三橋順子『ジェンダー&セクシュアリテ論入門』を読む

 三橋順子『これからの時代を生き抜くためのジェンダー&セクシュアリテ論入門』(辰巳

出版)を読む。「これからの時代を生き抜くための」シリーズの1冊。

ジェンダーは「社会的・文化的性」、言い換えると「人間が生まれたあと後天的に身につけていく性の有り様」となる。セクシュアリテは「性欲、性的欲望」、または「性愛」、「性現象」とのこと。もっと詳しく言えば、「性的指向性的嗜好、性幻想、性的技巧」などを中心とする概念」だという。セクシュアリテで重要なことは、基本的に「性的他者」が存在すること。「性的自己」(自分)と「性的他者」の関係性がセクシュアリテなのだ。

 セクシュアリテを「正常」と「異常」に区分するのは、ユダヤキリスト教の宗教倫理観に基づく。そこでは生殖につながる性行為のみが「正常」で、ほかはすべて「異常」とされる。「正常」な行為とは、婚姻関係にある男女のペニスとヴァギナの結合による「正上位」のセックスだけ。ほかはすべて「異常」な性行為で、たとえば非婚姻関係間の性行為、正常位以外の体位によるセックス、同性愛、フェティシズム、獣姦、アナル・セックス、フェラチオ、オナニー、女性が快楽を抱くこと、女性が性的快楽を得ることなど、すべて神の教えに背く「異常」な性行為とされた。

 英語のスラングで「正上位」のことを「宣教師スタイル」というのは、キリスト教会や宣教師たちが推奨した体位だったからで、逆に、後背位は「悪魔の体位」とされた。18世紀くらいまでは、密告されたら背教行為で死刑、しかもほとんど火あぶりだった。

 現実には、性的嗜好は無数にあると言って、三橋は様々な例を挙げてみせる。いやはや凄まじい種類と内容だ。江戸時代の日本の男性は乳房に興味を持たず、代わりに「うなじ」に興奮していた!

 実は著者の三橋順子はTrans-womanで、生まれたときの性別は男だった。若い頃は新宿歌舞伎町の女装スナックなどで働いていた。だから単なるジェンダー学者の論説とは異なり、細部に対するこだわりが強く、自分の体験と絡めて微妙なところまで語っている。ジェンダーもセクシュアリテも一応知っていると思っていたが、とんでもないことだった。大変教えられた読書だった。辰巳出版もこんなに良い本を出しているんだ! もう一つ、私も「異常」に分類されてしまうことを知った。