『中国絵画入門』はお勧め

 宇佐美文理『中国絵画入門』(岩波新書)がとても有益な読書だった。中国の水墨画はどこかで何かしら見知っているような気がして、でもきちんと見た事がなかったし、その勉強も全くしていないので、改めて考えてみるとカオスというのが印象だった。それが本書で少し整理されてきて、小さな本を1冊読んだだけでこんなに印象が変わったかと驚いた。タイトルどおりの優れた入門書だ。
 新聞の書評も、張競毎日新聞)と松山巌(読売新聞)が取り上げて(どちらも8月3日)、いずれも大変好評だ。ここでは松山巌の一部を紹介する。

 中国絵画は古くから日本画に大きな影響を及ぼした。にもかかわらず私たちは中国絵画を鑑賞する際、西洋絵画と同じく構図や立体感、主題や技法で、つまり形で捉えようとする。むろん中国でも形は大切だが、それ以上に重要な要素は〈気〉であった。
 では気とはなにか。気は目に見えるものではないが、中国人には常識の概念で、森羅万象の命に流れ、しかも絶えず変化する。春夏秋冬の気配、描かれた人物の気韻、筆墨の気合い。それらすべてが気であり、人は描線の力強さや繊細さを観て、画家の気の強さや気品まで感じとる。(後略)

 各時代の代表的な画家が紹介され、その画家の特徴が解説される。伝統の継承や新しさ、その絵の何を見たらよいか。何もしらない読者に中国絵画を見るための道筋が示されていく。山の描き方の変化の意味するものが明らかになる。
 すばらしい入門書だ。ただ一つ不満だったのは図版が小さいこと。新書という小さな本にそれを望むのは筋違いだろうが。大きな図版が掲載された中国絵画の美術書をそばに置いて、本書をもう一度読み直したい。


中国絵画入門 (岩波新書)

中国絵画入門 (岩波新書)