鹿島茂の『セーラー服とエッフェル塔』(文藝春秋)がおもしろい。先に読んだ丸谷才一『快楽としての読書〔日本篇〕』(ちくま文庫)に本書が推薦されている。
一見したところ軟らかい随筆をずらりと集めたやうに見える。そして事実その通りである。ビデについての考察、ペニスの長さについての説などはまさしく艶笑読物。パリの焼き鳥横丁論や紅茶vs珈琲論はいはゆる食味随筆。これは男たちが一杯やりながらの話題を満載した本で、その種のものとして第一級に属する。しかし鹿島茂は複雑な男だし、彼の書く本は常に一筋縄ではゆかない。それは多層的な構造になつてゐて、滑稽談笑の層の下に雑学的考證の層があり、その底には思考の方法を教へるアリストテレス的な層が控へてゐる。
なるほど、本当におもしろい。SMの亀甲縛りの元を米俵ではないかと考察したり、エッフェル塔やメトロポリタン美術館、自由の女神像、バッキンガム宮殿まで売り捌いた詐欺師の話。黙読の歴史は新しく、この黙読の普及によって宗教の異端学説もポルノも生まれたという珍説などなど。
丸谷が紹介しているペニスの長さの話題。鹿島はジャレド・ダイアモンドを引用して、人類のオスのペニスの長さの平均は13センチだという。
なんと人類のオスは、類人猿の共通の祖先においては4センチ弱だったペニスをじつに10センチ近くも伸ばす方向へと進化を遂げたのだ。その進化のプロセスはランナウェイ淘汰と呼ばれるものである。すなわち、まず、いささかペニスの長いオスが突然変異で生まれる。すると、それを見たメスたちはこのオスはより高い生殖能力を持つと判断するため、メスたちの人気がそのオスに集まる。すると、そのオスの遺伝子を持った子供が多く生まれる。それが何十世代も繰り返されるうちに、オスのペニスは13センチにまで達したのである。
ではなぜ13センチでストップしたのか? それ以上長いと、ペニスがメスの膣に収まらないので、長さがそこで制限されたからだという。「いくら長いのがいいといったって、限度ってものがあるわよね」という声がメスたちの間で上がり、ロング・ペニスのオスは人気を失って、逆ランナウェイ淘汰が起きたのだ。
ふーん、私が女性から聞いた話はちょっと異なる。彼女は「太さ、長さ、時間」のうち最も重視するものは何かとの問いに対して「長さ」を選んだのだ。「男の人って太さを自慢するけど、太ければいいってもんじゃないのよ。鼻の穴に人参突っ込まれて嬉しいと思う?」というのが彼女の言い分だった。「やっぱり長さよ」と言い切った彼女に、一緒にいた2人の女性も賛同したのだった。何かリアリティーのある話で説得力された。
- 作者: 鹿島茂
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/09/20
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