島尾新『水墨画入門』がとても良い

 島尾新『水墨画入門』(岩波新書)がとても良い。島尾は元東京国立文化財研究所勤務。島尾についてはこのブログでも何度か紹介している。

 何かの本で水墨画については、矢代幸雄水墨画』(岩波新書)がいいと書かれていた。たしかに良い本だったが、古いのと図版が小さくて鮮明でなかったので改めて水墨画の画集を探した。
 新潮社の「美術館へ行こう」というシリーズの『水墨画と語らう』が初心者にはとても良かった。著者は東京国立文化財研究所に勤めている島尾新、1953年生まれで室町時代水墨画が専門とのこと。
 具体的な作品を紹介して、それに即して滲みとか線、筆の使い方、技法、題材、等々が語られる。同時にそれぞれの画家の特徴も解説される。見事なものだ。
 何と雪舟について、「あまりに有名なので誤解されがちなのだが、技術的には上手な絵描きではない」なんてさりげなく書かれている。
 手許に置いて何度も見たい本だ。

 

 島尾新『雪舟の「山水長巻」』(小学館)を読む。これがすばらしい。雪舟の代表作「山水長巻」だけを1冊使って詳しく紹介している。「山水長巻」は国宝の巻物で、広げると長さが約16メートルもある。山口県防府市の毛利博物館が所蔵していて、1年か2年に1回公開している。

 島尾を読むのは3冊目だが、本書も素晴らしかった。初めの3分の1くらいが墨、筆など、水墨の基本を述べている。基本なのにこれが興味深い記述になっている。水墨画の遠近法「三遠法」について図解入りで解説されている。水墨画の基本的な形式も初めて知った。
 新書の入門書なので無理だが、できれば個々の作家について詳しく、図版も豊富に使った島尾の水墨画総論のようなものを読みたい。
 最初の章「水墨画とはなにか?」に書かれている「書」についてが面白い。

 たとえば「文学」の世界でも、詩人や歌人は、自作の詩歌をまずは自らの筆で書いた。杜甫李白も、貫之や定家もそうである。文字さらに言語は、なにかを表現して伝えるためのもので、文字や言語自体が目的なわけではない。そこが飛んでしまうと、昨今の日本での一部の英語教育のように、言語そのものが目的という、訳の分からないことになる。「書」も今の「書道」は、文字の書き方に偏りがちだが、やはり自分の思いを記すもの。詩歌のレヴェルでも「筆墨」は基本的な表現手段となっていた。

 

 

水墨画入門 (岩波新書)

水墨画入門 (岩波新書)