菊地暁『民俗学入門』を読む

 菊地暁『民俗学入門』(岩波新書)を読む。タイトル通りの見事な民俗学入門書。柳田国男が始めた民俗学はどこか古臭い印象で、もう流行らない過去の学問かと漠然と思っていた。とんでもないことだった。

 本書は3つの章からなり、それぞれ3つのテーマを掲げている。第1章 暮らしのアナトミーは、きる(衣)、たべる(食)、すむ(住)、第2章 なりわいのストラテジーは、はたらく(生産・生業)、はこぶ(交通・運輸)、とりかえる(交換・交易)、第3章 つながりのデザインは、血縁、地縁、社縁となっている。

 きる(衣)では、「衣の普遍性とその起源(原論)」、「“労働集約製品“としての衣(前近代)」、「補正下着のエトセトラ(近代・現代)」として、補正下着ではブラジャーの変遷を扱っている。寄せて上げるブラを取り上げて、雑事としかいいようのない無数の行為を注視することによって、そこに至る歴史があり、そこから未来が続いているとする。

 そして取り上げたテーマごとに学生たちにアンケートを取り、きわめて現代的なエピソードを提示してみせてくれる。例えば、ある学生が帰省した際、祖母(79歳)から「テレビでやってた寄せて上げて谷間のできるブラが欲しい」と言われ、一緒に東京の某デパートの下着売り場に行った体験が紹介されている。さらにテーマごとにブックガイドが載っていて、とても参考になる。

 こんな風にすべてが極めて具体的で、面白く読めて同時に人々の暮らしの仕組みと歴史を解き明かしてくれる。民俗学という学問が私たちの生活を見直させる有用なものであることがよく分かった。