藤井青銅『「日本の伝統」の正体』を読む

 藤井青銅『「日本の伝統」の正体』(新潮文庫)を読む。著者は作家・脚本家・放送作家とある。仕事柄時代考証など随分していたのだろう。5年前に柏書房から出版されたものを新潮文庫から発行するのは単行本がベストセラーだったのだろう。

 こんなものが「日本の伝統」と称されてきたのかと驚くことが満載だった。

 

 正月の重箱のおせち、これについて、

 重箱は室町時代からあるが、一般庶民に広まったのは江戸時代。さらに、正月のおせちを重箱に詰めるようになったのは、幕末から明治。完全に定着したのは、戦後、デパートの販売戦略によるという。

 

 衆院での安倍首相の答弁で、「かつては大家族、2世代、3世代同居という家族がたくさんあった。その中で親から子に受け継がれた知恵や工夫、モラルがあった」という意見があった。昔は多くが3世代同居だった。それこそが伝統的な日本の家庭の姿ではないか、と。

 それに対して、藤井は大正9年1920年)と平成27年(2015年)の国勢調査を比べる。

 95年間で核家族は54%が55.9%(ほとんど変わらない)

 拡大家族(ほとんど3世代同居)は31%から9.4%へ激減

 単独世帯は6.6%から34.6%へ増加、その年齢は近年一貫して高齢化している。

 

 正座について。日本人なら畳に正座が正式な伝統という認識が普通だろうと藤井は書いて、戦国時代までの武士は胡坐、江戸時代に入って正座が増えてくる。女性も同様。正座が一般的な座り方になるのは、ようやく江戸時代中期の元禄~享保の頃だと推測されている。明治15年の娘向けマナー集に「凡そ正座は、家居の時より習ひ置くべし」とあるという。

 

 土下座について。土下座は最大級の恭順や畏敬であって謝罪ではなかった。多くの国語辞典で「土下座」が「謝罪」の意味になったのは、戦後のようだ。

 

 日本人の伝統と謳っているものが実は明治以来が多いというのがお驚きだった。

 

 

「日本の伝統」の正体(新潮文庫)

「日本の伝統」の正体(新潮文庫)