青柳貴史『硯の中の地球を歩く』を読む


 青�尹貴史『硯の中の地球を歩く』(左右社)を読む。青�尹は東京浅草で硯を作っている職人だ。祖父も父も硯を作っていた。その硯の魅力を自分の体験を具体的に書きながら教えてくれる。
 父の助手として中国へ石を集めに行く。深い山へ入り硯に適した石を探す。危険も多い。山賊に出会ったり、人里離れた場所で車のクラッチが壊れたり、狭い山道で対向車にサイドミラーをへし折られたり。
 中国での硯の石を探した体験から、それまでないと思われていた北海道で硯に適した採石地を探し当てたりもする。
 青�尹は硯を作るときに作家性は考えなくて銘も入れない。依頼者の使いやすい硯を作ることを心掛ける。機械はあまり使わない。時間をかけて鑿で彫っていく。硯は一面、二面と数えるが、昨年は三面作ったという。たった三面なのだ。制作に関する時間は半年かかるという。
 青�尹はふつうの人も硯で墨を磨って筆で手紙を書けば良いという。なるほど、面白そうだ。やってみようか、どうしよう。そんな気にさせられる楽しい本だ。



硯の中の地球を歩く

硯の中の地球を歩く