ガルリH(アッシュ)の小林絵里佳展を見る

 東京日本橋小舟町のガルリH(アッシュ)で小林絵里佳展「POOL SICKNESS」が開かれている(12月3日まで)。小林は1994年東京都生まれ、2017年に武蔵野美術大学造形学部彫刻科を卒業し、2019年に東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了している。ガルリHでは2019年以来4回目の個展となる。

 小林絵里佳の言葉。

 

ふと感じるプールサイドや更衣室に滴る水の肌触り。/人々の熱気と塩素の匂いが混ざり合い、纏わり付くような空気の中、その不快さに目が回る。/帰りのバスに乗る頃、私は吐き気を催していた。

私にとって、目地や隙間といった汚れが溜まっていく場所は、/特に触れる事を避けたい恐怖の境界線だ。/この隙間を、水質を衛生的に保つ塩素漂白剤で埋めていく事により、安心を得ようとした。/だが、プールではそれが人々と混ざり合い、/その肌触りや匂いで寧ろ安心は不快へと変質してしまう。/また、顆粒の集合体はトライポフォビア(※)の私にとっては恐怖を増長させる。/衛星と安心の存在が一転、不衛生と恐怖の象徴となってしまった。

 ※トライポフォビア=小さな穴や斑点などの集合体に対する恐怖症のこと(Wikipedia

 


 画廊の中央に大きな箱状の作品が展示されている。作品はタイルで覆われ、水滴が付いている。箱の下部はスノコが取り囲み、そこにも水滴が付いている。これらはプールをイメージしているという。水滴も本物ではない。タイルの目地には塩素系の接着剤?が使われ、そのため画廊中に微かな塩素臭が漂っている。まさにプールの臭いだ。

 タイルの造形と言えば、以前原美術館に設置されていたタイルの部屋を作ったジャン=ピエール・レイノーを思い出す。だが、レイノーアール・ブリュットないしはミニマル・アートの作家だったのに対して小林は真逆だ。ミニマル・アートは作品から意味を削ぎ落す。対して小林の作品は意味が充満している。

 プールの塩素の臭いを嫌悪するという動機からこの大きな立体作品を構想した小林絵里佳の非凡な発想が素晴らしい。平凡な発想は凡庸な作品しか生みださない。

 私は勉強不足で、トライポフォビアという概念を今回初めて知ったのだった。

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小林絵里佳展「POOL SICKNESS」

2022年11月20日(日)―12月3日(土)

12:00-19:00(最終日17:00まで)月曜休廊

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ガルリアッシュ galerie H

東京都中央区日本橋小舟町7-13東海日本橋ハイツ2F

電話03-3527-2545

https://galerie-h.jp

東京メトロ銀座線・半蔵門線 三越前駅A1・B6出口から徒歩5分