櫻井芳雄『まちがえる脳』を読む

 櫻井芳雄『まちがえる脳』(岩波新書)を読む。櫻井は行動神経科学、実験心理学の専門家。本書で脳の仕組みとコンピュータのそれとはまるで違うということを繰返し主張する。正常に働いているコンピュータは間違えることはないが、脳は間違えるようにできている。情報の伝達の仕組みが違うからだ。

 脳内で信号を発生し伝達している細胞がニューロンだ。ニューロンは本体部分である細胞体以外に、他のニューロンへ信号を送るための軸索と、他のニューロンから信号を受け取るための樹状突起を持つ。軸索は先端で細かく枝分かれし、それぞれの末端部(軸索終末)で他のニューロン樹状突起や細胞体へとつながるが、その接点はほんのわずか離れている。このような接合部分全体をシナプスと呼ぶ。

 ニューロンの細胞体は、主に樹状突起上のシナプスを介して他のニューロンからの信号を受け取る。しかし、その性能はきわめて悪く、信号の発生も伝達もきわめて不安定かつ非効率である。またその伝達速度もコンピュータに比べれば数百万分の1の速さしかない。さらにニューロンが発火して信号を送っても、それを受け取ったニューロンが発火する確率はわずか30回に1回程度でしかない。脳はコンピュータと違って確実な情報伝達が難しいし、間違えることも多い。しかし、間違えるからこそ、脳は新たなアイデアを創造する可能性があると櫻井は言う。

 櫻井は、AIが認識する方法は、人が認識する方法と全く異なっているという。AIが自由意思を持つことはあり得ず、常に与えられた課題や目的に向かって動くだけだと。櫻井は、人はまだ脳のことはよく分かっていない。脳を単純化して考えることは間違った理解だと。

 櫻井の主張は、脳の仕組みはコンピュータとは違う。コンピュータに脳の機能を再現させることはできないというものだ。本書は脳の機能を専門的に解説して強い説得力がある。素人が反論することは難しいと思わされる。コンピュータは人のように考えたり意思を持つことはないと説得される。

 しかし、やっぱり私は未来の世界において、コンピュータとかそれに類するものが世界を支配する時が来るのではないかと考えてしまう。根本的に別のシステムがそれを実現するのではないか。これはスタニスワフ・レム信者なら誰もが予測することだろう。レムは惑星が知性を持ったり、機械が惑星を支配したりするSFを書いたのだった。