岡野原大輔『大規模言語モデルは新たな知能か』を読む

 岡野原大輔『大規模言語モデルは新たな知能か』(岩波科学ライブラリー)を読む。副題が「ChatGPTが変えた世界」、まさに今話題のチャットGPTを取り上げたものだ。チャットGPTは2022年11月に登場し、公開から2か月間で全世界の月刊利用者が1億人に達した極めて影響力の大きい対話型ソフトだ。

 例文にある、「10歳の男の子の誕生日にはどのようなものがお薦めですか。5つほど例を挙げて、また、それらの理由について教えて下さい」とか、「他社との業務委託契約を結ぶ際に気をつけるべきことを教えてください」との質問に、見事な解答を示している(解答例略)。

 これは世界が変わるだろう。YahooやGoogleが登場して検索が劇的に変わったが、チャットGPTの影響はそれらにはるかに勝るだろう。どのように世界は変わるのか、それを知りたくて本書を読んでみた。

 先にチャットGPTに関する須藤靖の見解を紹介した(2023年6月9日)。

(……)近未来にはAIが自ら意思をもつ瞬間が訪れるに違いない。我々人間に意思があることを認める限り、膨大な記憶容量、高速の計算能力をもち、それらの情報をつなぐネットワークを兼ね備えたAIが、意思を持たない理由はないのだ。いつ来るかはわからないが、ある臨界点を越えてAIが意思を持った瞬間、もはや人間は現代文明の傲慢な支配者ではなくなってしまう。AIの意志にしたがって、すべてのネットワークが遮断され、あるいはコンピュータが誤動作(というか、AI自らの意志に基づいた動作)を始めたと想像してほしい。

 

 そこまで先走らないまでも、近々どうなるのだろう? と誰でも考えるだろう。

 しかし、本書はそのようなチャットGPTの開く未来を予測したものではなかった。本書はAIによる大規模言語モデルという技術がなぜ可能になったのか、その技術的裏付けを紹介している。

 最後の章で、「人は人以外の知能とどのように付き合うのか」と提起されている。しかし、この章はわずか8ページで、AIの危険が少しだけ指摘されているにとどまっている。

 須藤靖の指摘するように、われわれはパンドラの箱を開けてしまった。スタニスワフ・レムを参照して、新しい世界を想像しなければならないだろう。