松浦健二『シロアリ』を読む

 松浦健二『シロアリ』(岩波書店)を読む。「岩波科学ライブラリー〈生きもの〉」シリーズの1冊。副題が「女王様、その手がありましたか!」とくだけたもの。内容も一般向けというかヤングアダルト向けのやさしい記述になっている。裏表紙の惹句は、

ここにはもうひとつの世界がある−−ベニヤ板の下のシロアリワールドに魅入られた少年は、長じてその謎に挑む。同性カップルで子づくり? 水中で1週間!? 次々と明らかになる仰天の生態。そして体力と知力を尽くして突き止めた、したたかな女王の「奥の手」とは……。(後略)

 この本を読んでいると、娘が父さんシロアリ好きだねえと言う。そうか、人はシロアリなんか好きじゃないんだとやっと気づいた。シロアリは昆虫の中でも好きなものの一つだ。毎年ヤマトシロアリのスウォーミング(結婚飛行)の時期になると落ち着かなくてそわそわしてしまう。
 でもこの著者ののめり込み方は半端ではない。学生時代、大家さんに内緒で下宿のコタツでシロアリを飼っていたというほどだ。
 ヤマトシロアリは5月頃、羽アリがいっせいに巣から飛び立つ。これがスウォームという結婚飛行だ。羽アリにはオスとメスがいて、いっせいに飛び立ったあと番(つがい=カップル)を作って新しく巣を作る。しかしほとんどの個体は蟻などに捕食されたり病気になったりして死んでしまう。新しい集団を作ることができるのはほんのわずかなカップルなのだ。でなければこの世はシロアリで溢れてしまう。
 しかし著者はオスとメスのカップルの他に、オスとオス、メスとメスのカップルが成立しているのを発見した。しかもメス同士のカップルでも卵が産まれ正常に発育している。なぜなのか?
 またオスの王は長寿で何年も生きて繁殖を続けているのに、女王の寿命は意外に短く、巣の中で分化した後継の女王(二次女王)に置き換わっている。1匹の王に対して最も多かった二次女王は676匹もいた。著者は最大のハーレムと呼んでいる。しかし、それは近親交配にならないのか? 王と二次女王は父と娘ではないか。桜庭一樹の『わたしの男』というつまらない小説を思い出してしまう。このような状況でシロアリは近親交配をどうやって回避しているのか?
 著者が「はじめに」で書いている。

昆虫の社会性についてあらかじめある程度の知識をおもちの方もいるだろう。そんな方々には、最近の研究によって見えてきたシロアリ社会の驚異の実体を大いに楽しんでほしい。

 私はシロアリについてはけっこう知っているつもりでいた。なかなかどうして知らないことばかりだった。著者も書いているとおり、シロアリの生態はほとんど知られていないが、実は本当に身近な存在なのだ。知られていない理由はシロアリが地下や建物の中に住んでいて、人間の目に触れることが少ないせいだ。数百頭かそれ以上が一斉に現れるスウォーミングもわずか1時間で終わってしまう。ときどきスウォーミングが台所や浴室など、室内で行われたときだけ、大騒ぎになることがあるけれど、私の経験では終わってしまえばほとんど誰にも知られることなく、跡形もなく消えてしまう。
 写真は数年前に遭遇したヤマトシロアリのスウォーミング。この時も私以外誰も気づかなかった。そこは天下の銀座だというのに!



シロアリ――女王様、その手がありましたか! (岩波科学ライブラリー 〈生きもの〉)

シロアリ――女王様、その手がありましたか! (岩波科学ライブラリー 〈生きもの〉)