道案内