岩波書店のPR誌『図書 臨時増刊2018 はじめての新書』を読む。岩波新書創刊80年記念とある。最初に著名人15人が「はじめての新書」と題して、見開き2ページのエッセイを書いている。伊東光春、國分功一郎、丹羽宇一郎、池上彰、高橋源一郎、田中優子などだが、エッセイも面白いし取り上げている新書も興味を惹かれる。
ついで同じ題で13人が1ページのエッセイを書いている。温又柔は川村湊『戦後文学を問う』(岩波新書)がはじめて精読した新書だと書き、ジャズピアニストで数学者という中島さち子は野矢茂樹『無限論の教室』(講談社現代新書)をぜひ薦めたいという。
その後は93人の人たちにひとり3冊ずつ、はじめて新書を読む人たちにすすめる新書を紹介してもらっている。やはり丸山眞男『日本の思想』(岩波新書)を挙げる人が多い。E. H. カー『歴史とは何か』(岩波新書)も複数の人が選んでいる。鶴見良行『バナナと日本人』(岩波新書)も推す人が多かった。見田宗助『社会学入門』(岩波新書)も。
熊野純彦は師の廣松渉『哲学入門一歩前』(講談社現代新書)を挙げている。廣松の『新哲学入門』(岩波新書)もあるが、はじめて読むのであれば『〜一歩前』の方を勧めると。今野真二は清水徹『ヴァレリー』(岩波新書)を進めているが、その推薦文を読んで私も読みたくなった。
ヴァレリーの翻訳やさまざまな著作で知られている清水徹によるヴァレリー。清水徹という繊細なプリズムを通して、ヴァレリーの知性と感性が語られ、読後にはヴァレリーも清水徹も読みたくなる。
斎藤美奈子は佐藤正午『小説の読み書き』(岩波新書)を取り上げている。
『雪国』『こころ』『暗夜行路』『放浪記』。いわゆる名作文学を語って、これほどおもしろいのは法律違反じゃなかろうか。既存の読み方から解放される魔法の本。中学高校の副読本にぜひ。
高橋昌明は石母田正『平家物語』(岩波新書)について、「こんな名著は、もうあらわれない」とまで書く。
管啓次郎は川北稔『砂糖の世界史』(岩波ジュニア新書)について、
いまあるグローバル化した世界はヨーロッパが作った。その背後の最大の原動力は砂糖だった。砂糖という世界商品に着目することで見えてくる世界史のからくり。中高生から老人まで、必読の名著です。
この本は読書猿も推薦している。
最後に各社の新書編集長に、編集長がすすめる「はじめての新書」5冊を挙げてもらっている。その編集長というのは、朝日新書、インターナショナル新書、講談社現代新書、光文社新書、集英社新書、新潮新書、ちくま新書、中公新書、PHP新書、文春新書、平凡社新書の11名に岩波新書編集長だ。もっとも、現在日本には「〇〇新書」と名前の着いた新書が64種類あるそうだ。
この小冊子1冊だけで300冊以上の新書が推薦されている。わずか96ページの薄い雑誌だけれど、中身の濃い役に立つ情報が満載だ。これが非売品と表記されている。売らないのではなく無料だということだろう。書店に置いてあるのではないか。私は『図書』を定期購読しているので送られてきたのだが。お勧めです。