小林吉弥『田中角栄名語録 普及版』(プレジデント社)を読む。本来手に取る種類の本ではないが、コロナで入院していた折り、友人が差し入れしてくれた。ほかに活字がなかったので読んでみた。それがとても面白かった。田中角栄の政治思想や功績を取り上げているのではなく、角栄の人並外れた人心掌握術が詳しく語られている。
宴会に招待された記者たちにお土産用の包みが2つずつ渡された。一つは奥さんに持っていってやってくれと。
新潟の選挙区で角栄と争った社会党の代議士が落選し政界を引退した後、生活が厳しいと聞いた角栄は、彼の元へ毎月20万円ずつ届けさせた。最後まで角栄が出したとは知らさずに。
初対面の相手にはもらった名刺はそこそこに、じっと相手を見て顔を覚えた。後日会った時は顔を覚えて名前を呼んできた。その名前はフルネームで覚えること。また「人を叱る時はサシで、褒める時は人前でやれ」と。
「失敗はできるだけしたほうがいい。骨身に沁みる。人を見る目ができてくる」。「些細な約束こそ守れ。信用を得る第一歩だ。人脈につながる」。「男が恥を忍んで頭を下げてきたら、できるだけのことはしてやるものだ」。
信用の第一番は時間の守れる人物である事だ。時間にルーズで大成した者はいない。
角栄は高等小学校卒という低学歴だった。そこから這い上がって総理大臣にまで出世した。金権政治などと批判もされたが、自民党内で圧倒的な派閥を誇った。やはりそれは金の力だけで達成したのではなく、優れた人心掌握術があってのことだった。それがよく分かった。
私も前職時代に本書を読んでいたら、もう少し仕事ができかもしれない。