西研『ヘーゲル・大人のなりかた』を読む

 西研ヘーゲル・大人のなりかた』(NHKブックス)を読む。第1刷が1995年、もう25年前になる。翌年購入して今まで読まないで積んでいた。自分がヘーゲルを読んで来なかったことに気が付いた。岩波文庫の『小論理学』を読んだだけだったと思う。それは40年以上前、朝日カルチャーの講義で、宮川透さんの講師で1年かけて読んだのだった。その後、ほんのちょっとだけ許萬元の講義も聞いた。許萬元の著書『ヘーゲル弁証法の本質』と『認識論としての弁証法』(どちらも青木書店)は面白かった。西研を読むのは初めてだ。

 この時西は38歳と若かった。しかしこの小さな本で、ヘーゲルの思想について分かりやすく書ききっている。ルソー、カントの影響を受けて、「時代の精神」を考える。37歳で重要な著書『精神の現象学』(『精神現象学』)を発表する。西は言う、「一言でいうなら『現象学』とは、人類の精神の形成過程を追跡しようとする学問である」と。西の文章は分かりやすい。

ヘーゲルはこう考える。ある人が「これこそ正しい」と確信しているとき、そこにはその人がそう信じるにいたった経緯があるはずだ。つまり、どんな「真理」もあらかじめ存在しているわけではなく、それが形成されてきた経験を前提にしている。意見が対立しているのは、経験のプロセス(反省)が忘却されて直接性になってしまい、「俺の価値観こそまったくとうぜん」となるからだ。

  西はヘーゲル51歳の時の著作『法権利の哲学』(『法哲学』)を取り上げる。ここでヘーゲル立憲君主制を提案する。『精神現象学』で共和制を志向しているかのようだったのが、『法哲学』では国家意思の統一のため君主が要請される。議会にあまり期待していなくて信頼できる官僚層に政治はゆだねるべきだと。

 ヘーゲルの入門書としてとても分かりやすい本だと思う。さて、では今後ヘーゲルを読んでいくかといえば、ヘーゲルはこのくらいにして、西研を読んでいきたいと思った。幸い西研『哲学の練習問題』(河出文庫)が7年前に買ってあるから。

 

 

ヘーゲル・大人のなりかた (NHKブックス)

ヘーゲル・大人のなりかた (NHKブックス)

  • 作者:西 研
  • 発売日: 1995/01/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)