平松洋『クリムト』を読む

 平松洋『クリムト』(角川新書)を読む。クリムトについて、カラー図版をたっぷりと使った解説書。全体の3分の2を占める150ページ近いカラーページが表すようにクリムト画集とも言えそうな豪華版だ。ただしその分文章は少ないわけだが。
 とはいえ、若いころからの画業の紹介から、黄金絵画とも呼ばれるきらびやかな作品、矩形の風景画、たくさんの女性像、晩年の様式など、本質的なことは押さえている。最後の章で「素描と習作」と題して12ページのカラーページに44点もの図版が掲載されている。「下絵と官能の線描画」とあるようにけっこう危ないデッサンも含まれている。クリムトは膨大な線描画を残していたが、「クリムトの素描は、油彩などの作品のために描かれた習作と、自らの感興のために描いたと思われる官能的な裸婦画に大別されるといえるだろう。そして後者は、前者にまして、販売も公開もされることを想定していない、画家にとって極めて私的な、日記のような存在だったのだ」と書かれている。さらに「自らの閉じられた欲望にどこまでも沈潜し、その欲望が求める官能的身体像を飽くことなく追求したものだろう」と。図版が小さいのが惜しまれる。
 使われている用紙がコート紙などアート紙系でないので発色が地味になっている。発色よりも編集者は束(本の厚み)の出ることを求めたのだろう。コート紙などは薄いので完成した本が薄く見えてしまうのだ。
 コンパクトのまとめられた良い解説書だと思う。


クリムト 官能の世界へ (角川新書)

クリムト 官能の世界へ (角川新書)